長編7
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心霊サイト

今回のお話は後にある心霊事件で知り合うようになった藍さんという女性から聞いたお話です。

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「今度行くのはどこがいいかな、あ、ここいいかも、サイレンの館かあ」

その日、私は会社のお昼休みに朝作った塩味キャベツパスタ弁当をフォークで巻き巻きしながら、会社のパソコンで心霊スポットの特集サイトを閲覧していました。

もちろん私的な使用でしたが、電気代の節約のためには背に腹変えられないので、自然な感じで私のコンプレックスになっている大きな胸を社長の腕に押し当てながら貧乏を理由におねだりすると社長は戸惑いながらも使用をゆるしてくれました。

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次の機会に友達と探訪する心霊スポットを物色していると、背中から声をかけられました。

「藍ちゃん、またパスタ弁当? 今日は何のパスタ?」

お昼休みで仕事中ではないとはいえ、いきなり下の名前で呼ばれたので少々驚きました。

話しかけてきたのは、よく見かける取引先の営業のお姉さんでした。

「また・・・って、いつも覗いてたんですか? それとパスタはパンやご飯に比べてコストパフォーマンスがいいんですよ、私、お金ないですから」

ご飯もいいけど、どうも値段を比べてみると、パスタの割が一番いい気がしていました。

味付けと具材を変えることで、野菜もとれるし、飽きづらくすることもできました。

「それにしても、心霊スポットのサイトなんか見て・・・そういうの好きなの?」

「これは今度友達と行く心霊スポットを探してたんです、心霊スポットいいですよ、お金をかけずに盛り上がることができるし」

一番の要因はお金とはいえ、ドライブ気分で心霊スポットを探索して、その後皆で深夜もやってるハンバーガーショップでおしゃべりすることが今の私の一番のレジャーでした。

その時、不意に私はいままで抱えていたある悩みを思い出しました。

そして目の前のお姉さんにその悩みを聞いてみようと思いました。

えっと、でもこの人名前なんだったっけ、確かうちの社長や従業員が黒川さんとか瑞季ちゃんとか呼んでたような・・・

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「瑞季さん、うちの社長から聞いたんですけど、霊とか視える人なんですよね」

私がそう言うと、お姉さんは露骨に嫌そうな顔をしました。

「・・・そうだけど、またあの社長、余計なことを、それに瑞季って初めて話するのに馴れ馴れしいわね」

自分だって私のことをいきなり下の名前で呼んだくせにと思いましたが、おそらく自分も心霊スポットのサイトについて話を振ってしまったので、無視はできないなあと諦めたような感じでした。

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「私、今までいろんな心霊スポット行ったんですけど、全然霊とか怪現象に遭遇することができなくって・・・どうやったらちゃんと心霊スポットで怖い目に遭えるんでしょう?」

私が行った様々な心霊スポットはそれなりに雰囲気もあって興奮していましたが、いわゆる心霊系の怖い話にあるような霊に襲われるだとか、憑りつかれるという経験はありませんでした。

「よかったら、瑞季さん今度私達と一緒に心霊スポット行ってくれませんか?」

「パス・・・私心霊スポットとかむしろ嫌いな方だし、なんでわざわざ怖い目に遭いに行かなくちゃいけないのよ」

お誘いの却下は即答でしたが、その物言いは怪現象に遭遇するのなんて簡単よと言っているようにも聞こえました。

「え? 怖い目に遭えるんですか? じゃあ参考程度でもいいですからいい方法を教えてくださいよ」

私の質問にお姉さんは少し考えるようなそぶりを見せましたが

「そうねえ、じゃあ今度友達と行ったときに途中で一人だけはぐれて行動したらいいかもしれないわよ」

「・・・そんなことで効果あるんですか?」

「あるよ、襲う霊の方だってちゃんと相手を値踏みするんだから、そりゃ集団でワイワイいるより、女の子が一人ではぐれている方が襲ったり、憑りついたりしやすいわよ」

「・・・理屈はわかりますけど、なんか人間に対応しているみたいですよ」

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「・・・人間だよ、ほとんどの心霊スポットを作っているのは」

人間が作っている・・・目の前の視えるお姉さんに真顔で指摘されるとあらためて認識してしまいます。

「ちょ、ちょっと、そんなリアルなこと言わないでくださいよ人間がだなんて、怖いじゃないですか」

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「??・・・怖い目に遭いたいんでしょう?」

「あ、いや、そ、そうなんですけど・・・」

なんだか自分でも何を言っているのかわからなくなったので、一つ一つ整理してみました。

「えっと、出来れば幽霊とかには遭遇したいんですけど、それほど危なくない方向で、適度に仲間内で興奮できればいいなあ、と」

「贅沢な悩みねえ」

なんだか呆れられてしまい、ばつが悪くなったので、話題を微妙に変えることにしました。

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「それよりこれ見てくださいよ、サイレンの館、今度ここ行こうと思ってるんですけどどうですか?」

「ふうん、山奥にある廃墟になったお屋敷で、今人気のある心霊スポットねえ・・・」

「ほら、コメントとかもいっぱいついてて、良くないですか」

私はそう言って多くの人が投稿しているコメント欄を開きました。

最新のものでは二日前の土曜日にAMAというハンドルネームの人が今夜行ってきますよ、帰ってきたら記事もあげますね、とコメントを残していました。

瑞季さんも興味をもったのか、カチャカチャとマウスを操作して投稿されたコメントを流し見ていましたが

「藍ちゃん悪いけど、このサイレンの館ってとこ、やばいかも・・・」

「え? コメント欄に何かあったんですか?」

「いや、ここ何にもないのよね」

「え、ないって」

「サイレンの館に行った後のリポートとかすごかったよとかの感想が・・・なんにも」

言われて詳しく見ると、確かに行ってきますとかやばそうとかいうコメントはたくさんあるのに、実際に行った後のコメントが一つもありません。

二日前のAMAという人にいたっては記事を上げますとコメントしていたのにそのあとの続報が何も入っていませんでした。

普通に考えれば、次の日が日曜日なのでもうコメントが投稿されていてもいいはずなのにもかかわらずです。

気味が悪くなりながらも私は瑞季さんの忠告を否定したいかのようにコメント欄へAMAさんのスポット探訪記事を促す内容の投稿をしてみました。

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ちょうどそのすぐあとでした、サイト内を巡りながら、元のコメント欄に戻ってくると、くだんのAMAさんの新コメントが投稿されていました。

「サイレンの館、行ってきましたよ。ごめんね報告が遅れて、もうほんとすごかった。実際に現場で経験してほしいから詳しくは書かないけど、若い女の子が喜びそうなすごいことがいっぱいあったよ~」

「なんだ普通に投稿してるじゃない、瑞季さんが変なこと言うから気にしちゃったよお」

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ほっとした次の瞬間、瑞季さんが背後からいきなり両手で私の胸を触りました、いや、触るというよりがっつり握っている感じでした。

「ひゃああ、な、なにするんですか!」

「うわ、実際に触ってみるとすごいボリュームだね、何カップ?」

「イ、Eカップ・・・です、な、なんなんですか、帰ったんじゃないんですか、お金取りますよ!」

「いや、帰ろうとしてたんだけどさ、パソコン画面から変な念が感じられてさ、藍ちゃんがそれに取り込まれてる感じだったから」

はあ?パソコン画面?と思ってもう一度画面を見ると・・・

ない、ありませんでした。

さっきまで目の前で閲覧していたAMAさんの最新投稿が・・・

「パソコンから誘い込もうだなんて、やるわねえ、これはなかなかの悪霊だわ」

「何だったんですか、今の?」

「心霊スポットからのお誘いかなあ」

「え、そ、そんな話聞いたこと・・・」

「う~ん、そうね、探訪した廃病院からカルテ返してって電話がかかってくるお話は聞いたことがある?」

「あ、はい、有名な心霊スポットエピソードのひとつですよね」

「それのパソコン版かなあ、電子機器を使った接触という点ではおんなじだし」

呆然としている私を尻目に瑞季さんはお礼はいらないから気をつけなさいよと言って帰っていきました。

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彼女が帰った後も私はまだ状況が整理できず、椅子に座ったまま動けずにいると携帯電話に着信がありました。

先ほどの件が思い起こされて、もしかしてAMAさんから?と心臓が跳ね上がりましたが、着信はいつも一緒に心霊スポット探訪をしている親友からでした。

「アイ~、私すっごいとこ見つけちゃった」

「な、なに?」

「なにって、今度行く心霊スポットなんだけど、だいぶ前につぶれたテーマパーク跡の情報手に入れちゃってね、ネットに情報もまだ出てないからかなりの穴場だよ」

「・・・う、うん、いいね、それ」

なんだか、潮が引いてしまったようになってしまった私はテンションの高い親友の言葉に相槌を打つのが精一杯のまま、通話を終えました。

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「ふう、何やってるんだろう、私・・・」

結局、気持ち悪くなった私はサイレンの館が掲載されているサイトを閉じ、インターネットのお気に入りに入っている心霊スポットの特集サイトと残っている閲覧履歴をすべて消去しました。

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