中編3
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ジャマスルナ

日本の年間の自殺者数は3万を超えるんだそうです。

それでも、その数字はWHOの基準を満たしていなくて、基準を満たしたとすると年間の自殺者数は軽く10万を超えるんだとか。

今はその数も減少傾向にあるようですが、自殺がなくならないのは痛ましいことですよね。

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ある日の仕事帰りでのお話。

冬場は暗くなるのも早くて、駅での電車待ちは寒くて大変。

駅のホームで電車待ちをしていた私の前には、サラリーマンが1人。

彼は携帯をイジっていた。

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『まもなく3番線を電車が通過します。この駅には停まりませんので黄色い線の内側に下がって、通過列車の後に参ります東京発小田原行きの電車をお待ちください』

ホームにアナウンスが流れた時。

前のサラリーマンがフラフラし始め、少しずつ前へと進む。

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異変に気付いた私がサラリーマンの足元を見ると、白くて細い腕がガッチリとサラリーマンの足を掴んでホームの端へと引き寄せているのが見えた。

『3番線お気を付けください、列車が通過します!』

駅員のアナウンスが流れ、列車がホームへ入ってくるのが見え、サラリーマンはホームの端でバランスを崩している。

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「危ないっ!」

私が彼を自分の方へと引き倒すと、彼は私に覆いかぶさるように転倒してきたので、私も尻餅をついてしまった。

それと同時に、列車が駅を通過。

周囲がそれに気付いて、「大丈夫ですか!?」と起こしてくれる。

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私はホームの下から、まるで千と千尋の神隠しに出てくる顔ナシのような白くてのっぺりした顔が、その顔を半分だけ覗かせているのに気付いた。

<アイツが元凶だな>

すぐに分かった。

白くてのっぺりした顔に穴を開けただけのような無機質な目が、私を見ている。

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『…ジャマ…スルナ…コムスメ…』

苛立ったような声でそう私に告げると、それは姿を消した。

誰かが呼んだのか駅員も駆け付け、私もサラリーマンも怪我はなかったが念のためと救急車で近くの病院へと搬送された。

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病院で診察してもらったあと、私はサラリーマンに「自殺したかったのか」を聞いた。

彼の答えは「あの時する気はなかったが、気付いたらホームから落ちそうになっていた」とのこと。

する気はなかった、なら、自殺を考えたことはあったんだな、と私は思い至った。

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私は彼に、なぜ自殺を考えたのか尋ねてみた。

「会社の人間関係です。パワハラにモラハラ、もう疲れました」

サラリーマンは、そう答えた。

私はホームで見た、あの白くてのっぺりした顔のことを彼に話した。

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あぁいった類は人の心の闇に付け込んで仲間に引き入れようと、死に誘(いざな)う。

特に、過去に何度も人が死んでいるような場所では、悪霊個体ではなく、邪念が渦巻いて形を取っているものが多い。

だから彼らに心の弱みを見せると、あっという間に引き込まれてしまう。

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彼は最初、不思議そうに私の話を聞いていたが、話し終わる頃には青ざめていた。

「自殺を考えるのは簡単です。でも、あぁいった類のものに引き込まれて亡くなると、成仏もできなければ転生も叶いません。それは、貴方の魂にとっても不本意なことでしょう?」

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私の言葉に彼は小さく、「そうですね…」と答えた。

私は「いつでも愚痴くらい聞きますから、悩んだら連絡ください」と、彼にメモを渡す。

彼は私に礼を言って、「今日はタクシーで帰ります」と、タクシー乗り場へと消えていった。

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その後、彼から何度か連絡があり、相談に乗ったり話を聞いたりしていたが、ある日「会社を辞めて実家の建設業を手伝う」と連絡が来た。

吹っ切れたのか、彼の声は始終穏やかだったのを覚えている。

私は素直に、良かったと思った。

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辛くて死にたくなることは、長い人生の中で一度や二度はあるだろう。

だけど私は、生きていることにこそ価値があるのだと思う。

死ぬ勇気があるなら、何でもできるはずだ。

多くの人はそれを、どこかに置いてきてしまっているんじゃないかと私は感じる。

[おわり]

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