中編6
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幽霊道路

今回のお話は前回の話から少し経過した一年で一番日が長い頃のことだったと思います。

その日、昼休みに仕事場の一角で人だかりができていたので、行ってみると職場の先輩がノートパソコンで車の走行中に撮影した映像を流していました。

その先輩は元暴走族だったというのですが、雰囲気は穏やかで後輩の面倒見も良く、私も彼の経歴を聞いたときはびっくりしたのを覚えています。

しかし、見た目は変わったとは言え、先輩の趣味は愛車での山道走行でそのあたりはさすが元暴走族という感じでした。

そして、その山道走行中に撮影した映像に職場の人間が集まっていました。

何かと思い聞いてみると今回先輩が撮った映像の中に幽霊らしきものが写っているということでした。

それを聞いて私も興味を持ち、その映像を見せてもらいました。

映像自体は夜間の高速走行だったので、最初に見せてもらった時にはよくわからなかったのですが、映像を問題の場面で止めてもらうと、確かに山道の右脇に赤っぽい服を着た女の子が横を向いて体育座りをしている映像が映っていました。

先輩は最初気づいていなかったようなのですが、職場の同僚に映像を見せているときにその中の一人が女の子に気が付いて、幽霊じゃないのか、と騒ぎ始めたようでした。

それを見た他の人たちは、何か違うものが女の子みたいに見えているのではとか、本当にそこに地元の女の子が座ってたんじゃないと口々に意見を言っていました。

誰かが映像の場所を先輩に聞いたところ、先輩が口にしたのは県内でも有名ないわゆる心霊スポットの道路でした。

その名前を聞いて、皆口々にじゃあ本物かなあと騒ぎ始めました。

しかし、当の先輩は

「確かに俺もこの道の変な噂は聞くけど、十年近く走っててそういうのは見たことないんだけどなあ」

と、まだこの映像に映っている少女が幽霊かどうか半信半疑の様子でした。

私はこういう時こそ、いわゆる霊感のある黒川さんの出番だと思い、彼女を探したのですが・・・いません。

そして職場の行き先ボードを見て思い出しました。

彼女はその日課長と一緒に販売協議会という名の取引先との接待旅行に行くと言っていました。

行き先は県内の温泉ホテルで一泊二日の泊まりです。

仕様がないので、私は先輩に問題の場面の画像を一枚私の携帯に送って欲しいとお願いしました。

先輩がこんなものどうするんだよと当然のごとく聞いてきたので、黒川さんに見てもらうと言ったのですが

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「えっ、黒川さんに? う、う~ん別にいいけど」

なぜか先輩の表情が渋くなりました。

結局、画像は送ってくれましたが、私はなぜ先輩が黒川さんに画像を見せるのを渋ったのかわかりませんでした。

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その日の夕方、終業時間直前に課長から連絡がありました。

同行している黒川さんが明日の朝にどうしても外せない打ち合わせが入ったので、夜の宴会の一次会が終わるタイミングで彼女を迎えに来て欲しいということでした。

確かに県内とはいえ、タクシーを使うよりは交通費を支給して誰かに迎えに来させるほうが遥かに割安の距離でした。

そして、その役割に私が選ばれたのは年の一番近い先輩の一人ということで、この彼女が私の教育係になっていたためでした。

私は少々時間を潰しながら、指定された時間にホテルに到着しました。

課長の携帯に連絡すると、しばらくして課長と黒川さんがロビーから外に出てきました。

彼女を助手席に乗せ、ホテルを出発しました。

彼女は宴会後なので少し酔ってる様子で、ぐったりとシートにもたれかかりました。

「悪かったわね、急に迎えに来てもらって・・・晩ご飯はもう食べた?」

「あ、まだです」

「じゃあ、私がおごってあげるからご飯食べに行きましょう」

「え、黒川さんは宴会で食べてないんですか?」

「お酌に回ってるばっかりでほとんど食べてないのよ、こんな美人のお姉さんと一緒に食事にいけるんだから嬉しいでしょ」

黒川さんは美人ではありますが、それを鼻にかけるような性格ではなかったので、明らかに女性付き合いの少ない私に対するからかいの意味を込めた言葉でした。

実際、この時の私は緊張してしまい、何を話していいか心の中は混乱していました。

そこで私は昼間に送ってもらった幽霊画像のことを早速聞いてみようと思いました。

そして、くだんの幽霊道路も遠回りではありますが、今通っている帰り道の近くでした。

「そういえば黒川さん、この近くにある幽霊が出るっていう噂の道路があるの知ってますか?」

「・・・知ってるけど、それがどうしたの?」

「いえ、実はそこで撮れた変な画像が手に入りまして」

私はその緊張した場を繋ぐ意味も込めて黒川さんに運転しながら、携帯を取り出して例の画像を出して手渡しました。

その時でした、車のエンジンがいきなりストップしました。

私は急なエンストに慌てながらもなんとか道の端の方に車を動かして止めました。

どうしたのかなと思いもう一度エンジンをかけようとしましたが、エンジンはうまくかかりません。

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「・・・やばい」

黒川さんが私の携帯画像を見ながらつぶやくのと同時に私は前方の景色がおかしいことに気がつきました。

色がないのです。

もちろん夜の山道なので、ほとんど色など見えないのですが、前方の景色がまるでモノクロテレビのように灰色一色でした。

どうなっているのかと思考が止まっていると、前方の道路に突然色が現れました。

赤色の服、その服は見覚えがありました。

先輩の動画に映っていたあの少女でした。

少女はゆらゆらと左右に揺れながら車の方に近づいてきます。

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「あんた、なんでこんなもの持ってきたの!」

携帯を握りしめながら黒川さんは叫びました。

「え、え?」

私は訳も分からずうろたえるばかりでしたが、そうしている間に少女は車のボンネットに手をついて運転席に登ってこようとしていました。

少女の顔はまるで泥を貼り付けたように灰色にただれています、その姿に私は情けない声を上げて、逃げようとしましたが体がなぜかほとんど動きません。

首をねじって助手席を見ると、黒川さんは少女に向かって右手の人差し指と中指を立てて、何か言葉を口にしながら素早く指を縦と横に動かしていました。

私は呆然とその光景を眺めていたのですが、指の動きが止まると、黒川さんは私のほうを向き、早く出してと叫びました。

その言葉で私が前方に向き直ると先程まで運転席に迫っていた少女が消えています。

景色にも色が戻っていました。

「え、あれ?」

「いいから、早くここから離れて!」

彼女に再び促されて、エンジンをかけてみるとスムーズにかかり、すぐに発進しました。

ある程度の距離を走ってから、もう大丈夫と判断したのか、黒川さんがもう一度怒鳴りましした。

「なんでこんなもの持ってきたのよ!」

「さ、さっきのはいったい?」

わたしはまだ放心状態で彼女の質問に答えられず、質問に質問で返してしまいました。

「・・・シャレにならない悪霊」

黒川さんは私の様子に呆れながらつぶやくように答えてくれました。

「・・・やっぱりさっきの女の子は画像に写っていた女の子ですか?」

「そうよ、あんなやばいの、地縛霊ですぐに消去できる携帯画像でなかったら・・・多分私では追い払えなかったわよ」

そう言うと、黒川さんは携帯を返してきました。

くだんの少女の画像は消去されていました。

その気配からとんでもなく危険なものということは感じることができましたが、なぜ撮影場所からも離れているのにそんなものが私たちの前に現れたのかを尋ねました。

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「あんたの思いとさっきの携帯画像に引き寄せられてきたのよ」

「・・・画像はともかくとして、僕の思いっていうのはどういうことですか?」

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「あんたの幽霊や心霊スポットに対する好奇心に引き寄せられたの! 幽霊を見に来た奴が幽霊を見るということよ!」

しんどそうに彼女は吐き捨てました。

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後日、先輩にこのことを話した際に聞いたのですが、黒川さんは霊感があるといっても心霊スポットなどに近づいたりすることはむしろ避けているそうでした。

心霊に関する相談も、ごく身近な人間の場合だけで、進んで行っているわけではないそうです。

先輩が例の画像を彼女に見せるのを渋ったわけでした。

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「あ~、あんたのせいでさらに疲れたわ、迷惑かけたんだから、晩ご飯おごりなさいよ」

おごる関係が逆になりましたが、快く晩ご飯代は払わせていただきました。

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あんみつ姫様
基本的にエピソードナンバー順の時系列になっております・・・今のところは。
今後も基本はそうしたいのですが、いつまでそうなるかは不明です。
1の「ストーカー相談」が就職したての4月、2の「親友との再会」が1か月後の5月、
そして3の「幽霊道路」が一年で一番日の長い月で6月、4の「恋する魂」は「幽霊道路」のすぐ後になります。

こんなにもお褒めの言葉を頂いてもう感激で頭が真っ白です。
次話からもご期待に沿えるよう頑張ります。

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鏡水花様
再びの怖いとコメントありがとうございます。
黒川先輩のカッコよさと二人のやり取りのご感想をいただけて本当にうれしいです。

肝試しは彼女が嫌いなので、おそらくシチュエーションとしては今後ほとんどないと思いますが、
何気ない日常に潜む暗闇を描ければなあと思っています。

mami様
今回も怖いとコメントありがとうございます。
お読みいただいた方から、お前何やってるんだよ!と
絶叫される空気読めなさ感も彼の持ち味と思っていただければ・・・
出来の悪い弟を見守るような大らかな心持ちでよろしくお願いします。

次回も楽しんでいただけるよう頑張ります。

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ロビン先生、怖い、ご感想ありがとうございます。
私も先生の作品に時々入る怖いながらも読者の笑いを誘う構成はとても大好きで真似したいと思っているのですが、とても難しいです。

今、このサイトで様々な作者さんの作品を読むことができてすごく楽しいです。
もっと早くここを知りたかったですよ。

ゆったりとした雰囲気から一転、決して大袈裟では無くとも言葉一つ一つのチョイスが恐ろしく、余韻が残ります…ひ…

やはり先生の怪談は勉強になります( ´ ▽ ` )ノ

のりたま子様
ご感想本当にありがとうございます。
場面の描写はまだまだ未熟ですが、これからも頑張ります。

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