もしも貴方が何もかも嫌になったとしたのなら

中編3
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もしも貴方が何もかも嫌になったとしたのなら

music:3

貴方は今、何処で何をしていますか?

貴方は今、何を考えていますか?

自宅の椅子に力無く身を委ねながら、

思慮の欠落した他人の思考に疲れ果て、苛つきに身を窶してはいませんか?

規則的に揺れ動く電車の中、吊り革に捕まり振動にその身を揺らしながら、

翌る日の後悔を思い出し、悔恨の念に自身を八つ裂きにしたい気持ちに晒されていませんか?

灰色のエレベーターの中で、目的とする階まで移動するまでの時間を持て余しながら、

自分の周囲の人間達の心無い言動に、自身の純心な気持ちを傷付かせていませんか?

薄暗い部屋の闇の中で冷たい布団にその身を包み、明日の到来を陰鬱な気分で待ちがながら、

退屈と鬱屈を紛らわす事を目的に、手の届く範囲での快楽と愉悦を求めて携帯の画面に見入ってはいませんか?

そんな貴方の心に取り憑く気持ちの罅を癒す術を教えます。

もし貴方が椅子に座っているのなら、

まず、新聞でも書籍でも、棄てたレシートでも構いません。紙を用意して下さい。

その紙に図形を描きます。

まず、ばつ印。

次にその左右に三角形。

△×△になっていますか?

描いたら、鏡を用意します。

鏡面になっているのなら携帯の画面でも構いません。

鏡を目の前に置いて下さい。

右に目を向けて下さい。

次に左を見て下さい。

それから真上を見上げて下さい。

最後に、一度目を瞑り、それから鏡を見て下さい。

鏡の右上を、よく見て下さい。

見えますか?

鏡の右上に映る黒っぽい『それ』が貴方を助けてくれる筈です。

もし貴方が電車に乗っているのなら、

次の駅で、一度電車から降りて下さい。

そして、探してみて下さい。

駅の構内にある壁が床に描かれた、赤い○印がある筈です。

20㎝の赤丸です。必ずあります。

よく探してみて下さい。

特に階段の下か、鉄格子の嵌った窓の近くにある筈です。

見つけましたか?

見つけたら、その赤丸を消して下さい。

消えないようなら、手近にある石欠片で傷付けるだけでも構いません。

赤丸を消した後、目を瞑ってから、

『降りといの、降りといの、よんあ様』

口の中で、そう呟いて下さい。

一言も間違えないで。絶対に!

作業が終わったら、電車に乗って下さい。

貴方の他に乗客はいますか?

車輌の端に、黒っぽい人がいたら成功です。

さぁ、周囲を見て下さい。

覚えの無い景色が広がっていませんか?

もし貴方がエレベーターに乗っているのなら。

エレベーターの中には貴方一人ですか?

それなら都合がいい!

まず一度、3階で降りて下さい。

もう一度、エレベーターに乗り込んでから、4階のボタンを4回押して下さい。

次に、9階のボタンを6回押して下さい。

決められた回数、ボタンを押した後、目を瞑り口の中で呟いて下さい。

「降りといぬ、降りといぬ、こじぜと様」

一言も間違えないで。絶対に!

動き出したエレベーターが4階か9階に着いた時、中に人が入ってきたら成功です。

その人は、黒っぽい姿をしてますよね?

では、9階からエレベーターの外に出て下さい。

そこは一階の筈です。

貴方が知っている一階だとは限りませんが。

貴方が布団の中で携帯の画面を目にしているのなら、

『遺棄う仔 偽晒らて 真さ訝ぇ無』

そう、心の中で呟いきながら、ギュッと目を瞑って下さい。

ああ、そうそう、

読み方は、

い き う こ、ぎ ざ ら て、ま さ げ ぇ む

です。

そう心の中で呟きながらギュッと目を瞑るだけです。それだけです。

さぁ目を開けて。

目を開けた時、暗闇の黒よりも黒い『それ』が貴方の目の前でジッと貴方を見つめていれば、成功です。

そこはもう、貴方が知らない世界が待つ明日になっている筈です。

お り と い の お り と い の よ ん あ 様

お り と い ぬ お り と い ぬ こ じ ぜ と 様

い き う こ ぎ ざ ら て ま さ げ ぇ む

さあ、目を開けて

貴方が嫌悪し目を瞑り続けた世界は、もうありません

ほら、ね?

貴方の世界はこんなにも簡単に変わるんですよ

Concrete
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