長編18
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女ジャ●アン伝

私は心霊スポットと呼ばれる

各地で幽霊が出ると言われている場所を

休日などを利用して訪ねて廻ることを趣味としています。

ネットで知り合った天之津君に、

心霊スポット探検を数人の仲間とやってるから一緒にどう?

と誘われたのがきっかけです。

それから現在まで探検に同行して数々の怪異と遭遇…

恐怖で心臓を鷲掴みされ、闇の中を半泣きになって逃げ回り、

這々の体で車に辿り着いて

帰ったことが数度…

遊園地などのアトラクションでは味わうことができない

保障も保険も安全装置もまるでない 、

全ては自己責任でギリギリのスリルを楽しむ

心霊スポット探検…

私は完全にはまっていました。

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その夜は屋内メイン…廃工場と廃レストランをこなし

三つ目…本日、最後の心霊スポット、

某県某市にあります

巨大分譲住宅地からわずかに離れた木立の中に威容を見せる

廃アパートへやってきました。

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ここは二階の一室で首を吊り、

自殺を遂げた方が霊となって現れるそうで、

それから入居者達が夜な夜な恐ろしい体験をして、

耐え切れなくなった全員がアパートから立ち退き、

幽霊が出ると噂となって広まった為、

入居する人がいなくなり、

潰れてしまったのだと聞いています。

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「アパートは狭いし、全員で行けば10分ほどで終わってしまうので

 今回は一人ずつ、

 十分間隔で次の人間を送り出す『肝試し』ルールを適用する!」

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天之津君がそう宣言しました。

本日、最期の探索にアパートを持ってきた辺りで

何かあると思っていたのですが…

私以外の全員が賛成の意を示したので、私は反対のしようもありません。

今回の参加者は5人なので一時間弱で終わる計算です。

リーダー格の天之津君が最後になり

トップバッターは芭蕉沢君、

その次が私で、来栖君、醍醐君の順番でアパートを廻ることになりました。

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私が参加した探検で『肝試しルール』が採用されたのは初めてです。

最近、スポット探検に慣れてきたところなので、

このレギュレーションにドキドキでした。

いえ、ガクガクブルブル…です。

一人で幽霊が待ち構える場所に向かうとか…

ホラーや怪談が子供の頃から大好きだった私ですが

天之津君達と知り合う以前は、心霊スポットへ行くことなど

考えたこともなかったのですから。

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「大丈夫だよ。俺が先に行って安全をある程度見極めてくるし

 もしも、帰還が遅くなるようなら全員で救助に向かうから

 いつも通りにやればいいよ」

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一生懸命隠していた緊張を芭蕉沢君に気取られてしまったみたいです。

完全な子供扱いで私の頭を軽くぽんぽんと叩き、

夜闇に慣れてきた視界の中で眼鏡のレンズ越しに芭蕉沢君はにっこり笑いました。

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「は、はい!お願いします!」

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「俺達は道理の通らぬ世の中に敢えて挑戦する、

 頼りになる神出鬼没の特攻野郎Aチーム!

 助けを借りたいときは、いつでも言ってくれ」

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他のメンバーも私に励まし?の言葉をかけてくれました。

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「どこかで誰かが泣いている…誰が助けてくれようか…この世は人情紙風船、

 耳をすませたやつは誰…泣き声目指して走る影

 この世は闇の…『助け人』」

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「来栖君…なにそれ?」

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「宇宙飛行士のトニー君は、どうしたことか宇宙ならぬ

 南海の小島にたどりついて、摩訶不思議な壷を見つけた。

 その壷から美しい煙と共に現れたのが、なんとかわいらしい魔女のジニー

 あなたのそばならどこまでもと、とうとうトニー君のうちまでついてきてしまった。

 なんせ魔女のこと、

 チョットかわいいウインクするだけでなんでもかんでもお望みしだい。

 え~さてどんなことにあいなりますことやら……」

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醍醐君…私には君が何を言っているのか、さっぱり分からないよ。

家に帰ってお風呂に入って寝たくなりました…

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まぁ、そんな訳で

車を停めた廃アパートから100m程離れた位置にある公園の駐車場から、

一人ずつ向かう心霊スポット探検が開始されたのでした。

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「じゃあ、行ってくる」

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芭蕉沢君が某警察特殊部隊のロゴが入ったキャップをかぶり、

懐中電灯を片手に飄々と出発していきました。

全然、怖いって様子見せませんね。

芭蕉沢君を見送って、

残った男子はガンダムがどうのボトムズがどうのと雑談を始め…

私は緊張して会話に加われず、

刻々と近づいてくる心霊スポットへ一人で向かう恐怖に、

色々と想像して震えてました。

チェーンソーとホッケーマスク…

テレビのブラウン管から這い出てくる女性とか…

携帯電話に着信ありとか…

俊夫君とか…なんとかかんとかアクティビティとか…

ダメです!もっと…た、楽しい事とか想像しなくちゃ…

し、死霊の盆おど…

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「あ、芭蕉沢が戻ってきたな、そろそろ10分か、

 まあ適当にがんばってな」

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え!?もうそんなに時間経ちましたか!?

体感では2分と経過していないような…

本当だ!懐中電灯片手に戻ってくる芭蕉沢君の姿が見えました。

自分の順番がとうとう来たと言う事ですね…

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「なんにも出なかったよ」

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戻ってきた芭蕉沢君は真っ先に私へ向かってそう言いました。

なんにも出なかった…カーネギー名言集に加えたいくらいの素敵な言葉です!!

一歩踏み出す勇気が湧いてきました!

右手に持った懐中電灯…

軍や警察特殊部隊御用達の物凄い輝度を持つ懐中電灯を点灯させ、

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「行ってきます!」

   

「頑張れ!」「行ってこぉい!」「征け!ガトーよ!コロニーはそこにあるのだ!」

   

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皆に見送られてとことことことこ…

10mほど歩いたら…やっぱり怖くなりました。

後ろを振り返り、

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「誰か一緒に来ませんか?」

   

「魅力的なお誘いなんだけど…一人で行ってらっしゃい」

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全員がシッシと野良犬でも追い払うように手を振るじゃないですか!?

私に向けて…

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「孤立…無援…万事休す…万策尽きた…天は我を見放した…」

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八甲田山遭難並みの悲壮感…

誰も助け舟を寄こす気がありません。

諦めてトボトボと歩き出します…そしてまた10m進んで振り返ると

だって誰か気が変わってくれてるかも知れないじゃないですか…

手を繋いで一緒に行ってくれるとか…

あ、なんだか召集令状が届いて出征していく兵隊さんを見送るみたいに、

四人が万歳三唱してるじゃないですか!?

本気で一人で行かす気ですね…女の子を一人で…

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怖いなら…怖さを紛らわす為に…そうだ!

なんか歌っちゃお♪

立ち止まって選曲開始…歩きながらじゃないのが流石です私…

じゃあ、あれにしよっと♪

杏里さんの『CAT'SEYE』。

古いですね~私なんてまだ生まれてないですよぉ~でも知ってます♪

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「せぇの!

 でんでけででででん でんでけでんでんでん

 街はきらめくぱっしょんふるーつ♪

 ウインクしてるえぶりな~い♪

 グラスの中の…グラスの中の…ぐ…」

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歌詞が…

歌い始めていきなり歌詞に詰まりましたよ。

歌詞が分からないと、私はジェリド・メサみたいに。

もう一歩も前に進めないじゃないですか!?

記憶を辿りましたが、

やっぱり分からず、誰かに聞いて確かめないと!

さあ、戻りましょう。

仕方ないのです進むためには!

皆の方に振り返り、

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「グラスの中のなんだっけ!?」

「うるせぇよ、さっさと早く行ってしまええ!」

なんか凄く怒鳴られてしまいました。

とぼとぼとぼとぼ…

レオンに送り出されアパートを脱出したマチルダ(ナタリーポートマン)みたいに

とぼとぼとぼとぼ…

あーるーはれたぁひーるさがりーの子牛みたいに、

とぼとぼとぼ…

子牛は荷馬車に乗ってたのですね…歩かないですね…

とぼとぼとぼとぼ…

廃アパートが見えてきました。

木立の向こう…街路樹の張り出した枝葉によって夜空が消され、

周囲には濃い闇が満ち

アスファルトの上を落ち葉が風でカサカサと、

音を立て転がっていきます。

アパートの敷地を囲む緑の金網フェンス…

建物がはっきり見えてきました。

緊張と恐怖が一気に高まります。

コンクリート製の門柱が立つ間を抜けると、

足許は砕石が敷かれたものに変わりました。

私の一歩一歩に砂利が崩れ、

物悲しい音をたててくれます。

芭蕉沢君が何も出なかったと言ってたし…

きっと、私…夜の雰囲気に飲まれてるだけなんだ…

パンが無ければケーキを食べればいいこと…

馬鹿よね私って…

歌詞が分からなければ別の歌をうたえばいいだけじゃん!!

経年劣化が著しい、

打ち捨てられた動物の骸骨みたいな色をしたアパートの壁を見つめ

口から出た歌は…

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「あいきゃんすとっぷ♪ざ、ろんりねぇ~す♪

 こぉらえきれぇ~ず かぁなしぃみがぁ~とぉおまぁらなぁ~い♪」

なぜかやっぱり杏里さんの『悲しみがとまらない』でした。

『CAT'S EYE』の歌手つながりですか…杏里さん…

悲しい歌なのに曲は明るいしノリが良いんですよね♪

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「あいきゃんすとっぷ♪ざ、ろんりねぇ~す♪

 どぉしてなぁ~の かぁなしみがぁ~とぉおまぁらなぁ~い♪」

それが手伝って私、一階部分を無視して、

階段を上って二階へ行っちゃいました。

自殺した人の幽霊が出る部屋って二階なんですよね。

さっさと済ませて帰りましょ♪

コツコツと靴音を立てながら短い廊下を進み、

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「あなたに彼女 会わせたこぉとを♪

 わたし今でも 悔やんで~いる♪」

その自殺された方の部屋のドアノブに手をかけた時、

shake

べきっ!!

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すぐ近くで何かが折れ砕けるような音が耳朶を激しく震わせました。

続いて金属的なキンキンという弾ける感じの音…

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「ふたりはシンパスィイ 感じ~てた♪

 昼下がりのカフェテラッス~♪」

歌いながら周囲を確認…

建物倒壊…するような様子は見られないけど…

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「あの日電話がぁ~ふいに鳴ったのぉ~♪」

鍵の掛かっていないドアを開けて中に入ります。

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「あ~のひ~ととぉ別れ~てとぉ

 彼女からぁ~♪」

shake

また…凄まじい破壊音!壁にダンプが突っ込んだみたいな…

でも、でも何も起きてないんですよ。

音だけ!そしてまた近くで

叩くような金属音やガラスが割れるパキパキという音がしました。

ドアの脇にあるシステムバスから

その先にありますキッチン兼リビングから…

shake

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「こ、これってもしかしてのラップ音!?」

shake

部屋に入ってから急激に気温が低下したような…吐く息が白いです。

あのパキパキ、キンキンという音が鳴りっぱなしで…

ラップ現象なんて…今まで行った心霊スポットでは

起こったことなかったのに…

だんだんと怖い想像が…

でも、せっかく…

ここまで来たのだから…

部屋の奥まで…自殺現場まで行ってこないと…

shake

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「あいきゃんすとっぷ♪ざ、ろんりねぇ~ぇす♪

 どぉしてなぁ~の♪

 かぁなしぃみぃがぁとぉ~まぁらなぁ~い♪」

怖さを紛らわす為にも、

歌うの再開!

懐中電灯を照らしてキッチンを確認…

shake

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「誤解だよぉって あなたはわーらうー♪

 だけどキッスは 嘘のにぃおい~♪」

何か生ごみみたいな…

なまものが傷んだような悪臭が鼻を衝きます。

そして、寒さで鳥肌が立つほど…闇に鮮やかに浮かぶ…

吐く息が真っ白!

エクトプラズムとか言いたくなるほど真っ白です!!

ここ…絶対、何にもなく…ないよ!

芭蕉沢君絶対嘘ついた!!

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「抱きしめら~れて 気付い~たのぉ♪

 愛がここぉにぃないこと~を~♪」

shake

今まで廻った心霊スポットでも最怖の部類に入る…

気配…なにかが動いてる…なにかいる…いますよすぐそこ!

背筋がゾクッとして、

背後の六畳間でなにかが…

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「恋は小さなぁ 嵐みたいにぃ♪

 とぉもだぁ~ちも~こぉいびともぉ~

 うばあああってぇ~♪」

shake

天井が抜けたかと思いました。

大轟音!!そして地震みたいな激しい揺れ!!

立っていられません!!

思わず頭を手で庇ってその場にうずくまります。

アパートが…崩れるの!?

轟音も揺れもまったく止みません!

何かが…

何かが、誰かが、部屋の中で暴れまわって、

滅茶苦茶に壊しまくっているみたいな

移動している!?

爆音!?騒音!?破壊音!?

私の周りを…

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「怖いよ!怖いよ!!

 あいきゃんすとっぷ!ざ、ろんりねー!!

 彼を返して!悲しみがとまらなぁいいい!!」

shake

キッチンの方でも扉が激しく開いたり閉じたりする音

シンクが熱いお湯をかけた時みたいにボンボンと鳴り

ドタドタと誰かが駆け回る足音がします!

shake

「あいきゃんすとっぷ!ざ、ろんりねー!!

 誰かぁ助けて! 悲しみがとまらない!!」

歌っているというよりはもう怒鳴っています私!

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「あいきゃんすとっぷ!ざ、ろんりねー!!

 こぉらえきれぇず 悲し!!」

shake

誰かが私の手を…

頭を庇う私の手を誰かが触りました!?

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「いやだぁ!やめてよぉ!!」

それを振り払おうと私はもがきます。

しかし、私の手を…あっちも手です!

ぎゅって!ぎゅって握ってきます!!

泣く!気持ち悪い!吐くよ!!

shake

「俺だよ!おーい!

 お・ち・つ・け!!」

男の人の声がしました。

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「うぁ~ん!本当のお母さんは手が真っ白だよぉ!!」

「七匹の子ヤギかお前は!?」

そのツッコミ!その声は!?

「来栖君!?」

驚いて顔を上げると

私の後に探索へ出るはずの来栖君がいました。

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「10分経って出発してきたんだ。

 何があった!?

 ここはテレビにも出演する有名な霊能者によって

 除霊済みのスポットなんだぞ?」

「わかんない!わかんないよ!!

 部屋に入ったらこんなんなってた!!」

来栖君が来てくれた安堵と怖さで涙が止まりません。

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「立てるか!?ここはヤバい、尋常じゃない!

 逃げる一手だ!!」

「う、うん!」

そろそろと来栖君に手を貸してもらい立ち上がります

腰は抜けてなかったみたい…です。

「ゆっくりと部屋の外へ向かえ!

 俺は背後を守りながら行くから頑張れよ!」

「う、うん…」

足許が…床が揺れているみたいで上手く歩けません。

寒さがさらに増したようで、氷点下に届いているんじゃないでしょうか?

視界にもなにか黒い塵みたいなものが無数に舞っている…

漂っているみたい…

ガチガチに…寒さと恐怖で凍えた手足を無理矢理動かし、

玄関を目指します。

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「それにしてもなんてぇ怨みだ…

 こいつはもう呪詛と呼んでも大差ないな…」

背後で。戦慄のあまりに言葉を漏らしてしまう来栖君の声がしました。

「これだけ濃いと持ち…」

「なに!?来栖君!?『もち』って何!?」

今、物凄いことを来栖君言おうとしなかった!?『もち』って何!?

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「いいから逃げることに専念して!!

 後の事は後で何とかすればいいから逃げて!!」

来栖君の剣幕に押され

私はドアを開けて室外へ出…

短い廊下を階段に向かって歩きます。

まだ地面が揺れてる…

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「階段気をつけろ!転ぶなよ!!

 転んで落ちたらお姫様抱っこの刑にするからな!!」

転ぶことなく無事に階段を下りて、

早くアパートの敷地から出ようと走り出しました。

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「はやく!はやく来い!!」

「急げ!絶対に後ろは見てくれるなよ!!」

前方…緑の金網フェンスの向こうから天之津君達が手招きをしてます。

え…後ろを…見るなって!?

気になってしまうじゃないですか!?

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「絶対に見るな!!」

私の隣を走る来栖君が怒鳴りました。

「ひゃぁあああ!!」

何かが追いかけてくるんだ!凄いのが!!

得体の知れない怖くて凄くてヤバいものが”!!

もう少し!

アパートの門柱が!あと少し!!

「気を抜くな!車まで全速で走るぞ!!」

鬼ですかあんた達!?息がもう持ちませんよ!!

「死ぬ気で走れ!

 ウエディングドレスを着た

 首からロープ垂らしてる女の怨霊が追いかけてきてる!!」

門のところから私と併走している芭蕉沢君が、

ナイス!このクソ野郎発言をしました。

この変態鬼畜メガネ!!

「加速したじゃねぇか、もう80mだ!頑張れ!!」

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60…

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40…

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20…

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ついた!

駐車場に着きました!!

「早く車に乗り込め!!」

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炎に包まれる宇宙要塞ア・バオア・クーから脱出してきて、

『僕には帰れるところがあるんだ』 なんて、

アムロみたいに悠長なこと言ってる暇はありませんでした。

本日の運転手天之津君が、

運転席に飛び込みキーを回してエンジンに火を入れます。

私は後部座席のドアを開けた芭蕉沢君によって

小包みたいに持たれたかと思うと中へ放り込まれました。

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「むぎゅ!」

続いて醍醐君と芭蕉沢君が乗り込んできます。

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「全員乗ったか!?後ろなんか見てる暇なんかない!

 どこかにぶつける可能性有り!

 全員、対ショック態勢!!」

「全員乗った!さらに対ショック完了!!」

「行くぞ!!」

「バッチコイ!!」

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天之津君は最初からアクセル踏みっぱみたいで、

恐怖を覚える程、無茶な加速で車を発進させます。

ワイルドスピードかデスレースみたいな勢いで、

廃アパートのある一角から離れていきました。

しばらく走っても、

天之津君はスピードを緩める様子はなく…

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「やばい…振り切れてない、かも…」

頻繁にルームミラーとドアミラーを確認しながら呟きました。

「ねぇ!さっきのウエディングドレスの女ってなに!?」

芭蕉沢君と醍醐君に挟まれて後部座席に押し込められてた私…

小包状態から居住まいを正し、

ちゃんとお座りになったところで皆に訊ねました。

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「あそこで自殺した女だよ!

 長年付き合って結婚目前だった彼氏に親友を遭わせたところ、

 NTR…つまり、寝取られたってことだ。

 親友と彼氏は完全に出来上がり、彼女を置いて…

 トントン拍子に結婚まで進んでいってしまう。

 それで、二人の結婚式当日に彼氏のアパートへ行って、

 あてつけにウエディングドレス着て首吊った…って話だ。

 残念な事に…自殺した部屋な、

 彼氏、引っ越した後だったとか…

 転居先とか何も…教えて貰えなかったんだな…」

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「それ…私、聞いていませんけど?」

「ああ、だってあそこテレビに出るくらい有名な某霊能者が、

 除霊済みだから安心って言われていたからな。

 教える必要もないかと…」

天之津君、出ないと分かってる心霊スポットへ私を連れていったんですね。

幽霊の出ない心霊スポットを一人で回らせて怯える私を笑う為に…

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「今、ちらりとリアウインドウに見えた…な」

「やっぱり…持ち帰り…か」

平賀さんに相談だな…と、

天之津君は片手ハンドルで…

ため息をつき、ポケットから携帯を取り出しました。

私は一度も会った事ないですけど…

平賀さんとは、天之津君の知り合いで

心霊スポットで困った事に陥った時、

電話でアドバイスをしてくれる頼りになる方で、

霊能者や祈祷師という職業を持っている方ではなく、

老舗呉服屋の若主人なのだそうです。

当主となる者は代々、修験道を修めることになってまして、

平賀さんも例に漏れず、子供の頃から修行を積んでいるのだとか。

ただ、彼のお爺さんの代からは修験道だけではなく

仙道にも足を踏み入れており、

大陸の巫術、仙術に造詣深く、

さらに武術の達人と言う、

まさに人間兵器!!

そして、超がつくほどの美形!美男子!(天之津君談)

もう!ハガレンのロイ・マスタング大佐イメージそのものですよ!

ていうか私の脳内では平賀さんは

もろマスタング大佐です。

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「あ、夜分に恐れ入ります」

腰を低くしてペコペコと電話の向こうにいる平賀さんと話す天之津君…

こんな遅い時間だというのに、

あっさりと電話に出てくれましたね平賀さん…

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「あ、はい…分かりました…彼女と代わります」

天之津君は携帯を耳から離すと、

平賀さんが問い質したいことがあるからと私へ差し出しました。

わ、私が…平賀さんと会話を!?

携帯を受け取り耳の横へ持っていくと、

私がはじめましての挨拶を1オクターブ高く言うよりも早く、

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「お前、一体何をした?」

ですよ!物凄い錆びた無愛想な声!格好良いです!

実物を見るまでもなく美形決定です!

「ああ、ロイ様…」

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「ロイ?誰だそれは馬鹿か、お前は?」

本物よりも鋭い…日本刀並みの切れ味ですよ!

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「お前…プロが寝かしつけた奴をどうやったら起こせるんだ?

 あの女の怒りは相当のものだ…

 何か心当たりは無いのか?

 怨霊を鬼に変えるような…

 いつもと違うことを何かしていないか?」

感情が一切ない口調で用件のみ…

何か…彼女を怒らせる?

何か…って

何かした

ひとりでアパートに入ったくらい…

ああ、ええと

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「杏里の『悲しみがとまらない』を歌ったくらいだけですけど?」

「………………」

あれ?平賀さんが黙り込んじゃいました。

「もしもし?」

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「罰として1週間憑けてろ

 来週、対策打ってやるから」

ぷつん……

「あ…」

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平賀さん一方的に通話を切っちゃいました。

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「平賀さん…なんだって?」

「…1週間つけてろ…だって」

全員、愕然となりました。

「ど、どどどどういう!?」

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運転席の天之津君へ携帯を返し、

私は背もたれに深く寄りかかり…深く熱いため息を…

だって初平賀さんですもん!

余韻が…錆びた美しい声でした…もの凄く無愛想だったけど…

会話しちゃった♪

対策打ってくれるって…

それって、もしかして平賀さんと会えるってことですか!?

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「罰として1週間付けてろだって

 なにを付けてればいいんだろうね?」

質実剛健とか文武両道とか四字熟語が似合うような声でした平賀さん♪

冷たいけど絶対に冷酷な人じゃありません。

きっと『見ろ、人がゴミのようだ』と言いながら、

最後は全員を助けてしまうツンデレ属性のドSですよ。

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「あれに決まっているだろう?

 車の外でヒラヒラしてる白い奴」

「え!?」

ナビシートの来栖君が親指で窓の外を指しました。

後部座席に座る面々がそちらを凝視…

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「……………」

「……………」

「……………」

いました。

こんな深夜に、すぐ…車の窓の…向こうで、

ウエディングドレスに身を包んだ

非常識なのが…

私達の乗ってる車と平行して浮遊しているじゃないですか!?

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「つかぬ事をお聞きしますが…」

真顔で芭蕉沢君が私に尋ねてきました。

「あの部屋でどんな事をしてくれちゃった訳!?」

どんなって…

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「杏里の『悲しみがとまらない』を歌っただけですけど…」

さっきも平賀さんが黙り込んじゃったんだよね…

車内に嫌な沈黙が降りました。

なに?この機が熟すのを待っているような…間は…

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「馬鹿だろうお前は!?」

『お前!

 何でまた死んだ理由に!

 直撃するような歌をうたってくれるんだよ!?』×4

これが、シンクロ率400%オーバーの総ツッコミ…

「私!?私のせいなの!?」

「当たり前だろうが!霊能者が祓ったとか噂があってから

 ずっと鳴りを潜めていたのを起こしやがって!!」

「霊を起こすなんてジャ●アンだって出来ない芸当だよ!!」

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「ジャ、ジャ●アン!?」

ああ!寄ってたかって私を…

そして私を…

選りにも選ってジャ●アンですって!?

友達から田村ゆ●りに似た可愛い声って言われている、

私のことをジ●イアンですって!?

むかつく!お、おまいらだって…おまいらだって!!

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「あんた達だってどんな幽霊が出るのか教えなかったくせに!

 先にここで亡くなった方の事を教えてくれてれば、

 あんな歌うたわなかったよ!自分達だって同罪だよバーカ!!」

「有名な霊能者が除霊したって聞いてたから…」

「いや!出る出ない別として

 心霊スポットで歌うなんざ非常識にも程がある!!」

「へぇ!?じゃあ、死者に捧げる鎮魂歌ってなんなんですかぁ!?」

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外のひらひらそっちのけで、

私達、口喧嘩をはじめてしまいました。

私 vs.男子4人ですよ!

なんかズルくないですか!?

それでも負けるもんかと県境を越えるまでずっと戦っていました。

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「お前は一生!二度と!『杏里』は歌うな!!」

別にカラオケとかで『悲しみがとまらない』は持ち歌じゃないから…

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「いいですよぉだ!

 今度は『テネシーワルツ』歌っちゃうもんね♪」

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『同じだバァカ!!』×4

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結局、ウエディングドレスの彼女…

私がお目当てだったらしく、家まで憑いてきて、

一週間ほど滞在されていかれました。

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毎晩毎晩、寝ている私を金縛りにして、

ベッドの横にウエディングドレス姿で、

私を汚物扱いの冷たい眼差しで見下ろしてくださいました。

とても凄く怖ろしい形相で…

私も負けてなるものかと、

友人知人から失恋ソングを集めてきて編集し、

それを夜中ずっとかけて、

金縛りになりながら…

起きている間…

意識がある間中、

ずっと失恋ソングを歌いまくりました。

   

   

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週末…金曜日…

私を金縛りには遭わせず

彼女はベッドの横で嗚咽を漏らし、

しばらく泣いたあと、

すぅっと闇へ溶け込むように

消えていきました。

それから、彼女は二度と私の前に出てこなくなりました。

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私の自宅で起きた

ウエディングドレスの幽霊との、

壮絶な攻防戦の一部始終を聞いた天之津君達…

『幽霊を起こして泣かせる冷血女』『霊殺し失恋ソング編集地獄女』とか…

そして、あろうことか…

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『ジャ●アン』…

『女ジャ●アン』という!

私を、そんな不本意なあだ名で呼ぶようになりました。

   

   

   

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(おしまい)

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>mami様
こんな感じのお話が私の書き方だったりします。
彼等のお話はいくつかあるので修正を入れてから、投稿をさせていただきます。
ありがとうございます♪

>マガツヒ様
キャッツアイの歌ってあの部分で私、なんかつまっちゃうんです。
たまにカラオケで歌うのですが…うまく歌えないんですよね。
ネタ満載ですみません。
心霊スポット探検の時に交わされる話ってあんな感じです。
あの人たち…廃墟とかですぐガンダムのネタやります。
「わかるか?ここに誘い込んだ訳を?」
「ニュータイプでも身体を使うことは普通の人間と同じだと思ったからだ」
とか場面の再現を…たまに私にも話を振ってきたりします。
なので、ネタには事欠かないといいますか…
ありがとうございます♪

>ロビン様
もう、いろいろといろいろな場所でシリーズの名前がw
読み返すとあーってなって修正入れまくりですね orz
強調したい部分とか変わったりして…
A君は天之津君にきまりましたw他の方々もだいたいきまりましたが、
今回は一人だけということで。
ありがとうございます♪

>フレール様
はじめまして♪ガンダム大好きです。
EW版ウイングゼロが…Wから入りましたのでやっぱりこれが…
男子からは外道と言われるのですがこれが一番好きです♪
あとイグルーで熱かったヒルドルブが…
たまに心霊スポット探検に行きますと、
ここは●●●●●先生が除霊をしたんだよと話を聞いたりする場所があったりします。
出張おつかれさまです。
読んでいただきありがとうございました♪

>りこ様
Hさんが出そうで出ないのがこのお話だったりします。
電話でのみ登場です。この方のモデルがちゃんと実在したりします。
美形かどうかは…SM●Pのハイ!吾郎さんに似てますが…
このお話ではどうしようかと…
読んでいただきありがとうございます♪

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