中編3
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背後

三年前。

夏の夜、友達と飲み会の後地元の心霊スポットにいくことになった。

酒は入っているし、女の子入れて七人もいたから怖さとかは全然感じなかった。

もとは何の目的で建てられたかは分かんないけど、ど田舎の何もない空き地に寂しく佇む6階建の廃墟。それが地元で有名な心霊スポット。

俺は何度か来たことあるから尚更怖くない。呑気に女の子とのアフターのことで頭を回していた。

適当に屋内を散策して、少し広い部屋で持参した缶酒で二次会をおっ始めた。みんな場所がどういうとこかなんて気にしてないみたいだ。

割れた窓からは街の明かりが見えるし、近くには車通りの多い国道もあるし民家もある。そんな場所だから尚更雰囲気が無いんだよね。

二次会が盛り上がってしばらくしたとき、急に背中に寒気が走った。

直感で本物だって分かった。

向かいに座ってたNが急に表情を変えた。

「みんな。でろ!早く!本物だよ!ここマジでヤバかったんだよ!」

Nが叫ぶと、その異様な様子に皆も固まった。

Nは前から見える見えるって周りにいい回る自称霊感持ちだった。そんなだから俺を含め周りにはただのイタい奴だと思われてた。

ただN は本当に見えるらしい。だって俺にも見えたんだもん。後ろにはっきりと見える。

よく分かんないけど、苦しいような怒っているような表情をしていた。

さすがにこんな体験は初めてだったけど、額に嫌な汗を滲ませながら自分に憑いたモノをしっかり見た。

場は最悪。女の子は泣くし、何人かはN にキレてる。俺の心配してくれる奴はいねえ。

解散して帰路についた車の中でN がしきりにお祓いを進めてくる。なんの因果かじいちゃん坊さんなんだ。助かった。ほんとに。

会社を休んで何年かぶりにじいちゃんに会いにいった。不本意ながらN も同伴してきた。運転手は必要だからな。

久しぶりにじいちゃんの顔見たら、安心してか泣いちゃった。今だから言えるけど、当時は顔真っ青だし生きた心地しなかった。軽率に危険な場所に入ったことと、あろうことかそこで酒盛りしたことを本当に後悔してた。

俺は寺の庭にいるじいちゃんに走ってくと、しがみついて背後の悪霊を祓ってくれるように頼んだ。

じいちゃん一瞬びっくりしたようなリアクションしたけどすぐに恐い顔して怒鳴った。

「この罰当たりが!」

寺の中で半ば説教みたいな形で、じいちゃんから事の説明を聞いた。

俺が背後霊だと思っていたのは守護霊だそうだ。じいちゃん曰く、俺の古い家系の誰か。

俺に見えるようになったのは、俺を安心させる為。

ゾッとしたのは、俺の前に無数の手があって俺を殺そうとしていたこと。俺には見えないけど、じいちゃんには見えるらしい。後で聞いたらN が見たのも手だけだそうだ。

俺の守護霊は俺を引きずりこもうとする奴らと懸命に戦ってくれていたそうだ。だからじいちゃんはそんな守護霊を祓うように頼んだ俺を叱咤したんだ。

分かんなかったんだから勘弁して欲しいけどな。

じいちゃんがお祓いをしてくれた。動転してて何をされたかは覚えてない。

お祓いが終わると、憑き物が落ちたように晴れやかな気分になった。いや、実際落ちたんだけど。

その後、肝試しにいった面子で今でも絡みがあるのはN だけだ。

最近N と飯に言った。そのとき、今だから言えるけど....とN が切り出した。要約すると以下の通り。

あの場を滅茶苦茶にしてN が皆に嫌われて無視されるようになったから皆に伝えてはいないが、N 自身以外には例の手が憑いたらしい。

皆無事だろうか。

Concrete
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