【6話】エピローグ【店長】

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【6話】エピローグ【店長】

幸せになろうとも、不幸になろうとも、物語は終わらない。

以前、俺達の身に降りかかった悲劇。

それは未だ終わってはいない。

物語は続くのだ、俺達の命が続く限り。

現実はフィクションとは違い、一番良い所では終わらないのだから-----

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9月上旬。

朝、俺の店に見知った顔の少女が1人、いや正確には2人、訪ねて来た。

東雲 由香と言う名の少女と、彼女の後ろにぴったりとくっつくように、彼女の親友であった吉川 朱里とい少女の、2人組みだ。

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8月の終わり、俺は由香ちゃんの身に降り注ぐ不可解な現象を解決すべく動いたのだが。

結果から言わせてもらうと、由香ちゃんの恋に嫉妬した朱里さんが生霊を飛ばし。

ロクに解決策も出せぬまま、朱里さんの死と言う結果を持って幕を閉じると言う

なんとも後味の悪い出来事があった。

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つまり今、由香ちゃんの背後に居るアレは、朱里さんの死霊と言う事なのだろう。

あの事件から2週間近く経ったが、彼女は存在している。

由香ちゃん達には、朱里さんがまだ居る事を伝えていない。

無理に不安がらせる事もないだろう、何かあればツテを使い、坊さんでも呼ぶことにしようかと思っている。

恐る恐ると言った感じに、由香ちゃんが顔を近づけ囁いてくる。

「店長さん、まだ家に居ると視線や違和感を感じるのですが・・・」

そりゃそうだろう・・・まだ居るんだ。

「そうか、本職の人間でも呼んでみるか。」

「やっぱり朱里ちゃんなのでしょうか・・・」

うん、君の後ろに居る。とは言えない。

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しばらく由香ちゃんと話していると、彼女の交際相手がやってきた。

どうやらウチの店で待ち合わせをしてくれていたようだ、嬉しい限りである。

彼氏の名前は確か、北条 龍二 と言ったか。

文武両道を地で行く、なんともハイスペック好青年だ。

彼らはテーブル席に座り、雑誌を広げ何やら楽しそうに談笑している。

勿論その後ろには朱里さん、どうにかしてやらないとな・・・

注文の品を倉科が持って行き、話の輪に加わる。

土産がどうとか聞こえるな、旅行にでも行くのだろうか。

程なくして倉科が戻ってきたのだが。

「いいですねー!今日で付き合って1ヶ月なんですって!

この後、これから1泊の温泉旅行行くみたいですよ!

店長!私も旅行いきたい!」

お前とは盆明けに、県内の離島に行っただろうが・・・ん?

ふと、倉科の発言に違和感を覚える。

「交際1ヶ月で旅行だと?おかしい・・・」

「おかしくないですー!記念日は大切なのですー!乙女心が分かってないなぁ。」

いや、そうじゃない。

ゾクゾクとした感覚が背中を昇ってくる。

俺は、根本的な所から勘違いをしているんじゃないだろうか。

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彼らの座った席を見ると、朱里さんがいない。

ふと、気配を感じて右側を見ると。

俺の真横に朱里さんが立っていた。

首を右に傾け、俺の顔をを覗き込むかのように見つめている。

怖いぞ・・・

だが、やはりそう言う事なのか?朱里さんよ。

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俺は、先日の事件を回想しながら、由香ちゃんに声を掛ける。

「今日から泊まりで旅行に行くのだろう?

俺を、家に入れてもらえないか?」

中々に無茶苦茶である。

家主が不在の、それも年頃の女の家に男が潜り込むのだ。

龍二君が「いいのか?」と言うような目を由香ちゃんに向ける。

「店長さんにはお世話になっていますし、信頼できますので。」

と言って鍵を預けてくれた。

やはりこの子は天使だ。

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店を早々に閉め、俺は由香ちゃんの家に向かった。

「私も行って監視します!」

と、倉科が言っていたが、今回は連れてきていない。

アイツがいると面倒な事になりかねんのだ。

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程なくして、由香ちゃんの住むマンションに着いた俺は、出来るだけ物音を立てずに部屋に入る。

さて、物探しをする事にしよう。

目的の物を見つけ、確信へと変わった時だ。

カチャン・・・と、鍵の回る音がした。

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誰も来るはずのないこの家の玄関のだ。

ソレは俺のいる寝室へと歩を進めて来る。

ペタリ・・・ペタリと、次第に足音が近くなり、遂に寝室へと入ってきた。

物陰に隠れていた俺は、扉を閉め、寝室の電気を点けた。

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始めにおかしいと思ったのは、時間軸である。

9月上旬の今日が、交際1ヶ月だと言った彼女達。

以前、由香ちゃんが俺に相談しに来た時になんと言っていたか。

7月半ばから違和感や視線を感じるのだ。

交際が始まったのが8月上旬だとすれば・・・おかしいのである。

交際をしていないのに朱里さんが生霊を飛ばす必要がないのだ。

異変が起こり出してから2週間程経ったときに、人影や物音を感じる様になった。と言っていた。

これはおそらく朱里さんの生霊であろう。

では、それ以前の違和感は?

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ここで1つ前提を覆してみよう。

朱里さんが生霊を飛ばしていたのが、失恋からではないのだとすれば・・・

由香ちゃんに何かを伝えようとしていたのではないのか・・・

だとすれば何を。

俺は以前、由香ちゃんが朱里さんから貰ったペンダントを処分しようとした時、朱里さんの生霊のモノと思われる手に足首を掴まれた。

その時はペンダントを処分させない為だと思っていたが、あれは俺に何かを伝えようとしたのだとすれば?

その後には何が起きた?デスクの上のぬいぐるみが転がり落ちた・・・

さて、部屋に些細な違和感、視線、ぬいぐるみか・・・

嫌な予想が頭を過る。

俺は、朱里さんを見つめた。

本当にこれが正解なのか?だとしたら君は・・・

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「探し物はこれか?」

俺が居た事に驚いて硬直する男の足元に、ぬいぐるみの中から出て来たモノを投げつける。

大量の小型カメラだ。

他にもデスク横に挿さっている2又コンセントからも盗聴器が見つかった。

要するに、俺の目の前に居るこの男はストーカーだ。

最悪だった。こんな予想は当たらないで欲しい。

由香ちゃんの感じていた違和感、それはこの男がぬいぐるみにカメラを仕掛けた事によって生じた配置や、家具類の微かなズレ。

飾ってあるぬいぐるみの角度が少しズレたくらいでは、人間は恐らく知覚できない。

だが、ほんの少しの違和感として感じたのだろう。

ましてや、由香ちゃんの部屋は綺麗に整理されている。

視線も恐らくはカメラによるもの、人間の第六感的なモノが働いたのか。

そしてこの男は、由香ちゃんが龍二君と旅行の打ち合わせ等をする電話を盗聴し、不在の今日にカメラの交換でやって来たのだろう。

「お前の家に行けば、盗聴機器や予備の物も沢山あるだろうな?言い逃れはできねぇぞ?」

言葉も発せずに狼狽える目の前の男。

俺と、俺の背後にある扉を交互に見る。

逃がさねぇけどな。

ただ、1つだけわからない事がある。

朱里さんの事だ、直接口で言えばいいものを、なぜ生霊を飛ばすまでになったのか・・・と言う事だ。

「吉川朱里さんを知ってるか?」

初めて男が口を開く、なんとも不快な声だった。

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「僕と吉川は幼馴染でね。

アイツの事は良く知ってるさぁ。

この事もバレちゃったんだけどね、僕はアイツの秘密を沢山しってるから口止めしといたんだけど。

アイツがお兄さんに言いつけたのかな?死んだからだいzy・・・」

男が言い終わるより先に、俺は掴みかかっていた。

誰にだって他人に知られたくない事の1つや2つあるだろう。朱里さんの秘密を知ろうとは思わないが。

「てめーが!てめーのせいで朱里さんはなぁ!」

そう、コイツがこんな事をしなければ、朱里さんは死ぬことは無かった。

この男のエゴで、親友を思う1人の少女が死んだのだ。

振り上げた拳を、だが俺は降ろした。コイツを裁くのはきっと俺じゃない。

「2度と由香ちゃんに関わるな、次姿を見せたら俺はお前を許さない。」

自分でも驚くような低い声が出たと思う。

男は逃げる様に部屋を出て行った。

きっと「なんで逃がしたんですか!」と倉科がいたら怒られるだろう。

だが、きっと大丈夫だ。

逃げて行く男の背に、朱里さんがしがみ付いていたから。

最後に此方を振り返った朱里さんは、寂しそうな、それでいて少しだけ、微笑んでいたような気がした-----

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俺達は今、朱里さんの墓石の前にいる。

旅行から戻って来た由香ちゃん達に全てを話した。

真実を知った時の由香ちゃんの哀しみ様といったら、それはもう見ているだけで辛かった。

一時でも朱里さんを悪者にしてしまった事を謝罪し、恥じる。

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「にしても、店長ってアホですねアホ。」

帰りしなに倉科にそんな事を言われた。

俺がアホならお前はなんなんだ。

「相手がナイフとか持ってたらどうするんですか!」

「そうですよ、危ないですよ。警察等を呼んでおいても。」

由香ちゃんと倉科に攻められた。

ふむ、全く考えていなかったな。

ロンドン、パリに留学、その他にも知識を得る為に色々な国を回ってきた。

歓迎されるばかりではなかったさ、日本人だと言うだけで囲まれた事もある。

メキシコでM1991を頭に突き付けられた時は死ぬかと思ったなぁ。

そんな経験してきてれば日本人の学生がナイフ持ってたってどうって事ないわ。

と、言うと。

「やっぱ馬鹿だウチの店長。」

「うるせぇよ。」

少し肌寒い秋の風が、俺達の間を通り抜けた-----

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あれから、いくつの季節が廻っただろうか。

季節は春、真新しい制服やスーツに身を包んだ学生や新社会人が街中を歩いている。

俺は、そんな彼らを店の中から横目で追い、先ほど店に届いた葉書に目を落とす。

入学式と書かれた看板と、満開の桜の下に立つ可愛らしい少女、その両脇にご両親が写っている写真がプリントされている。

皆笑顔である、なんとも幸せそうな家族だ

『娘も、もう小学生です。』と書いてある。

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差出人の名前は-----

北条 龍二

   由香

   朱里

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きっと、彼女達3人の物語はこれからも続いていくのだろう。

どんな結末が待っているのか、それは誰にもわからないが。

その行く末に幸多からん事を-----

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初めまして、レイと言います。
店長シリーズ、面白いというか店長が素敵すぎます(*´ω`*)

本当はイケメンなのに、その自覚がない上にあまり見た目とかその辺り興味がなく、頼まれるとなんだかんだ引き受けてしまうかなりのお人好し店長像が勝手に脳内で出来上がっております(*´ω`*)

この後のお話も大事に読ませていただきますね。

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嗚呼あああゝ店長シリーズ(仮)が終わってしまう!∑(゚Д゚)/もう番長と瓜二つの倉科さんと会えないなんて辛すぎる!ψ(`∇´)ψぎゃー

あれ?続くんですね?良かった…ほっ…

(´▽`) ホッ
また次回楽しみにしております。

よもつさーん!
終わってましぇん!
まだだ!まだ終わらんよ!ですよ!

あああ!店長シリーズが終わってしまった!(*´;ェ;`*)