皆殺しの家【リレー作品⑤】

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皆殺しの家【リレー作品⑤】

「僕の声がきこえる?君はここのうちの子?」

進は優しく念じながら話しかけた。

"たすけて…わたしたちを…たすけて…ママを返して…”

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「僕たちも君に助けてほしい。だから、質問に答えてくれる?」

夏美も子供の声は聞こえている。進は、声に出して少女と話すことにした。

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「君とベッドの下にいる子は、姉妹だね?」

"そう…ママが連れて行かれたから…こわくて…”

「外にいる女の子は?知ってる?」

"私たちの…一番下の妹…

ここにいなくちゃダメって言ったのに…

ママを探しに出て行ったの…”

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『母親を一人で探し回るうちに、どんどん《念》が強くなって、

あの子だけが邪悪な力を身に着けてしまったのね』

そっと夏美がつぶやいた。

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「ママはどこに行ったの?」

"おじちゃんがママだけ連れて行ったの…”

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『…おじちゃんって、この子たちを殺した…?』

夏美が子供たちには聞こえないくらいの声で言った。

進は、夏美に頷いてみせ、更に続けた。

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「おじちゃんは、ママを連れてどこに行ったのかな?」

"わからない…ママが逃げなさいって言ったから…”

すると、怯えた声がベッドの下から聞こえてきた。

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"ふ…ふういん…ママを連れて…ふ…ふういん…”

「ふういん?」

「ふうい…え!?封印?

まさか、封印するのにこの子たちの母親を生贄?

…なわけないか…」

進がつぶやくと、考え込んでいた夏美が

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『誰かが男を封印しようとしたとき、

男が母親を引きづり込んでそのまま出られなくなった…とか…?』

「封印って…ただの殺人事件じゃなかったの?」

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母親の愛というものを、俺は全く知らずに育った。

さみしくはあったが、"母親とはそんなものなんだろう”と、不思議には思わなかった。

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母親は、祖父母のいないところで、俺のことを"忌み子”と呼んだ。

その意味が分かり始めた頃、母は俺を愛していないんじゃない、憎んでいるのだと知った。

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祖父母が他界してからは、母の俺への憎悪はあからさまになっていった。

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いつからか、母に憎しみの言葉を投げつけられると、

体中の血が逆流するような…

自分ではない何かが、自分の体中で脈をうつ…

そんな感覚を覚えるようになった。

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例年通り、冬になり杜氏の修行へ出かける朝…

「行ってくるから」そう言った俺に母は

「お父さんがあんなに早く死んだのも、呪われたお前のせいだったんだ。

お前が死ねばよかったんだ」

と、ぶつぶつとつぶやいていた。

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その母の姿を見たとき、また体中が"どくん どくん”と

脈をうつのを感じた。

ある日の夜…お世話になっている酒造屋の女将さんが、酒をふるまってくれた。

珍しく酔った俺は、母親の言葉を思い出しながら、布団に入った。

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"どくん どくん”

飲みすぎてしまったのか…"あの”鼓動が聞こえる…

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体の中が燃えるように熱い…

俺の心臓とは違う鼓動が、強くなる…

「…てしま…」「ぶっ…ろ…まえ」

俺の中から声がする…

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次の日の昼過ぎ…母親の変死体が見つかったと連絡をもらった。

なぜだか少しも驚かなかった。

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別荘の管理の仕事は、俺には合っていた。

訪れる人たちは、都会の金持ちばかりで、俺のことなど"使用人”としてしか見ていなかった。

あの家族を除いては…

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一番奥にある7番館の家族。

俺が作った野菜を持って行くと、老夫婦はいつも嬉しそうに

「秀夫さんの野菜を食べると、寿命が何年も延びた気持ちになるのよ」

と、言ってくれた。

この敷地内で、俺の名前を覚えてくれている唯一の家族だった。

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子供たちも、俺になぜかなついてくれ、きれいな花を見つけては見せに来てくれたり、

庭の手入れなどをしていると、決まって隣に座り、庭いじりの真似事をした。

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「洋服が汚れるよ」

そう言うと、若奥様が

「都会では、めったに経験できませんから」

と、もったいないくらいの笑顔で言うのだ。

本当の母親の愛…そんなものを感じてしまった。

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しかし、そんな絵に描いたような家族にも、欠点はある。

旦那は、最悪の人物だった。

避暑地に来ても、書斎から一歩も出ず、仕事ばかりをしている様子だった。

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「あっ、あなた、これ秀夫さんが作ってくれた採れたてのお野菜なんですよ」

たまたま玄関先に来た旦那に、奥さまは弾むような声で話しかけた。

『そんな、どこの土で作ったかも分からないもの。

いつもの店で、いつもの有機野菜を取り寄せするように言ったはずだろ』

「ぱぱぁ、見て見て。おじちゃんがね、竹トンボを作ってくれたのぉ」

嬉しそうに飛ばしてみせる娘たちに

『…そんなもの、いくらの値打ちがある?

お前たち、服に泥がついているじゃないか!

その服がいったいいくらするのか知っているのか!」

それだけ言うと、車に乗り込み行ってしまった。

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その時、奥さまは悲しげに

「この子達の父親が、秀夫さんみたいな方だったら…」

そう呟いたのだ。

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その日は突然に来た。7号館の裏庭の手入れをしていた時だった…

陶器の割れる音と、男の怒声。子供たちの泣き声と…奥さまの泣きながら謝る声…

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気づいてはいた。

いつも肌が見えない服ばかり着ていた。

それでも、隠せない場所はある…

口元のあざ、手首のあざ、時々少しだけひきづる足…

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“どくんどくん”

久しぶりな感覚…母が死んでから、一度もなかったのに…

「…せば…んだよ」「なにも…ぶっこ…」

血が逆流する。誰のものか分からなかった鼓動が、

俺の鼓動と重なる…

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「殺せばいいんだよ」

「何もかもぶっ壊してしまえばいいんだよ」

俺の中の誰かが囁きかけてきた。

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旦那だけを殺せば良かったんだ。

そしたら、この家族は幸せになれると思っていた。

返り血を浴びた俺を見る目が…

唯一、人として見てくれた子供たちの目が…

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…鬼を見るように、俺を見ていた…

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shake

《どんどんどん》

壊れるほどの勢いで、誰かが扉を叩いている。

いや、体当たりをしている音だ。

驚き、悲鳴も出せずに進と夏美はお互い手を握った。

ものすごい音とともに現れたのは、白目をむきだし、確実に憑かれた太郎だった。

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『もう!兄貴!どこに行っていたの!』

太郎と分かるや、夏美は駆け寄り、思い切り何度も右手をふりあげた。

「い…痛い。い…夏美やめて。懐中電灯も立派な凶器だから」

太郎が正気に戻ったことを確認した進が、冷静に尋ねた。

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「洋子は?」

「え!?ようこ…ようこ…ようk…!!!」

『はぁ!?信じられない!

この家は、女の人は危険すぎる!!

こんなところに洋子さん一人にしたの?』

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再度右手を振り上げた夏美を

「いや、太郎も憑かれてたし…」

と、進が冷静に止めた。

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太郎の"昔の血”が騒ぎ出す前に、

やはり冷静な進が

「とにかく、この部屋でもう少し計画を練るしかない…かな…」

と、言うと、

小さな洋服ダンスの上の写真立てを見つけた…

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「これ…この写真の女の人は誰?」

“それは…ママだよ”

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そこに写っている女性は、史華と瓜二つだった。

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ゴルゴム様。バトンを受け取ってくださり、ありがとうございます。
他の方々も…ですが、指名されてもその余裕…
私などの凡人との差を思い知らされます。
私なんて、若干前から分かっていたのに、わたわたして、色々な方に背中を支えられて、なんとかスタート地点で震える手でバトンをもらった状態でした。
この話を思いついた時から…いや、私の番が来ると薄々分かった時から、私がわたす人はゴルゴムさんだと思っておりました。
そしたら…ロビン様やあんひめ様も「この先はゴルゴムさんか?」と、話題にされていて、驚きました。
楽しみにしています。

番長、本当にありがとう。
投稿してすぐのメールに、体中の汗が噴き出ちゃったよ。
本当に…入り込んだ部屋から一歩も出ずに終わらせちゃった。
パソコンからログインして、スマホで前作確認しながら…
もう、職人並みに打ち込んでおりました。
番長…途中の応援メッセージとか、待っててくれたとか…
本当に本当にありがとう。
番長を愛しててよかった。

mami様
大役お疲れ様です。次回ご指名頂きありがとうございます。
中々いい形で秀夫の内面が描かれましたね。さて、これをどう繋げるか・・・ふふふ。どうしよう。何も浮かんでこないぞ(泣笑)。
取り敢えず寝ます。
起きたらすっきりした頭で考えてみます。
ではよい夢を・・・

素晴らしい!この一言ですお姉様!
きっとこの1、2時間の間に投稿されるであろうと思い
待っておりました♪
1番に読もうとワクワクで読んだ結果、
早くも続きが読みたい病にかかっておりますw

本当に読みやすくもしっかりとお話は進んでいて
曖昧だった箇所がハッキリと示された作品でした!
本当に素晴らしいという言葉が、1番に口をついて出てきましたw

やはりマミお姉様の才能は本物だったか…!

お疲れ様でした♪

さーて、ゴルゴム13さんの作品も楽しみだ!w