中編4
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見えない鎖

父も母もキライ

世の中の9割の人たちは父と母を

「良い人」だと認識する

私から言わせれば父も母も

「良い人」ではなく「外ヅラの良い人」…

『ただいま』

私は毎日部活が終わって

午後7時過ぎに帰宅する

この時間に父も母もいたことがない

『おかえりなさい』

…自分で言ってみる

父は大手企業の会社員

「俺は会社の部下に信頼されている」

それが父の口癖

会社にいる時の父は

「頼りになる良き上司で良き兄、父のよう」

家に来た部下の人が言っていた

父は自治会や学校の役員をやっている

地域に貢献している人を演じてる

隣近所の人は言う 「本当、良い人」ねって

友達のお母さんも

「良いお父さん」ねって褒めてくれる

そんな時の私はどんな顔をしてるのだろう

『ありがとうございます』

ハニカミながら答える私

父が喜ぶからそうしてるだけ

本当のところ私の心の中は

「どこ見てんの?騙されてるよ

本当、チャンチャラ可笑しいわ」

あざ笑ってる

父は他人の評価ばかり

気にして生きるつまらない人

母は白衣の天使

私には白衣の悪魔にしか見えないけど

看護師という仕事柄仕事以外の時も

病気についてよく聞かれる

そんな時母は専門的な言葉で煙に巻く

実はありきたりなことを答えてるだけなのに

みんな「はあ〜そうなんですか」と感心する

そして最後の一言は

『一度行きつけの病院で検査してくださいね』

いかにも心配しているように目を見て言う

母の言葉が薄っぺらく聞こえる私

母は仕事が忙しいからと

おばあちゃんの介護はしない

母の妹に押し付けて

たまに顔を出しては

あーだこーだと文句だけ言う

たまには妹に感謝の言葉くらい

言えばいいのに

母は身内や家族の事など

お金にならない仕事はどうでも良い人

父は家に帰ると

散々褒めてくれた部下のことを

『仕事も半人前なのに

女に手を出すのだけは

一丁前とは呆れたものだ』

悪口三昧

自治会で褒めてくれた人のことを

『クソババアばっかりでつまらんな

もっと若い奥さんがくれば楽しいのに』

クソミソだ

母は家に帰ると

病気の相談をした人のことを

『なんでもかんでも看護師だからって

聞かないでほしいわ

科が違えばわかんないわよ、そんなもん』

やっぱり白衣を着た悪魔

着てないときも悪魔

私はいつも

「良い子」でいなきゃならなかった

それが唯一父と母が喜ぶことだから

成績もトップをキープ

運動もそれなりにこなす

私にはできないことが

あってはならなかった

それもやっと明日で終わる

私は明日この家を出るから

就職が決まったこれからは

もう父と母の世話にはならない

友達も恋人も自分で決める

自分が好きな人と付き合う

明日からはそうやって生きていける

『ただいま…』

『おかえり』

父がいた、台所には母もいた

『びっくりした…パパもママもどうしたの?』

『あら、どうしたのって

明日あなたがここを離れるからよ

最後くらい一緒に食事をしましょう』

『そうなんだ…ありがとうございます』

父と母が私のために早く帰るなんて

いったいどんな風の吹き回し?

やっぱり親だったのかな?

ダメダメ、油断してはダメ

いつもと違う夜に私は落ち着かなかった

一人で食べる食事はあんなに寂しかったのに

三人で食べる食事はこんなにも息苦しいとは…

もうこれって私たちは親子じゃない

でも今夜だけの辛抱よ

『明日は空港まで送るよ』

『私も休みを取ったから送るわ』

気持ち悪い…二人とも何なの?

私がちゃんと行くのを確認する気?

心配は無用よ私はあなた達から離れても

一人でちゃんとやれるわ

むしろそのほうがのびのび生きられる

私はやっと解放されるのよ!

父が言う

『親から離れて羽を伸ばしすぎるなよ

変な男にうつつをぬかさないように気をつけろ』

母が言う

『つまらない友達も作らないようにね

つまらない彼氏なんてもってのほかよ』

高圧的な言葉に腹が立ち

思わず言ってしまった

『ママがつまらない友達って言ってた子と

一緒に住む予定よ

ママもパパもつまらなくて変な男だと

思うだろうけど私にはもう彼氏がいるの』

『何ぃ?!』

『あなた、何を言ってるの?!』

父も母も鬼の形相だ

『もう私は自由に生きるわ!

パパもママも私のことは忘れて!』

『今まで誰のおかげで生きてこれたと思ってんだ!』

『そうよ!一人じゃ何もできないくせに!』

『生きてこれたのは私が強かったから

それに私は一人で何でもできるわ

だっていつも一人だったもの!』

『お前はなんて奴だ!』

『親になんて口を聞くのよ!いい加減にしなさい!』

迫り来る父と母

私はテーブルにあったナイフで

父を刺し悲鳴をあげた母も刺した

『これでやっと静かになったわ』

やっと手に入る自由を前にして

私は一生解かれることのない

見えない鎖に縛られてしまった

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