駆け込み乗車はお止めください

短編2
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駆け込み乗車はお止めください

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『ドアが閉まります、ご注意ください』

プルルルルルルル

「あー!待って待ってー!

ふ~!間に合った~!」

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プシュー!

ガタン……ゴトン……ガタンゴトン……

毎朝電車で通勤する私。

今朝はうっかり寝坊しちゃって家を出るのが遅くなったの。

あ~ぁ、せっかくお化粧したのに汗でくずれちゃったわ~。

偶然空いている席を見つけて座る。

ショルダーバッグから化粧ポーチを出して化粧なおしをはじめた。

それにしても朝早いって言うのに席が空いてるなんてラッキーだわ。

いつもは立ってなきゃいけないから疲れるのよね。

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「ちょっとそこの君」

手をとめて顔をあげると、スーツ姿のおじさんが私をみている。

「君、席を譲ったらどうだい?

そこは優先席だよ」

後ろの壁をみると確かに優先席と書いてある。

電車が満員なのにここだけ空いてたのはこれが理由か。

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「君、聞いているのかい?」

もう一度おじさんを見る。

おじさんの隣には腰を曲げたおばあさんが杖をついて立っている。

何度も席を譲るように言ってくるおじさんに腹が立ってきた。

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「うるさいわね!!

優先席だから何よ?

年寄りだから何よ?

私が先に座ったんだから譲らないわよ!!」

おじさんの言葉を無視して化粧なおしを始める。

他の人が「こちらへどうぞ」と席を譲った。

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ほら見なさい!

ああやって他の人が譲ってあげてるんだから私にばかり命令しないでよね!

あ~ぁ、朝から嫌な目にあっちゃったわ!!

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『次は〇〇~、次は〇〇~』

あ!私が降りる駅だわ!

早く降りなきゃ!!

電車はまだ動いてるけど席を立つ。

邪魔邪魔!!と思いながら人混みをかき分ける。

ブレーキがかかり一瞬よろめいてしまった。

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『ドアが開きます、ご注意ください』

どんどん人が降りていく。

早く降りなきゃ!

ホームに一歩出たとき、バッグが何かに引っ掛かっているのに気づく。

「え?何?!え?え?!」

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『ドアが閉まります、ご注意ください』

プルルルルルルル

「あ!待ってよ!

まだ降りてないよ!!」

カバンを見るとさっきのおじさんがかばんを離さない。

なぜか電車の中に引きずり戻される。

「何するのよ!離してよ!

離しなさいよ!!あぁ……!」

おじさんはバッグの紐で私の首を締めはじめた。

表情一つかえず、周りの人も真顔でこっちを見てるだけ。

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「どうして?!

どうして誰も助けようとしないの?!

う……苦しい……!!」

トン……トン……トン……トン……

杖をつくような音が聞こえる。

意識が薄れていくなか、全員が声をそろえて言った。

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