中編5
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月夜の晩に空を渡るもの

music:5

その女は、全裸でこの寒空の下、佇んでいた。

夜中、山の中の細い農道を車を走らせていた男は、突然目の前に現れたその女に驚き、急ブレーキを踏んだのだ。男の脳裏に浮かんだのは、拉致、レイプ。

男は悩んだ。この女を助けたい気持ちはあるが、これではまるで自分が犯人扱いされるのではないかと。

見て見ぬフリをしようと思った。

しかし、通り過ぎた瞬間、女が悲しそうにこちらを見たので、男は思いとどまった。車を止め、女に近づいた。

「どうしたんですか?何があったんです?」

そう言いながら、とりあえず目のやり場に困るので、自分のコートを女に着せた。

「わからないんです。」

女はそう一言呟き、下を向いた。

記憶喪失なのだろうか。

「思い出せないの?」

「ええ。」

かわいそうに。記憶をなくすほど酷い目に遭ったのだろう。

「とりあえず、乗って。俺は何もしないから。」

女は素直に車に乗り込んで来た。

「名前とか、住所も、何も思い出せないの?」

「ええ、何も。」

正直、やっかいなことになったと思った。

女はなかなか好みのタイプではあるが、厄介ごとはゴメンだ。

男は、すぐに交番まで車を走らせた。

しかし、夜中の交番というものは、誰も居ないものだ。

しかも、コートの下は、全裸の女。これはどう考えても、自分にとって分が悪い。

「とりあえず、今日は俺の部屋に泊まる?その格好じゃあ、俺も交番に行くのは困るし。」

「すみません。」

女は何も思い出せない自分が歯がゆいように唇をかみ締めた。

その仕草が何とも痛々しかった。

女性用の下着はもちろん持ち合わせていないので、とりあえず男は、自分のスウェットの上下を女に貸し与えた。サイズはぶかぶかで合っていないけど、裸よりはマシだ。

「おなか、空いていない?」

女に聞くと、首を横に振った。

まあ、酷い目に遭ったのなら、それどころじゃあないか。ショックで食物も喉を通らないだろう。

「布団、一つしかないから。悪いけど、コタツで寝てくれる?」

女は頷いた。

「明日になったら、警察に行こう。君の捜索願が出てるかもしれない。」

ところが、警察に行っても、女の捜索願は出ていなかった。

いろんな可能性を考えて、かなりの範囲の警察を訪ねて回ったが、この女の特徴に似通ったような捜索願は出ていないのだ。男は途方にくれた。

いくらなんでも、見ず知らずの女を、いつまでも家に置いておくわけにはいかない。

それかと言って、この寒空の下、女を追い出すわけにもいかない。

そして、女は不思議な女だった。

男がいくら食事をすすめても、決して食べようとしないのだ。

体に悪いから食べるように勧めても、決して食べない。

食べられないというのだ。それでも、女は衰弱する様子はなく、健康は損ねていないようだった。

ただ、水だけは摂取しているようだ。なので、男には何も負担はなかった。

まるで、食わずの嫁だな。

男は、自分の頭に「嫁」という言葉が浮かんだことに驚き、自虐的に笑った。

いくら好みだからって、性急過ぎるだろう。女は、自分をどう思っているかもわからないのに。

男は最初こそは、女の身元をつきとめようと、東奔西走したが、まったく手がかりが掴めないまま、諦めてしまった。諦めたというよりは、女の居る生活が楽しくなり、手放したくないと思い始めていたのだ。

月夜の晩に出合った女を男は月子と呼ぶことにした。

月子は、相変わらず飯を食わず、それでも何事も無く暮らしている。

薄々、男は、月子が人間ではないことを気付いていたのかもしれない。

それでも、恐ろしいとは思わなかった。

月子は、抜けるような肌の白さと、その容姿の美しさで、男を虜にしていたのだ。

そして、男はついに我慢ができずに、月子の肌に触れた。

ヌルリ。

男はその感触に驚いて、手を引いた。

すると、月子は悲しそうな目で、男を見た。

「そろそろ、私は、主様の下へ帰らなければなりません。」

「月子、どういうこと?」

「私の体は、満月の晩に空を渡ります。」

言っていることがわからないよ。

「騙しててごめんなさい。私は、未来から来ました。」

「未来?」

「お気づきとは思いますが、私は人ではありません。」

そうだよ。知っている。でも、俺には月子が必要不可欠。

「私の体はもうすぐ気化します。私の体は水でできていて、分子レベルに分解します。」

「そんなこと、信じられないよ。俺は、月子の居ない生活など、もう考えられないんだよ?」

月子の頬を、涙が伝う。

「私はあなたの前から姿を消します。」

「そんなことを言わないでくれよ、月子。絶対に君を離したくない。」

「ダメなんです。そうしないと、私は、あなたを取り込んでしまうから。

未来、人は、なめくじから人の姿をした物を作りました。そう、私の本来の姿はなめくじです。

気持ち悪いでしょう?私のいる未来は、人となめくじから作られたダミーが共存しています。

何のために作られたかというと、所謂なぐさみ物です。だから、ダミーのほとんどは、女性です。

性犯罪の増加から、国策としてダミーの製造が許可されたのです。倫理上の議論もありましたが、

私達ダミーは人ではないので、問題なしとされました。ところが、ごくまれに、人格を持つダミーが

現れるようになったのです。それは、人の愛着が強ければ強いほど、その傾向は顕著でした。

そして、私も。」

そこまで、一気に話すと、また月子は涙をこぼした。

「ずっと一緒に居よう。」

男はヌルリとした、月子の手を握ろうとすると、月子は慌てて手を引いた。

「ダメなんです。蒸発の時期が来れば、私はきっとあなたを取り込んで、一緒に気化してしまうことでしょう。

その現象が元で、私達ダミーの製造は中止されてしまったのです。しかし、私達の原始である、主様が密かに

どこかの森で生き延びていて、そこへ空を渡り帰ることで、また私達は生み出されて行くのです。

私が生み出される時、どこかの時空の歪に生み出されてしまい、恐らく過去へと飛ばされてしまったのでしょう。」

「そんな話は信じない。月子、行かないで。」

男は月子を抱きしめた。

「ダメダメダメ!」

月子がいくら叫んでも、男は月子を離さなかった。

月子と男の姿が、眩しい光に包まれた。

体が解けていく。解けていく。

月夜の晩を無数の水が渡って行く。

空は随分と水分を含み、やがて小さな霧雨となって行く。

土を濡らす。葉を濡らす。

そして、また月が空に上る頃。

無数のなめくじが、地を這い、草を這う。

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ラズ様
コメント、怖い、ありがとうございます。
やはり、ナメクジ、皆さん苦手ですよねw
ナメクジやかたつむりって、雨上がりにいつの間にかわいてますよね。
特に、ナメクジは、植木鉢を移動した時とかに奇襲をかけてきてびっくりしますよねw
まさか、そこに居るとは思っていないから。

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鏡水花様
やはり、画像の選択のセンスもありますし、何かソフトをお持ちでしょうか?
加工されているような画像をちらほら見かけます。
画像ソフトで遊ぶのは楽しいですね。
もっとも私は最初だけで何事もすぐに飽きてしまうので、すでにパソコンのこやしになっておりますが。パソコンのこやしってなにw
私は画像のチョイスのセンスが無いので、扉絵以外はほぼ無画像ですね。
音とか入れたりしたら、もっと怖いんだろうけど、これもまたセンスがいりますねw

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