中編3
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B公の見たもの

先の大戦末期、連日空襲に悩まされていた民衆は、その自国の空を我が物顔で悠々飛んで行く巨体の翼を、憎しみを込め「B公」と呼んでいた。

そしてこの日も夜中に空襲警報が鳴り響く。

熊本県熊本市新市街 昭和20年7月某日 深夜1時

「空襲警報発令!空襲警報発令!市民は手の空いたものから消火活動へ!他は防空壕へ退避!」

B公はその日本側のラジオを傍受して聞き、機械的に焼夷弾をばら撒いていく。焼夷弾は日本の木造家屋にとって大変な脅威だ。上空で子爆弾がばら撒かれ、瓦屋根を突き破って家の中の畳に刺さり、爆発する。正に日本人を焼きつくすため作られた虐殺兵器である。

日本軍が支那事変で行った虐殺の犠牲者は証言から察するに数万人、それも狂気だがこの空襲もまた、狂気であった。

その兵器は日本本土空襲においては絶大な威力を発揮し、この時までに東京、呉、横須賀等日本の主要都市や原爆投下目標から外された主要地方都市は軒並み焼け野原になっていた。

そして今度のそれは熊本の番だった。

「ったく...陸軍さんは何しよっとか、もうB公を撃ち落とせる飛行機はないんか...」

そうごちる彼もあまり大きな声では言えない...が、彼を含め大抵の市民は現状を見て日本が負ける事は分かりきっていた。

不況を抜け出すため軍に擦り寄った後悔...初戦の勝利に酔っていた反省...それぞれが様々な想いを抱え、ただこの戦争が終わるのを待つばかりだった。

「全弾投下しろ!お前らの家族を奪ったジャップを全て焼きつくせ!」

搭乗員は皆、グアムやガダルカナル、タラワでの戦いで日本軍によって兄弟や父親を殺された者ばかりであった。

人種差別的政策もあって彼らは、日本人そのものを絶滅させるべきと確信していたので眼下に燃え盛る街にも何の感情も抱かなかった。

そして爆弾を全て投下して帰投する準備に入った彼らだったがそこで奇妙なものを見た。

「なんだこれは...高度は3000だぞ...流れ星か?隕石か?俺は夢でも見てるのか...?!」

彼が見たものは低空で舞い踊る幾重にものぼる小さな光の筋だった。

その光は燃え盛る街を見守るように上空に漂い続け、その巨人機を睨みつけるように威圧してくる。

すると機体に異変が生じる。

「トーキョーで見たのと一緒だ...ジャップだ...ジャップが化けて俺達の機体をいたずらしやがってるんだ...神よ...」

爆弾手はそう言うと気絶してしまった。サブパイロットが機体の現状を報告する。

「第2エンジン停止!油圧低下!低空の為速度回復不能!自動制御に切り替えますか?」

「駄目だ、切り替えられん...もたもたしていると夜が開けて敵機が来ちまう...燃料ももう...不時着する。」

制御不能に陥ったB29の高度が下がるのを消火に当たった市民が目撃していた。

その人物は、B29の奇妙な動きに違和感を覚えたという。

「いつもなら爆弾を落としてそそくさと帰っていくんですがそのB公はいつまでもそこにいるように見えて、それで突然高度をガクンと落として山肌に激突したもんだからね。

高度が落ちた時に探照灯で、一瞬敵さんの顔が見えたんだけどまるで地獄をみたようだったよ。」

この他にも日本本土空襲を担ったパイロット達は度々、不可思議な体験をしているという...。

因みにあのB公に搭乗していて、奇跡的に1名生存した捕虜の

「俺達が殺した人間の魂にやられた...無数の女性や子供の顔が見えた...。」

との証言があったがこれは、日本軍としてもおかしくなっただけだと考え、戦後も公になる事はなかった。

戦争という狂気の中での幻...との見方が参戦国の間での認識だが、果たして本当にそうなのだろうか...。

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