中編5
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自分の価値

僕は甘いものが好きで

休日にはスイーツを食べ歩く

スイーツ男子だ

友達はいい加減呆れているが

お気に入りの店で

新作スイーツが出たのを知ると

居ても立っても居られない

今日は一番のお気に入りの店で

秋限定のスイーツが発売される

ちょうど仕事が休みでラッキーだった

店に着いた頃には

すでに並んでいる人達がいた

人が並んでいることで

期待感はさらに高まり

早く食べたいと思いながら

どんな味なのかと想像する時間は

至福の時だ

突然僕の後ろにいた

若い女性がしゃがみこんだので

声をかけた

『大丈夫ですか?』

今はもうそれほど暑くもない

病気なのか?

『…すいません ちょっとめまいが…』

『体調が悪いのですか?』

『本当、大丈夫です ごめんなさい』

そう言われても

苦しそうにしていると気になる

じゃないか

『今日は何を買いに来たのですか?』

僕はまた彼女に話しかけた

何かの病気なのかとも思ったが

病気だとしても

ここへ一人で来るぐらいだから

そう重い病気ではないだろうし

話してるほうが気がまぎれる

と思ったからだ

『限定品を買いに来ました』

『僕もです あれはやっぱり食べておかないとね』

男の僕がスイーツ好きなんて

おかしく感じたのか彼女は笑った

その後も僕はスイーツ愛を語り

彼女を笑わせた

店が開店して

僕らは目当てのものを買って

それぞれ帰った

数日後、僕はまた

あの限定スイーツが食べたくて

会社帰りに店に立ち寄った

嬉しい偶然だ

彼女もあの限定スイーツが気に入り

また買いに来ていたのだ

僕は一か八か

彼女に店内で飲食しないかと

聞いてみた

彼女は快くその誘いにのってくれて

また二人はスイーツの話しで

盛り上がった

彼女は美味しいスイーツ店を

僕よりもたくさん知っていた

しかもそれはかなりレアな情報

やはり女の子のネットワークは凄い

彼女の情報の中に

どうしても食べたいスイーツがあり

僕はそれを詳しく聞いた

彼女はまた真剣に話す僕に笑いながら

『それじゃあ今度一緒に行きましょうか?』

と言った

もちろんスイーツも食べたかったが

彼女とまた会えることが嬉しくて

喜びを必死に隠しながら

僕は彼女と食べに行く約束をした

彼女といるととても楽しい

スイーツ好きな彼女となら

楽しくデートできるだろうな…

自分の彼女でもないのに

僕はそんなことを想像して

彼女と会う日を待ちわびた

彼女が連れて行ってくれた店を

僕はとても気に入った

彼女にもそう伝えると

とても喜んでくれて

また違うレアな情報をくれた

僕らはまたその店に

一緒に行くことを約束して別れた

その日からスイーツのことよりも

彼女に会えることが楽しみになった

スイーツも彼女と食べるから

いつもの何倍も

美味しいのかもしれないと思え

彼女のことが頭から離れなくなった…

彼女と会うのも今日で3回目

ひょっとしたらこれで

彼女のレアな情報がなくなり

会えなくなるかもしれない

これは告白しなきゃだ

僕はそう決心して

待ち合わせ場所に向かった

彼女は僕を見つけると

いつものようににこやかに手を振る

僕は彼女の前に着くと

『僕と付き合ってください!』

いきなり告白した

心臓が破裂する!早く答えをくれ!

彼女の答えが聞けるまで

とても長い時間に感じた

そして、彼女は

恥ずかしそうに言った

『よろしくお願いします』

それからの僕らは週末

スイーツの食べ歩きをし

僕の部屋で楽しく過ごした

そうあの頃は確かに楽しかったんだ…

彼女は時間が経つにつれ

僕の部屋を自分好みに変え

僕の洋服の趣味を自分好みに変え

僕の部屋に住むようになった

食事の管理をするようになると

体に悪いものは食べさせたくない

という理由から冷蔵庫には

僕の好きな食べ物が消えた

毎週食べに行ってたスイーツも

食べ過ぎは体に悪いと

今では月に一度に減らされる始末

僕はだんだん彼女に管理されることに

苦痛を感じ始めた

それを彼女に告げると

彼女はひどく落ち込むし

その状態に僕も嫌気がさし

結局は我慢することになる

そしてまた不満が爆発するの繰り返し

『楽しくないよ…

前はあんなに楽しかったのに

どうして僕を管理するんだ?

僕は君の子供でもないし!

おもちゃでもない!僕は僕なんだ!』

『あなた、私を頼りにしてるって言ったじゃない?』

『頼りにしてるって…それは

スイーツの情報を僕より知ってるからだよ

それ以外のことは自分で出来る

君に管理されなくても大丈夫だ!

君には僕のことばかりに

時間を費やすより

君自身のためになる時間を

過ごしてほしいと思ってるんだ』

『私はあなたに

必要とされる毎日がとても楽しいわ

あなたが必要としてくれることで

私は生きていけるのよ』

らちがあかないとはこのことか…

僕には彼女の言ってることがわからない

相変わらず彼女は僕に尽くす

皮肉なことに最近体調が悪く

すっかりお世話になっている状態だ

原因不明の吐き気と下痢で

体力はどんどん落ちていく

仕事に行くことも無理になり

僕は入院をした

彼女は毎日病院に来てくれる

心配してのことだと思っていたが

僕の目にはなぜだか彼女が

生き生きしてるように見える

ある日担当の医師が

彼女に何か食べさせられているのか?

と聞いてきた

彼女は毎日

病院食だけじゃ物足りないからと

何かしら食べ物を持ってくる

僕もそれを言われるままに食べていた

彼女は自分の存在価値を

他人から必要とされることでしか

見出せない人だった

そのためなら

どんな手段でも取ろうとする

愛するものや自分を犠牲にしてさえも

毎日病院に来て僕の世話を焼く彼女を

見る人は彼女のことを良い人だと言う

彼女はそう言われることで

自分の存在価値を得られる

ある時期から僕が彼女のことを

拒絶し始めたことで

彼女は食事に薬品を混ぜ

僕を病気にした

それは体が弱った僕が

また彼女を必要とすると

思い込んでいたからだ

幸い薬品の量が少なく後遺症もない

医師が彼女の異常さに気づかなければ

僕は今頃どうなっていただろう…

『先生いろいろとありがとうございました』

先生の紹介で彼女は

違う土地の専門の医療機関で

治療をしているらしい

『いいえ、医師として

当たり前のことをしただけです

いつでも頼りにしてくださいね』

僕は退院して

久しぶりに我が家へ戻った

玄関の鍵を開けようとしたら

『…開いてる?』

玄関には鍵がかかっておらず

女物の靴があった

まさか彼女が?!

僕は恐る恐るリビングのドアを開けた

そこは以前の部屋とは

家具もカーテンも…

全てが変わっていた

『おかえりなさい ご飯出来てるわよ』

キッチンでは

なぜか先生がエプロンをして

微笑んでいた…

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吉井さまへ
初めましてコメントありがとうございます
好きという感情は、相手が受け取ることを拒否、またはやめた時、恐ろしい物に変化してしまうことがあるようですね。それにしてもポストのお話は怖すぎです!

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