中編4
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恋する魂

今回の話は前回の「幽霊道路」の話のすぐ後のお話です。

あの夜、私達は幽霊道路の地縛霊に襲われたあと、職場の黒川先輩と晩御飯を食べに行ったのですが、彼女はレストランを出ると、珈琲が飲みたいから次のお店に行こうと言いました。

私は彼女の言葉に従い、彼女行きつけのカフェに向かいました。

すると、その道中で彼女の携帯に着信がありました。

話を横で聞いているとどうも電話の相手は彼女の妹さんらしく、話の流れで妹さんもそのカフェに来ることになりました。

先にお店に着いて、中で珈琲を飲んでいると、妹さんと思われる女性が入ってきました。

「あ、美弥、こっちよ」

黒川さんは妹さんの名前を呼んで自分達の席に招き寄せます。

「こんばんは、お姉ちゃんの職場の方ですか? いつもお姉ちゃんがお世話になっています」

黒川さんの妹の美弥さんは明るく挨拶してくれました。

「お世話しているのは私だけどね」

顔は姉妹だけあって黒川さんにそっくりなのですが、小柄で髪も黒髪のお姉さんと違い、淡く茶色に染めてふんわりとしたかわいい感じでした。

私は思わず美人姉妹!と心の中で驚いていました。

「あの、黒川さん」

「なに? はい?」

二人が同時に返事をしました。

そうでした、二人とも黒川さんでした。

「あ、ええと、じゃあ瑞季さん」

「・・・あんたに下の名前で呼ばれるとなんだかむず痒いわね」

どうしろというのだろうと思いましたが、あらためて聞くと美弥さんの職業は看護師さんでちょうど仕事帰りということでした。

後で確認したのですが、美弥さんもいわゆる霊感のある人で、瑞季さん曰く霊的なものを感じとる力なら自分より上だそうです。

「そうそう、お姉ちゃん、わたしこの前の夜勤ですごいもの見ちゃった」

美弥さんが話を始めました。

私は彼女が本当に嬉しそうに話し出すので、興味を持って聞きました。

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その日の夜勤で彼女は病棟を巡回していたのですが、ある部屋の前で話し声が聞こえてきました。

その部屋の患者は翌日に手術を控えており、彼女は最初眠れなくて家族の人と携帯電話で話をしているのかなと思ったのですが、よく考えると患者は60代後半のおばあさんで、普段も携帯電話を扱っている様子はありませんでした。

病室の中は明かりもついておらず、誰と話しているのだろうと不思議に感じました。

気になった彼女はそっと部屋の中の患者のベッドを覗いてみました。

するとその患者の女性はベッドから起き上がり、ベッドの横に座っている男性と話をしていました。

お洒落な着こなしをした40代ぐらいの男性でした。

こんな時間に家族の面会があるわけはなく、その服装から他の患者さんでもありませんでした。

彼女はその男性がすぐに生きている人間ではないと感じ取りましたが、全く良からぬ感じはせず、むしろ優しい雰囲気に包まれていました。

しかし、彼女がさらに驚いたのは患者のベッドにはおばあさんではなく若い女性がいたことです。

その女性は嬉しそうに横の男性と話をしていました。

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「私もすっかり年を取って、大きくなった孫を抱っこするのも大変なんですよ」

声や顔の作りから間違いなくその部屋の患者のおばあさんなのですが、どう見ても30代ぐらいの若い女性にしか見えません。

不可思議な感じがしましたが、邪魔してはいけないと思い彼女は部屋の戸を閉めてまた巡回に戻りました。

翌朝、手術前に例のおばあさんのところに行くと、にこにこしているので、彼女はおばあさんに話しかけました。

するとおばあさんは昨晩亡くなった主人が励ましに来てくれたと嬉しそうに話し、旦那は早くに死んじゃったから自分はその分まで長く生きないといけないねと元気を出していました。

そしてその日のおばあさんの手術は無事成功しました。

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そこまで話して、美弥さんは

「たぶん死んだご主人に会って、生命力に溢れたんじゃないかなあ」

美弥さんはその心の充実を感じたと言いたそうでした。

「やっぱり恋をしなきゃダメってことよ、お姉ちゃん」

興味深げに美弥さんの話を聞いていた瑞季さんでしたが

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「・・・でも美弥は彼氏いたことないじゃない」

その言葉を聞いて、私は驚きで珈琲を吹き出しかけました。

「だ、だから頑張ろうって言ってるんでしょ」

こんなに可愛い人でも彼氏がいないというのはミステリーです。

ただの偶然なのか、それとも何か秘密があるのか、私は少し好奇心が湧きました。

「美弥さんぐらい綺麗な人だったら、言い寄ってくる人は多いんじゃないですか?」

「あら、ありがとうございます、でも言い寄って来る人はちょっとその・・・体目当ての思いがほとんどで、気持ち悪くて」

「・・・? 思いが気持ち悪い?」

意味の分かりにくい言葉でしたが、そのままの意味で取ると彼女は相手からの劣情などを鋭敏に感じ取ってしまうということでしょうか。

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「だめ、だめ、美弥は感度が強すぎて、『君かわいいね』が『お前と一発ヤリたい』に聞こえるんだもの」

「そ、そこまでひどくないわよ。それに私、彼氏は真面目に慎重に選びたいもの」

二人のやり取りを聞いていて、美弥さんの気持ちいいほどの心地よい受け答えは周りからの良くない思いを敏感に感じ取ってしまう彼女にとっての処世術として身についたのかなとぼんやりと感じてしまいました。

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あんみつ姫様
私も歳を重ねるにつれ、亡くなった身近な人間の視線を感じる出来事を経験することが多くなっています。

私なりに解釈する域にも到底達していないのですが、そういう世界に関する思いは強くなっている気がします。
こんな私のお話でもあんみつ姫様の日々の活力になったのであれば何よりの幸せです。

鏡水花様と同じくご自分の価値のあるお話をいただきありがとうございました。

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鏡水花様
今回も怖いとコメント感謝します。
続けて教えていただいたエピソード・・・甚だ感傷的な気持ちになりました。

私も家族や身近な人の虫の知らせと思われる経験は幾度かあるのですが
鏡水花様と同様に確かな確証は持ててはいないのです。
けれどもそんな出来事に何か特別な意味を思いめぐらせてしまう
それがこの世のいわゆる「怖い話」の魅せられてしまうところなのだと思います。

鮮やかでそして可憐なお話でした、ありがとうございます。

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ロビン先生
なるほど、ハートの文字化けでしたか。
実は私スマホを持っておりませんで、このサイトへの接続はもっぱらノートパソコンです。

すいません、冗談ではなく現代機器に弱い私ですので、ご容赦ください。
また、何かわからないことがありましたら、ご迷惑でなければよろしくお願いします。

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ロビン先生
患者と医師からのセクハラまがいの言動に芯から堪えながらも
笑顔を振りまく彼女はまさに白衣の天使です。

そんなストレスフルな彼女のお話をまた書いてナース分を補給したいと思っています。

それとロビン先生のコメントの最後に□(四角)の表示があるのですが、これはもしかして私のパソコンでうまく表示できていない画像かリンクか何かでしょうか?
すいません、なんでもなければよいのですが、このサイトのことがまだよくわかっていなくてもしやと思いまして。

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