中編4
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真夜中のコンビニ

ある日、珍しく男友達のヨウイチから電話があった。

社会人になってからできた男友達ではあるが、彼は滅多に自分から他人には連絡しない。

自分があまり干渉されたくないタチなので、他人にも干渉しないのだそうだ。

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電話口の彼の声は、何だか疲れ切っていた。

「よーちゃん、どしたの?お疲れ?」

私の声に少し笑ってから、

「そーだね、最近なかなか疲れ取れなくて。もう歳なのかな」

「なーに言ってんの!私もあんたもまだ20代でしょが」

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彼はコンビニでアルバイトをしている。

賃金のいい深夜のシフトで、完全に夜型人間になっていた。

「バイトで何かあったん?」

私が尋ねると、

「ん、まぁね。ちょっと会いたいんだけど…」

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「いいよ、いつ?」

彼と会う日取りを決めて、その日は電話を切った。

まさかこの後、彼から怖話を聞くことになるとは、この時はまだ思っていなかった。

それくらい、彼は霊的なものから遠い存在であったのだ。

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ヨウイチがバイト休みの日、私は彼の家へ行った。

男にしておくのが勿体無いくらい几帳面で、部屋は綺麗に片付いている。

「ねぇ、あんまり良くないモノが視えるよ?」

私が告げると、「やっぱり?」と言った。

彼の身体を黒い「気」のようなものが纏わり付いているのが、私には視えていたのだ。

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「疲れ取れないって言ってたの、きっとこのせいだね」

私がヨウイチに纏わり付く気を祓うと、彼はポキポキと肩や首を鳴らして、

「サンキュ。少し楽になったわ」

と笑った。

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私は改めて、彼から詳しく話を聞いた。

彼の勤めているコンビニは、海が見えることで人気のある霊園へ続く道の途中にある。

墓参りシーズンは、かなり多くの客で賑わうが、シーズンオフは近所の顔見知りが買い物に来るくらいの閑散としたものらしい。

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彼のシフトは夜10時から朝の6時まで。

基本、深夜は客がほとんど来ないのでレジ裏の控え室で監視カメラのモニターを見ながら対応しているとのこと。

ある夜、とても奇妙なことが起きたそうだ。

時間は深夜2時を回った頃。

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気付くと1人の男性客が、サンドイッチや惣菜コーナーの前で品物を選んでいた。

「…あれ?いつ入ってきたんだろう?」

誰しも知っていることと思うが、コンビニは入店するとチャイムが鳴る。

でもヨウイチは、それを聞いた覚えがない。

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その時は、疲れていて聞き逃しただけだろうと思っていたそうだ。

レジをチェックすると、小銭が切れかけていたので事務所で換金してくることにした。

例の男性は、まだ品物を見ている。

モニターをチェックしながら急いで戻ってくればいいかと、ヨウイチはレジから1万円札を取り出すと事務所へ向かった。

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事務所でそれぞれ、1円玉、5円玉、10円玉、50円玉、100円玉、500円玉に換金すると、ダッシュでレジに戻った。

「…あれっ…?」

男性客の姿がない。

万引きかと思ったが、そもそも商品を店外へ持ち出そうものなら警報が鳴る。

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買うのをやめて出て行ったのかもしれない、そうヨウイチは思ったそうだ。

朝の6時になると、パートのおばさんと店長が出勤して来る。

彼らに仕事を引き継いだら、ヨウイチの仕事は終わりだ。

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「お先に失礼します。お疲れ様でした」

私服に着替えてパートのおばさんと店長に挨拶をすると、まっすぐ帰宅。

疲れと眠気から、食事もそこそこに眠ってしまったらしい。

昼過ぎに、店長からの電話で起こされた。

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「昨夜、停電でもあったのか?」

店長の言葉に、思わず「は?」と返したそうだ。

話を聞くと、サンドイッチや総菜を買って行った客から「味が薄くなってる」とか「傷んでるんじゃないか?」等のクレームがあったとのことだった。

「いえ、停電はありませんでしたけど…」

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勤務態度のいいヨウイチの言葉に、店長は「そうか、ならいいんだが…」と言って電話を切ったとのことだった。

「あー、その男性客、幽霊だね」

と私。

ヨウイチは、薄気味悪そうな顔をした。

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人間は死んで霊になっても食事はする。

仙人が霞を食べるように、霊の食事は香り。

食べ物の香りを、食事とする。

御霊前に上げた食事の味が落ちるなんてことはまずないが、稀に飢餓で亡くなったりした霊が食事をすると、そういうこともあるらしい。

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「コンビニの場所が場所だから、霊道とかも近くて来るのかもよ?」

私が言うと、ヨウイチはため息をついた。

「珍しいね、霊には縁のないよーちゃんが、そんな体験するなんて」

「…ホントだよ。視えないタイプの人間だってのに、あの日は視ちゃったなんてさ」

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「たまたま波長が合っちゃったんだよ。普段視えなくても、波長が合うと視えちゃうこともあるし」

私が答えると、彼は再びため息。

あれから同じようなことが2、3日は続いたらしい。

その後、ヨウイチはアルバイトを辞めた。

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今もそのコンビニには、深夜2時を回ると視えざる客が来店しているのだろうか…。

それを知る術は、今はもうない…。

[おわり]

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