長編11
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墓参り

秋。そう、秋だった。

10月の前半。超寒かった。

キャンプに行った少し後の話。

大学の休憩室みたいな部屋で、竜二・圭太・斗馬と話していた。

圭「墓参り行った?」

俺「いや、墓こっちじゃないし」

竜「あぁ。××県だっけ」

俺「うん。仏壇の掃除はしたけど墓参りは無理だわ。」

圭「竜二と斗馬は?」

斗「行きましたよ」

竜「俺も行ったな」

暑かっただの虫に刺されただの墓参り話に花が咲いた。

…いや、そこまででもないけど。

俺「圭太行ってないの?」

圭「バイト休み取れなかったし親も休み合わなかったから」

斗「祟られたら面白いですね」

圭「そんなこと言っちゃだめぇぇぇ!!」

今年は家族で行くのは無理そうだけど、墓参りしないのも怖いから一緒に行ってほしいとお願いされた。

心霊スポットじゃないけど。

夜じゃないけど。

お墓なら何か出るかもって邪な期待を胸に、月曜日の昼から4人で墓地へ向かった。

花屋で「仏花」と書いてあるのを4つ買って、スーパーで線香や蝋燭、お供え物を買った。

カラスなんかに荒らされるからお参りが終わったら回収する。

つまり終わったら食べれる。

饅頭系からチョコレート系まで沢山買った。

おにぎりとジュースも忘れずに。

お盆によく売ってる白とかピンクのやつ(名前わからん)は、もう売ってないのか探し方が悪かったのか見つからなかった。

圭「饅頭ありゃいいだろ」

俺「あの変なのよりチョコの方が美味しいしな」

遠足と違い、墓参りには[300円まで]などという縛りはない。

俺達は余裕で300円を超える買い物をした。

墓地には2時間ほどで着いた。

車の中で少し食べてしまったがお菓子はまだまだある。

駐車場に車を停めて墓へ向かう。

竜「墓どこら辺?」

圭「………」

竜「何列目あたり?」

圭「……………」

どうやら覚えていないようだ。

大したヒントにならない

①英語で書かれた墓石の1列前か後ろ

②左右どっちかの墓に小さい木

③ごみ捨て場の近く

という情報を元に墓を探すことになった。

ごみ捨て場は全部で6つ。

「そんなに奥でもないけど一番手前でもない」とか言いだしたので、手前の1つと奥2つを排除し、残り3つのごみ捨て場を中心に探す。

別れて探したかったが、山の中だからか電波が悪いので4人一緒に探すことになった。

離れたら迷子になりそうだし墓で迷子って怖いじゃん。

竜「奇抜な名字だったら分かりやすいのにな」

圭「残念ながら多い名字ベスト10入りだ」

俺「奇抜な墓石の方が分かりやすいな」

圭「どんなだよ」

金色とか3倍の大きさとか、上に風見鶏乗ってるとか、適当な妄想を語りながら歩き回った。

斗「あの…」

圭「ん?腹減った?食う?」

斗「それお供え物です。

4人一緒に同じ列歩くより、1人1列歩いた方が良くないですか」

…素晴らしい!!

少なくとも4倍は早い!!

素晴らしい案だ!!

今歩いてる列を抜けた所から4列ずつ探すことにした。

3つ目のごみ捨て場周辺。

俺「これさぁ、見落としてたら怖いよな」

圭「言うな」

だんだん不安になってきた。

もう1時間半近く歩いてるからね。

それでも黙々と4列ずつ探し歩いた。

竜「あ、英語の墓発見!」

ここまでも何個かあったが全て違った。

今度こそありますようにと、その墓の左右の列をしっかり探した。

圭「あった!!これ!!」

斗「もう花くたくたですよ」

寒かったので早く蝋燭をつけたかったが、拭いてから!!と怒られたので冷たーい水でタオルを濡らし、拭いた。

先祖もさぞかし寒かろう。

花をいれる器が思ったより小さく、4つ買ったけど2つで十分だった。

お供え物はそれ以上に十分だったが。

一応圭太以外も全員1本ずつ線香をあげてすぐに片付けて車へ向かうことに。

墓ってお供え物あげてから何すりゃいいかわからんからな。

先祖もあんな短時間でお供え物食いきれないだろう。

あわてて喉に詰まらせないように心の中で忠告しておいた。

入り口の近くに停めたから帰りもかなり歩くことになってしまった。

迷わないように植木に沿って歩いた。

お供え物のチョコとか食べながら。

植木は手入れされていないのかかなりボーボーと生い茂っていた。

雑草やら何やらもわっさわさ。

木も被るように生えてて、デカい影が出来てた。

俺「寒いなー」

斗「自販機とか無いんですかね」

竜「空き缶まみれになるんじゃね?」

温かい飲み物にはありつけなかった。

15分ほど歩くと植木の奥の茂みの中にデカい地蔵が7体立っていた。

その周りに小さい地蔵が沢山。

圭「なにこれ」

竜「無縁仏だろ」

圭「小さいの、水子?」

竜「だろ」

俺「掃除とかしないのかな」

竜「…してなさそうだな」

地蔵はどれもボロボロで欠けていたり汚れていたり…

枯れ葉や蜘蛛の巣まみれだった。

水子地蔵は倒れているのがほとんどで何体かは割れていた。

もじゃもじゃに育った木のせいで影になり、先ほどいた墓地とは全く明るさが違った。

圭「掃除は無理だけど、余った花置いてかね?」

俺「持って帰っても仕方ないしな」

竜二と斗馬は嫌そうな顔して

枯れ葉よけるのも花を置くのも一切手伝わなかった。

無縁仏の真ん中の地蔵の前に花2つと線香1束を置いた。

お供え物も…と思ったけど、使い回しは失礼な気がして新しい缶ジュースを1缶だけ置いた。

圭「腹の足しにはならんけどっ」

パンッパンッと2回手を叩いた。

それ、神社じゃね?

ぼけっと見てると後ろから腕を引っ張られた。

え!?なに!?っと思ったら斗馬だった。

斗「帰りますよ!」

もう用事もないし夕方だしな。

てか一応今も帰ってる途中なんだけど。

俺は斗馬に背中を押されながら歩いた。

後ろでは竜二が圭太をひっぱっている。

俺「線香大丈夫?枯れ葉に燃えうつんない?」

斗「明日何曜日でしたっけ」

俺「火曜だろ」

斗「象ってどんな動物でしたっけ」

俺「?…鼻が長くてデカイ」

斗「海ってどんな所ですか」

俺「でっかい水溜まりみたいな…なんなの?さっきから」

意味のわからない質問を何回もしてくる。

俺の質問には何一つ答えてくれず、いいから前だけ見て歩けと怒られた。

後ろでは圭太と竜二の声がする。

圭「さーる」

竜「る!?ルビー」

圭「ビール」

竜「また!?る…ルーレット!!」

圭「とんじる~」

竜「だあぁぁーっ!る…る…」

しりとりしてるっぽい。

しりとりの「る」って辛いよな。

斗馬の「日本の首都どこでしたっけ」あたりでようやく車が見えた。

行きに比べたら帰りは早いな。

竜「る…る…」

竜二はまだ「る」に悩まされていた。

俺「あ!ルーマニアは?」

斗「ちょっ!!」

竜「バカ!!死ね!!」

何故か物凄く怒られた。

圭太だけは怒らず「アルコール」と言った。

おれは斗馬に引っ張られ、

圭太は竜二に引っ張られ、

すぐに車に乗った。

圭「る!るだよ!」

竜「もうしりとりいいわ!!」

俺「る分かんないから怒ってんの?」

圭「ガキくせー」

竜「大丈夫そう?」

斗「中々…手遅れですかね」

俺と圭太は無視された。

寂しいので2人でしりとりを続けた。

俺「ルアー」

圭「アンコール」

俺「る……っ!!」

こいつはしりとりの才能でもあるんだろうか。

「る」で詰まった俺はしりとりをやめた。

圭「あとどれくらい?」

竜「40分くらい」

圭「まじか。お菓子まだある?」

俺「うまい棒とクッキーと煎餅だな」

圭太と2人でお菓子を食べた。

斗馬と竜二にはいらんと言われた。

―…バンッ

圭「何かぶつかった?石?」

斗「しりとりでもしてて下さい」

俺「しりとり終わったんだよ」

斗「またすれば良いじゃないですか」

…冷たい。

しりとりは勝てないので古今東西ゲームをした。

もちろん2人で。

「お題!野菜のなまえ~!!」

とか言ってるとまたバンッて音がした。

キュウリ…ジャガイモ…ナス…長ネギ…と低めのテンションでゲームをした。

若干の間隔を開けてバンッと音がする。

俺「タイヤとか大丈夫?」

竜「いいから」

斗「ニンジンだのカブだのやってて下さい」

2人は本当に冷たかった。

白菜だのピーマンだの言いながら山を抜けた。

何度も何度もバンッと音がしていたが車は普通に走ってたので大丈夫だったんだろう。

18時を余裕で過ぎ、外は暗かった。

圭「飯行こー」

竜「出て大丈夫?」

斗「わかn…多分」

竜「わかんないって素直に言えよ」

10分ほど走り駐車場に車を停めた。

斗「うわ」

竜「まじ最悪なにこれ」

車のボディに小さい手形がいくつもついていた。

俺「キモ!!」

何故か2人に睨まれた。

墓石を拭くのに使ったまだ湿ったままのタオルを使い、車を拭いた。

泥が乾いたような感じだったので、手形はあっさりと取れた。

肝試しより肝試しっぽいなとか思いながら、居酒屋へ入り適当に注文を済ませた。

斗「何で振り返ったんですか」

俺「えっなに?」

斗「前みて歩けって言いましたよね」

俺「あー、でもルーマニア思い付いたから…」

そう、ルーマニア思い付いたことが嬉しくて

つい圭太と竜二の方を振り返ったんだ。

俺「でも別に後ろ何もなかったし、変なことあったの車乗ってからじゃね?」

竜「お前が振り返らなければ車も無事だったかもな」

どうやら俺が振り返ったことはとんでもなく悪い事扱いされてるらしい。

圭「このつくね超美味い」

俺「まじ?チーズつくね?」

話をぶった切ってくれる圭太がいて少し助かった。

そして本当にこの店のチーズつくねは絶品だった。

美味しいチーズつくねをおかわりして帰ることになった。

手形はもうなかったが、車の上に枯れ葉がこんもり乗っていた。

竜「まじか…」

斗「桃さん、葉っぱよけて下さい」

なんで俺…振り返ったからか。

振り返ったのがそんなに駄目だったか。

仕方なく枯れ葉を払い落とした。

車に乗り込み、家が近い順に送ってもらった。

竜「俺じゃないといいな」

斗「どうですかね」

竜「俺お前のどうですかね嫌い…」

バンッという音はせず、特になにごともなく家についた。

いつも迎えに来てくれるゲンが扉の向かうから顔だけ出してた。

最近散歩行ってないからスネてんのかな。

風呂に入って、寝た。

次の日、食堂にいくと圭太がいなかった。

俺「圭太は?」

竜「来てない」

俺「サボり?」

斗「圭太君の所行ったんですかね」

竜「…かなー」

????

電話をしてもメールをしても圭太からは反応が無かった。

放課後斗馬と2人で見に行くことにした。

(竜二はバイトへ行きました)

ピンポ~ン

返事がない。

新聞受けをカパッと開いた。

俺「け~た~?」

圭「………だれ?なに?」

返事があった。いるじゃん。

小さな穴を通して少し会話するとやっとドアを開けてくれた。

部屋の中の圭太は布団を羽織っていた。

目は充血していたが体調が悪いようには見えない。

中に入り、話をした。

斗「…赤ちゃん、来ました?」

圭「夜めちゃ泣いてた」

俺「なに。赤ちゃんて。」

斗「地蔵の後ろからワラワラ出てきたじゃないですか」

ねーよ。てか早く言えよ。

斗「泣いてるだけなんですか?」

圭「時々窓叩く音とか」

斗「へぇ」

関心薄いな…。

それだけ話すと斗馬は立ち上がった。

俺「トイレ?」

斗「帰るだけですよ」

圭「えっ帰んの!?なんで!?」

斗「いてもする事ないんで」

圭「桃は!?」

俺「どっちでもいいけど」

斗「じゃあまた明日」

斗馬は出ていった。10分もいなかった。

家にあるものを食べて風呂に入って寝た。

夜中に背中を蹴られて目が覚めた。

俺「…なに」

圭「泣いてる!泣いてる!!」

時計の針が動く音くらいしか聞こえない。

俺「大丈夫。おやすみ。」

圭「大丈夫じゃないから!お前まじ役に立たねぇ!!」

まぁなんて酷いんでしょう。

役に立たないのは本当だけどさ。

布団にもぐると肩をつかまれ揺さぶられた。

圭「声やばいって!超泣いてるから!!」

俺「赤ちゃん?」

圭「赤ちゃん!!」

俺「そりゃ夜泣きだ」

圭「違う!泣いてる理由はいいの!!」

後ろから首をしめるような体勢で上半身を無理矢理起こされた。

圭「泣い……っ?泣きやんだ」

俺「じゃあ寝るぞ」

圭太も自分の布団に戻った。

数秒後、蹴られた。

俺「寝ろよ!!」

圭「いや泣いてるから!」

俺「泣き止んだんじゃないの?」

圭「泣き止んだけど泣き出した!!」

俺は再び上半身を起こされた。

圭「どこにいんの?どこにいんの?無理!キモい!!」

俺「どこにもいないから」

圭「だってこんだけ…!」

俺「なに」

圭「泣き止んだ」

何度も何度も泣いてると騒ぎ、少しすると泣き止んだと言う。

これが朝まで続いた。

俺も寝れなかった。

朝になり、圭太を連れて家を出た。

大学で竜二に押し付け、昼までそのまま。

昼。学食。

斗「今日何限まであります?」

竜「3限」

圭「俺も3限」

俺「俺4限」

単位が危ういどころか足りなくて留年した俺に、斗馬はサボれと言った。

俺は迷わずOKした。

講義が終わり、竜二の車に乗った。

途中コンビニに寄り、お菓子と小さい紙パックのジュースを大量に買い込み、墓地へ向かった。

俺「また行くの?」

斗「連れてきちゃったんだから返しに行けばいいかと」

圭「余計増えたらどーすんの?」

斗「そしたらお祓い行って下さい」

腫れ上がるほどに叩かれるお祓いはもう嫌なのか、圭太は大人しくなった。

車は山の中へと入った。

対向車はたまに通るトラックくらい。

ほぼ交通量0の静かな山だ。

圭「あ゙ー無理!」

竜「やばい俺も無理かも」

斗「事故んないで下さいよ」

圭太は耳を塞いで座席の上で体育座り。

竜二と斗馬は嫌な顔。

俺「なんかあったの?」

事故った鹿の死体でもあったのかと思ったけど道路が続いてるだけで何もない。

圭「泣き声!!」

竜「俺も聞こえる。何人いんのこれ。」

斗「そこら中にうじゃうじゃいますけど」

圭「無理!赤ちゃんいっぱいとか無理!」

嫌な空気のまま安全運転で墓地に着いた。

竜二は平気そうに見えたけどハンドルは手汗でびちょびちょだった。

車を降りて、無縁仏の前まで行った。

2日前に置いていった花は完全に枯れていた。

竜二と斗馬に言われるがままに、圭太は地蔵の前に1つずつお菓子とジュースを置いた。

水子地蔵にも1つずつ。

で、手を合わせてぶつぶつ呟いてた。

多分、謝ってたと思う。

圭太の斜め後ろに竜二がいて、斗馬は今日も俺の後ろにいた。

斗「もう大丈夫ですよ」

圭「まじ?まじ?」

竜「泣き声とまったな」

圭「あ、本当だ」

斗「帰りますか」

この日は誰が言わずとも全員後ろを振り返ることなく車まで戻った。

山道を走っていても叩くような音はしない。

大丈夫だって言ってんのにやっぱ怖いからとかいう理由で、全員1泊だけ圭太の家に泊まった。

もちろん何もなかった。

助けられないなら下手に同情したりかまったりしない方が良いらしい。

猫の死体見ても可哀想って思うなっていう話と同じ理由で。

あと、地蔵の数に対してお供え物の数が足りないのはあんまりよろしくないらしい。

取り合いにでもなるんだろうか。

そこら辺はわからんけど俺は皆の話について行けなくていつも寂しいです。

何。泣き声って。何。赤ちゃんって。

Concrete
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