長編10
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雨宮しぐると霊媒少女

七月下旬の昼下がり、最近色々あって疲れている俺、雨宮しぐるはカフェでコーヒーを飲みながらゆったりと至福の一時を過ごしていた。

過ごしていたのに、邪魔が入ったのだ。

木製の洒落た椅子に座りのんびりとコーヒーを飲んでいた俺に一人の少女が話しかけてきた。

少女の名は城崎 鈴那(しろさき すずな)、年齢は俺と同じ17歳で高校も同じ。黒髪ロングで一見暗い印象。

ずっと前から俺のことが気になっていたそうだ。

ちなみに恋愛的な意味では無く、理由は意外なものだった。

「それで、俺に何の用だよ」

「あなたのその超が付くほど中途半端な霊力のこと、ずっと前から気になっていたのよ。」

「超が付くほど中途半端ってところ要らないだろ。事実だけどさ。」

確かに、俺には地元で有名な祓い屋だった祖父譲りの霊力がある。

だが、驚くほど中途半端で、祖父が残したお祓い用の御札を使って除霊が出来ても成功したりしなかったりだ。

そんな俺になぜ興味を持ったのか。

「っていうかお前、なんで俺に霊力があるって、まさか…」

「その“まさか”かもしれないわ。アタシはあなたのこと何でも知っているのよ。あなたの好きな食べ物は揚げ出し豆腐、あなたがロリコンだってことも知ってる。」

「ちょっとまて、俺はロリコンじゃない!どうしてそうなった!それと何でも知ってるとか怖いから、ストーカーかよ!」

「そうよ、あなたのストーカーよ♪でもあなたがいつも和服の小さい女の子と一緒にいるからなかなか話しかけられなかったの。」

和服の小さい女の子とは、露のことだろうか。露とは、二年前から俺の家で暮らしている義妹であり、家事を全てこなしてくれる13歳の少女のことだ。

「あいつは俺の義妹だ。決して俺がロリコンなわけじゃない。つーかストーカーよっていくらなんでも開き直りすぎだろ。」

「それなら、シスコン?」

「・・・」

そう言われると何故か否定出来ない。否定出来ない自分を呪いたい。

「とっ、兎に角、本当の目的は何だ。ストーカーってのは俺の思った“まさか”じゃない。お前、霊能力者なんじゃないのか?」

「その通~り!アタシお祓い師やってるの~!だからね~、あなたにお祓いを手伝ってほしいのよ。」

お祓い手伝ってほしいとは、何をすれば良いのだろう。

「俺に手伝ってほしい、お祓いを?」

「そうよ、その超中途半端な霊力が必要なの。必要…かも。必要…かな?」

「お前さ、ふざけてんの?」

「ち、違うわよ~!とりあえず、あなた御札が無いとお祓い出来ないんでしょ?お祓いの仕事が今日あるから、今からあなたの家にそれ取りに行きましょ。」

「今日って、唐突過ぎないか。」

とは言いながらも、俺はお祓いの手伝いをすることを承諾し、御札を取りに城崎と家へ向かった。

「え?もう終わっちゃいましたよ?」

そう言ったのは露だった。

「えぇ!?どうしよう…あれが無いとお祓いどころか自分の身も護れねぇよ…」

家に着いてすぐ、露に御札を持ってきてもらうため玄関から声を掛けたらそう言われたのだ。

おそらくこの前使ってしまったのが最後だったのだろう。

俺から祖父の守護は消えてしまったのか…

少し黙っていると、城崎が沈黙を破った。

「ねぇ、しぐる、あなた少し勘違いしてるわね。」

「え、何を?」

「あなた何もしなくても自分を護れてるのよ。だってあなたの霊力、力は中途半端だけど、霊や物怪が嫌う波動を発してるもん。」

いきなりそんなことを言われても訳がわからない。

「は?それどういうこと?俺すげぇの?」

城崎は一瞬戸惑ったが、こくりと頷いた。

「うん、しぐるみたいな人は初めて見たかも。」

それもおそらく祖父譲りのものだろう。

本当に祖父には感謝しなければならない。って言うかじいちゃんどんだけすごい人だったんだよ。

「でも、御札が無いとお祓い出来ないのは事実だぞ。どうすりゃ良いんだ?」

すると城崎は、ふふんと笑いながらポーチから何か薬の入った小さな瓶のようなものを取り出した。そして、それの説明をし始めた。

「霊力増幅薬。これ飲むと、自分の霊力を高めることができるの。ただし毒性があるから、服用は3日に1回1錠までね。効果は24時間続くから。昔はドロドロの液状で不味いし飲みにくかったらしいんだけど、最近はこういう錠剤タイプのものが出たのよね~。」

当たり前のように喋り続ける黒髪の少女、だが、その内容があまりにもぶっ飛びすぎでいまいちピンと来ない。

そもそも霊力を増幅させる薬なんてあったのか!?

「え、つまりその薬を飲めば霊力が高まって俺でもお祓い出来るのか?」

「そーゆーこと。これあげるわ、無料プレゼント。」

そう言って城崎は俺にその怪しい薬を渡してきた。

俺は一つ気になることがあった。

「法律に引っ掛からねぇよな、これ。」

「服用限度守ってれば危険は無いし、政府も薬の存在を黙認しているわ。」

「そうか、なら良いや。」

そういうことなら問題無い。初めてのちゃんとしたお祓いに向けて心の準備をしないとな。

「あ、あのぉ…旦那様方、私、さっぱり話の内容が理解できなくて…」

「あぁ、悪い。訳わかんねぇよな。俺もいまいちピンと来ねぇし。」

そんな会話をしていると、突然城崎が俺に変な視線を向けてきた。

「なんだよ。」

俺がそう言うと、気持ちの悪いものを見るような目でこちらを見ながらこう言った。

「しぐる…幼女に自分のこと旦那様とか呼ばせてるんだ…キモッ!」

「んだよもうっ!露は小さいけど幼女じゃなくてもう13歳だ!それに旦那様ってのは露が勝手にそう呼んでるだけで…」

「へ?違いますよ!旦那様が私にそう呼べと仰ったのではないですか!ほら、元気の無い旦那様の所へ私が引き取られた時に。」

確か、あれは2年前のことだった。

3年前に妹のひなを亡くして病んでいた俺、雨宮しぐるの家に一人の美少女が義妹として引き取られることになったとかいう夢のような話だ。

露「今日からお世話になります。露と申します。」

俺「あぁ、よろしく~。めんどくさいから適当にやってて。」

露「あのぉ、住まわせて頂くので、何かお手伝いさせてください。何でもします。」

俺「ん?今何でもするって言ったよね?」

露「へ?はい。」

俺「そうか、なら、俺のことを旦那様と呼んで俺の命令何でも聞け!良いな!」

この時だったか。

「そういえば…アハハ、そんなこともあったな…」

「うわ~っ!最低だわこの男!気持ちわるすぎて身体中虫酸が走るわ!」

「そこまで言うか!あれはちょっとした悪ノリで…」

あのときは本当に申し訳なかったと思い、俺は露に謝った。

すると露は、「別に良いですよ~」と言った後に、続けてこう言った。

「でも…悪ノリで旦那様と呼べと言われて、おまけにあんなコトまで…」

「待て待て待て!それだとなんか誤解されるだろ!あんなコトってどんなことだよ!」

「旦那様、寂しくて一人で眠れない~とか言って、私が添い寝してあげてたじゃないですか。それにお風r…」

「ああああああああああああ!!!!!わかりました本当に本当にごめんなさいでしたっ!!!!」

色々バレてしまった。

変な噂が流れなければ良いけど…

鴉の鳴き声が聞え始めた頃、俺と城崎は、ある建物の前に立っていた。

そこは、家からバスで20分程、駅前の街中にあるビルだ。この会社は既に倒産して今は誰も居ない。建物自体はかなり古びているので、それなりに雰囲気はあった。

今回は、ここで起きる怪奇現象を調査するだけだそうだ。

「それで、このビルでどんな怪奇現象が起きるのさ」

俺が城崎に訊ねると、少し間をおいて、震えた声でこう言った。

「すごい…」

「え、何が?」

すごいって、何がどんな風にすごいのか。

少し鳥肌が立ってきた俺に、城崎はクスッと笑いながら言った。

「いや別にすごくないけどさ。しぐるがどんな反応するかなぁって。」

「な、なんだよ…それで、ここで起きる怪奇現象を知りたいんだけど」

「それを今から調べるんでしょ。バカなの?心霊現象の調査ってそのことよ。」

そんなこと言われても…まぁ、今のは俺がしっかり説明を聞いていなかったせいかもしれない。

「う…ごめん」

「別にいいわ。このビルの管理者から頼まれたの。このビルの変な噂があるから、場合によってはお祓いしてほしいって。」

「そのお祓い、やるとしたら、今日?」

「そうね~、ちゃんとしたのは後日だけど、気休め程度でも軽くお祓いしておけば後々楽になるだろうし。」

おそらく、最初からお祓いをする気でいたのだろう。

俺が背負わされているリュックサックの中にはお祓いに使うであろう道具がたくさん入っているのだ。

そうして俺たちは、ビルの中に入っていった。

ビルの中は湿った空気が漂っていた。夕暮れ時とはいえ、今は夏。薄暗く蒸し暑いビル内の探索は、前に観たホラー映画を思い出させた。一階、二階、三階まで上がってきた。ちなみに、このビルは四階までである。

ふいに、「あっ」と城崎が声を上げた。

「何かあったのか?!」

俺が訊ねると、城崎は「四階への階段を誰かが上がっていった」という。

俺たちも四階へ上がることにした。

四階に着くと、誰も居ない。しかし、何かがおかしい。

「なぁ、このビル、四階までだったよな。」

そう言ったのは俺だった。

「うん、この階段、どこに続いてるんだろうね…」

そう、外から見たビルは、確かに四階までしか無かった。それが、四階から更に上の階に続く階段があったのだ。

「行こう!こっちに何かあるかも!」

城崎がそう言って、階段を上がっていく。

「おい待て!」

俺も城崎の後に続いた。

存在しないはずの五階。着くと、なぜかそこは血塗れだった。

人が一人殺された後のような感じで、地面には血が飛び散っていた。

「なんだよ、これ。」

あまりの出来事に、俺は度肝を抜かれてしまった。

しかし城崎は、「うわぁ」と言うだけで、特に恐れている様子は伺えない。

普通の女の子なら、こういうの見て泣き出しちゃったりもするだろう。

それだけ慣れているのだろうか。今まで、どんなものを見てきたのだろうか。

「城崎、この先に進むのか?」

「妖気が漂ってる。このビルの怪は霊じゃなくてたちの悪い妖怪だったみたい。帰る!」

霊ならば対処出来たらしい。しかし、霊と妖怪は別物だ。

霊を祓うための道具では、妖怪は祓えない。最初は霊のイタズラ程度だと思っていたのが、たちの悪い妖怪となるとヤバいというのは素人の俺でも理解できる。

俺たちは方向転換をして、さっき来た階段を下りようとした。が、無い。階段が消えている。代わりにそこには薄汚れた白い壁があった。

「し、城崎、どうする?」

「退治しなきゃ帰れなさそうね。」

そう言うと、城崎は俺の背負っているリュックサックの中から紙切れのようなものを取り出した。御札のようだ。

城崎は、その御札のようなものを床に貼り、その上に立った。すると、そこには城崎を中心に半径一メートル程のの陣が広がり、周りを霊力が渦を巻いているのだろうか、妙な風が吹く。

「失せろっ!!」

そう叫んだのは城崎だった。彼女の視線の先に目を移すと、そこには灰色の汚れた着物を着て、下半身を引き摺りながら両腕だけで前に進む、首の無い化け物が居た。

その化け物は、「うぶうばぁぁぁ…」と気味の悪い声を上げながら、少しずつ前へ進んでいる。

あいつが怪奇現象の原因か。

「消えちゃえっ!!」

城崎はそう叫びながら集めた霊気を化け物に向けて飛ばした。

すると、忽ち化け物はバァァンという爆音と共に消滅した。ように思われた。

化け物は消滅するどころか、キズ一つ付いていなかった。

「ヤバいヤバいダメだこれ!しぐる!霊力増幅薬飲んで!」

「え、ああ、おう!」

俺は小さな錠剤を1錠口に入れて飲み込んだ。

一瞬意識が遠退いたが、すぐにいつも通りの状態に戻った。

「飲んだぞ、どうすればいい?」

「ここに立って!早く!」

「は、はいっ!」

俺は言われるがままに陣の中心に立った。

俺は化け物に意識を集中させた。どうしろと言われた訳でもない。ただその時は、そうするべきだと俺の脳が無意識に判断したのだ。

すると、俺の周りにオーブのようなものが浮かび上がった。

「クソ野郎消えろ帰らせろコラァッ!!!」

訳のわからない暴言を化け物に向けて吐くとそのオーブは四方八方に飛び散り、化け物にも命中した。

オーブが当たった化け物は溶けるように消えて行き、ビルの窓ガラスはバリンバリンと割れ、後ろの壁が崩れて階段が姿を現した。

「やったのか?」

「やったぁ!倒した!」

「はぁ…帰るか?」

「うん!そうしよ!」

俺たちは階段を下りてビルの外に出た。空はすっかり暗くなっていた。

外に出たときに違和感を覚えた。

俺たちは四階から一階までの階段しか下りていないのだ。

俺たちが居たのは五階。

それに、あれだけの爆発音や窓ガラスの割れる音がしたにも関わらず、誰も気づいていないようだった。

「あそこは、もう既にこの世では無かったのかもね。」

城崎は静かに呟くと、続けてこう言った。

「今日は、ありがと。お疲れさま。ねぇ、また手伝ってくれる?」

「ああ、俺でよければ手伝うよ。今日は良い経験が出来た。お前こそ、お疲れ。」

あの階段を一段上がったら、そこは既に異界。俺たちは今日、少しの間だけ別の世界に居たのか。

下手すれば死んでいたのだろう。

城崎鈴那は、いつもこんな危険と隣り合わせだったのか。

「なにボケーっとしてるの?はやく帰ろ。」

城崎の声でふと我に返った。

「お、おう。帰るか。」

忙しい午後だった。

露は一人で寂しいだろうか。

帰ったら、今日の土産話を早くしてやりたい。

異界に足を踏み入れたこと、俺が化け物を退治したこと。

怖くて一人じゃ眠れなくなってしまうだろうか。

そうしたら、俺が寄り添って寝てあげよう。

そんな気持ちの悪い妄想をしながら、俺たちは帰路へと着いた。

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mami様!コメントと怖いありがとうございます!!!
いえいえいえ!逆にメール通知めっちゃ嬉しかったです!!!!これからも雨宮しぐるシリーズをよろしくお願いします!!!

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