【祝祭】 その男、色白につき

中編6
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【祝祭】 その男、色白につき

※ この話はアワード受賞したロビンМ太郎・comさまに贈ります。

ご興味の無い方はスルーをお願い致します。(*´ー`*人)

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 舞台女優になりたかった二十代の頃、私は池袋にある小さな劇団に入り、清水邦夫作の「楽屋」という芝居の稽古に励んでいた。私に与えられた役は女優D。

殺されてもなお、ベテラン女優に「その役をくれ」と迫る、メンタルの崩壊した若手女優の幽霊の役だ。

「お前は一体、なにを考えて役をやろうとしてんだ!えっ。ダメ出し以前の問題だ。セリフは噛みまくるし、他の連中にも迷惑だろ。

次に出来なかったら役を下ろすからなっ。バカヤロ。

だいたいお前、水商売やってんだろ、それじゃダメなんだよ。」

昼間の稽古で演出家に激しく怒られた。灰皿が飛んできた。私と絡む劇団員も、口汚く私を罵った。歯を食いしばった。

銀座でホステスのバイトして、何が悪いの。

稽古や公演が始まったら、収入は無くなる。アパートだって家賃を払えなければ追い出されてしまう。

男性みたく、日当一万円の土木作業は私には無理だ。

ウェイトレスもやった、皿洗いもやった。スーパーのレジ打ちもやった。色々なバイトを転々としたが、生活できなかった。

それならば、女としての若さを切り売って、沢山お金の入るホステスをやるのが効率的だと思ったのだ。お金はストックできる。

それにどっぷりと染まらなければいいのだ。

でも、そんな考えは甘かった。

銀座の空気にすっかり馴染み、私の風貌はホステスそのものとなり、お金の感覚も少しづつ、ズレてきたのがわかった。

最初の内は、ハイヒールをスニーカーに履き替え、銀座の店から勝どきにある自宅マンションまで、深夜に晴海通りを真っ直ぐに歩いて帰宅したものだ。初乗り料金600円をケチるのと、体力づ

くりを兼ねて。

しかし、やがて、どこへ行くにもタクシーを使うようになった。

 でも、今夜はどうしても歩きたかった。

頭を冷やしたかったし、客との虚しい会話の記臆も消したかったからだ。

銀座4丁目の和光時計店を左に見ながら、晴海通りを歩く。

午前2時の銀座はさすがにホステスや客の姿はなく、閑散としている。私は銀座の街を独り占めした気分になり、鼻歌も出る。

道路を挟んだ反対側には、ライトアップされた歌舞伎座が荘厳な姿で建っていた。張子人形の馬の大道具を、何人もの人たちが運び入れているのが見えた。明日の舞台の準備なのだろう。

長く続く築地市場も全部シャッターが降りている。あと何時間かしたら、セリの声が響き、賑やかになるはずだ。

そうしている内に勝どき橋が見えてきた。

橋を渡りきった交差点の向かい側に、私のワンルームがある。

丁度、橋の中程まで差しかかった辺りだった。

私は欄干に手をかけ、下に流れる隅田川の暗い川面を見つめた。

理由はわからなかったが、ある衝動に駆られるのを止められなかった。しばらく歩いていなかったのできっと疲れていたのだと思う。

いや。

そうじゃない。その時

私は何か、わからない力で川に引き込まれようとしていたのだった。

すると、後ろの方からスーっと、音もなく一台のタクシーがやって来て、私の横に止まった。

運転席の窓が開き、中から男がぬっと顔を出した。

「ねぇさん。それはいけませんよ。川の水、まだ冷たいっすよ。泳ぐ季節じゃありませんぜ。・・ひひ・・」

私は「ぎゃー」と叫び、のけぞるように欄干から手を離した。

そのタクシー運転手の顔を見てしまった。

この世のものとは思えないくらいの白い顔。敢えて表現すれば、便器のような白さだった。しかも目があるべき場所には、真っ黒な空洞が大きく二つ空いていた。

口があったかどうか、印象にない。

私は幽霊を見たと思い、へなへなと座り込んでしまった。

その後、舞台は成功し、私の幽霊役は褒められた。リアリティがあると言われた。しかし女優Dと同化した私のメンタルはすでに崩壊していた。

程なく、劇団も銀座もやめた。

‥‥‥‥‥‥

 あれから何年経つだろう。

長年の不摂生がたたり、身体に異変を感じ、診てもらったところ

「肺の腫瘍」と診断された。医師の顔色を見ただけで判った。

「そんなに長くはない」と。

不思議と驚きはしなかったし嘆きもなかった。

只、その日は部屋に帰りたくなかった。誰もいない部屋は嫌だった。

夜遅くまで、新宿歌舞伎町をほっつき歩き、二丁目の知り合いの店をはしごし、気がつけば午後11時を回っていた。

その時、私は唐突に

「高尾山に行きたい」と思った。

高尾山にはしあわせな想い出がある。日の出と同時に登ろうと思った。今夜は近くの漫画喫茶にでも泊まろう。どこでもいい。

この漆黒の夜さえくぐり抜けることができれば、なんとかなるはず。

そう考えた。

京王線はこの時刻、動いていたが、電車に乗るのは面倒くさかった。

財布にはまだ3万円が残っている。

東口で、ためらいなく手を挙げ、タクシーを呼んだ。

「こまどり交通」と書かれた提灯を屋根に乗っけたタクシーがやって来た。

後部ドアがバタムと開き、私はシートにゴロンと転がるように

乗り込んだ。

・・・

「どちらまで?」

「高尾山まで行ってください」

「高尾山?」

「そう。お金なら3万あるわ。足りるでしょ」

「・・・でも今頃行っても」

「もちろん、登るのは朝よ」

「・・・」

「・・・」

「お客さん、失礼ですが、なんかワケがおありのようですね」

「わかる?東京は元気な時は楽しい街だけど、しょぼくれた時はメチャメチャ寂しい街よね。 あはっ。私ったら酔っ払ったかな」

「わかりますよ、お客さん。自分もそう思いますから」

ゴホ、ゴホ・・。ぷっひぃーっ

運転手は咳と同時に、あろうことか放屁した。

「スミマセン。朝から、その、腹具合が良くなくて」

チョット、勘弁してよ運転手さん! しかもこんな密室で。

なんてこと!?もう最低。理不尽で絶望的な怒りがこみ上げてきた。

「ん?でも臭くない」

何故か不思議と、白檀の上品な香りが車内いっぱいに広がった。

高級な線香の香りに似ていた。

「スミマセン、お客さん。申し訳ないです。一応車内は禁煙となってますが、お詫びの印にこれ吸ってください」

そう言うと、運転手は背中越しに一本のタバコとライターを差し出した。

「ありがと」

私はもらったタバコに火を点け、深く吸い込んだ。

「くっさーっ!」

そのタバコは有機質系で、強烈な屁の匂いがした。

運転手が背中でかすかに・・ひひ・・と笑ったように見えた。

シートの灰皿で思いっきりもみ消し捨てた。

「ゲッ。ぺっ。」私は手で口を拭った。

「お客さん、タバコお口に合いませんでしたか?」

「いいの。いいんです。」

しばらく気まずい沈黙が続いたまま、タクシーは中央高速を走っていた。

日付が変わり、ダッシュボードのデジタル時計がカチャリと12:00を表示した。

そこで私は初めてこの運転手の名前を確認した。横にある ネーム表示ボードに「駒鳥 万太郎」とあった。

そしてデジタル時計が12:00になったと同時にネーム表示が

黒色から金色表示に変わったのだ。

「運転手さん。今、お名前の色が金色にかわったみたいなんですけど、なんか意味があるのですか?」

「あ、これ? そういう仕組みになってるんですよ」

「へぇ」そんなもんかと思った。

「で、お客さん、お客さんは高尾山に行くべきじゃありませんよ」

「えっ、どうして」

「お客さんはもっと別に行くところがあるはずです」

「・・・?」

「天国か、こわばな国。この二つの選択しかありませんね」

「こわばな国?なにそれ」

「おっかない花が咲き乱れる国です。 さあ、  どれにします?どこでもお付き合いいたしますよ・・ひひ・・」そう言った途端、運転手は体を正面にむけたまま、くるりと

首だけ180度後部座席に向けて私を見た。

「ヒーっ。こわ、こわっ、こわ、こわ、」

「こわばな国ですね。かしこまりました・ひ・・」

運転手はアクセルを強く踏んだ。

まるで滑走路と化した中央フリーウェイをタクシーは滑り、夜空に流星のように消えてしまった。

二度と戻ることはなかった。

・・・

・・・

便器のような色白の顔に、黒い穴だけの二つの目。

あの時の運転手だった。

・・・

こまどり交通

運転手の名は 駒鳥 万太郎  別の名を ロビンМ太郎.com

心の暗闇に忍び寄る、色白の男。

この運転手のタクシーが音も無く近づいて来たら気をつけテ・・ひ・

【了】

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Concrete
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番長さま♪。.:*・゜
来てくれたんですね! その後足の具合はどうですか?
大変な時だというのに・・・ありがとうございます("Ü")
今度、お邪魔させていいただきますね♡

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ピノさま♪。.:*・゜ お久しぶりです。嬉しいです(*´ω`*)
そうなんですか、ピノさんも。私と同じですね。
ロビンさまの作品「その男、逃亡中につき」がどうしても、頭にこびりついていて・・・(笑)
ありがとうございました(=^0^=)

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吉井さま。ありがとうございます♪。.:*・゜
すごく悩んだ末の例えなんです(^_^;)。鳥のフンのような白さ。とか。ティッシュペーパーのような白さとか・・。
ロビンさまの懐の深さに甘えてしまいました。

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あんみつ姫さま♪。.:*・゜
ご無沙汰してました。体調がすぐれないとのことで心配してました。
お元気になられて本当によかったです(*^_^*)
心に染み入るコメント、感激しました。そして感謝の気持ちで一杯です。
 フリーズドライした記臆や思い出にお湯かけて、醤油やだしの素入れてなんとか食べ物っぽくしてる。
そんなふうに思えてなりません。
これから、もっと寒くなります。くれぐれもご無理なさらないように(*´ー`*人)
ありがとうございました。(^O^)
あ、トップバッターはマガツヒさんです♡

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みぃねこさん♪。.:*・゜
読んでいただき、コメントうれしいです(*゚▽゚*)
もう、木があれば、登っちゃいますよ(笑)
ユーミンも潜ませておきました(^┰^;)ゞ 
ありがとうございましたo(^o^)o

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はる様♪。.:*・゜
なんぼ、禁煙ガムだ、パッチだ、禁煙外来だと言っても、あれは、ダメでした。
去年全部試して、失敗しました。もう別にいいや。って感じです。
でも「おなら臭いタバコ」。これなら禁煙できるかも・・。
ヒット商品になるかもです。(笑) ありがとうございました(*゚▽゚*)

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パグ太郎さま。
ありがとうございます(=^0^=)
やっぱりそうですよね。そう思ってました。
十中八九、そうですよ。(笑)

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mamiさま♪。.:*・゜
ありがとうございます。
おっしゃる通りです。ちょっとおしゃれにまとめてみました。((^┰^))ゞ テヘヘ
お祭りのヒーローということで。。。

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よもつさま♪。.:*・゜
師と仰ぐよもつ様が、私の作でニヤニヤされたとのこと。身に余る光栄です。
今夜は眠れません。
皆さんの作品、読みまくります。
ありがとうございました。(*゚▽゚*)

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沙羅さん。♪。.:*・゜ありがとうございます。
お身体の調子は大丈夫ですか? 
日常でも、げーっと鼻がもげるくらいの匂いの香水つけてるオバさんとかいますよね。
特にエレベーター内とか最悪。
自身は良いと思っていても、みんな感覚違うし、ある意味、公害ですよね。

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鏡水花さん。♪。.:*・゜身に余るお褒めのコメント。嬉しすぎます。
前に「トップバッターは誰でしょうね」なんて言っておきながら、12時過ぎてもまだ誰も始めてなくて、待ちきれなくなって、まさか私が・・・。なんて思いつつ、ポチポチしていたら、マガツヒさんのがあるではありませんか!
よっしゃぁ。と投稿ボタン押した途端、魔の睡魔に襲われ、そのままばたんきゅ〜となりました。
楽しくて、呼んで頂いて、感謝してます。ありがとうございました(*゚▽゚*)

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ロビンさま。
お読み頂き、嬉しゅうございます。
私としたことが、チョッち、お下劣系となってしもうたことをお許しくださいませ。ついつい地金がでてしまいました。
この度は、とにもかくにも嬉しくて、我を忘れてしまいました。
次回はまた、ロビン様の作品で腹筋割らせてくださいね。(*´ω`*)

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まりかさん♪。.:*・゜ありがとうございます(*´∀`)♪ 
そのように言ってもらえて、嬉しいです。
今度私と一緒に怖ばな読みながら、チューハイ同時刻飲みしましょうね(*´ω`*)3本くらい。

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