Mountain of Snow Woman【リレー作品⑤】

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Mountain of Snow Woman【リレー作品⑤】

ホテルでは、大学生グループ4名の宿泊者が帰って来ないと、少しの騒ぎになっていた。

ゲレンデ側のレスキュー隊と、近隣住民で構成された消防団で、付近の捜索が行われていた。

消防団から参加する者たちは、2~3人1組となり、捜索することになった。

近所の住宅へ訪問し、大学生らが迷い込み保護されていないかの聞き込みを担当したのは、40代前半のベテランと、20代の青年の2人組であった。

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「こんばんは!消防団ですが…」

玄関先で、若い隊員が大声で声をかけると、

「どうぞぉ、中に入ってきてくださいな」

と、リビングから声がする。

こんな雪国で、温かい部屋からわざわざ玄関まで出てくることも、億劫なのだろう。

二人は、顔を見合わせ、苦笑いを浮かべながらも、そのリビングへ入っていった。

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部屋では、ここの奥さんと年寄りがコタツに入ったまま、二人を迎えた。

「聞きましたよ。若い子たちが行方不明になったってねぇ。

ここ2,3日は、吹雪くこともなくて、晴天だったのにねぇ。」

こちらが聞き出すまでもない、狭い集落だ。こんなことは、すぐに噂になる。

『あっ、じゃ、何か気づいたこととかありましたら、連絡もらえますか。お願いしますね。』

若い方の隊員がそれだけ言うと、早々に引き揚げようとした。

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その時、にこにこ笑っている年寄りがポソリと言った。

「ゆきめに魅入られてなければ、いいがの…」

この言葉に、反応したのは、ベテラン隊員の方だった。

『ゆきめ…?』

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昔々…自分がまだ幼かった頃、よく祖母から聞かされた。

いや…親もよく言っていた。

「そんなんしてると、ゆきめに連れて行ってもらうからね」と…

こちらに至っては、“なまはげ”の様な効果だろうと、今なら思う。

子供を怖がらせ、言う事を聞かせる親の常套手段だ。

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しかし、祖母から聞いた話はそうではなかったような…

ただただ、怖いが何度も聞いてしまう…そんなおとぎ話の感覚だった。

男は、どうしても気になった。

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救助活動は、1分1秒が大事であり、また捜索する人数も重要だ。

そんなことは、救助活動において、何度も何度も叩き込まれたことだ。

しかし、どうしても、この話が気になる。

ただ祖母を懐かしむ…そんなセンチメンタルな気持ちではない…

「おばあちゃん、またそんな昔話のようなことを…お兄さんたちね、今急いでいるのよ。

その話は、又にしましょうね」

奥さんがそう子供に言い含めるように言ったとき…

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『ばあちゃん、"ゆきめ”って、雪女のことかね?』

つい、煽ってしまった。

若い隊員は、驚いたようにこちらを見たが…なぜか、この話をどうしても聞いておかなければいけない気がしたのだ。

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「ゆきめが出る時はねぇ、吹雪くそうじゃよ。周りは晴天で、そんなことないのにねぇ。

ゆきめに魅入られた人間だけは、その時急に吹雪いてね、道を失うそうじゃよ。

そしたらね、一本だけ道が見えてくるそうじゃ」

若い隊員が口を挟む。

この隊員にしたって、再び寒空に出たいわけではない。しかも、さぼりだしたのは、大先輩の方なのだ。

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『雪女って、やっぱり白い着物を着たような?』

「さぁてね…昔はよく見たって人がおったから…着物を着た髪の長い女の時もあれば、外国のお人形さんみたいやったって人もおったしなぁ。

とにかく、一度見たら、目が離せんほどのベッピンさんってことは言うてたなぁ…

ゆきめは嘘つきやからねぇ…

格好も嘘つけるんやないかねぇ…」

『嘘つき…?』

年配の隊員が聞いてみた。

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「ゆきめは、子供を残すのに、男を誘惑するからねぇ。あの手この手を使うそうじゃよ。

男が一番欲するものを見抜き、ちらつかせる。

金が一番の者には、一生食える金を、仕事を…とかな…

そして、それはそれは見事な御膳を出され、もてなされるそうな。

それに目がくらんだ者は…子を作らされ、用が済んだら食われてしまう…」

『え!?人を食らうんですか?』

「いいや、分からん。なんせ、そこまで魅入られた者は、帰って来れん。

帰って来れても…もう廃人じゃけの」

そこまで言うと、年寄りは急に黙ってしまった。

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年配の隊員は少し思い出した。

祖母たちの年代は、近所に男の子がいると、

「ゆきめに連れて行かれんように、おなごの格好させんと」

と、褒め言葉に使っていた。

つまり…その誘惑に勝てれば、正気で帰れて、今の話の情報源につながっている…というわけなのか…

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今まで黙って聞いていた奥さんが、年寄りを代行するように喋りだした。

「おばあちゃんのね、お兄さんが魅入られちゃったって言うんですよ。

ある日、お兄ちゃんが行方不明になってね。

…その日は晴天で、雪山に慣れている村の者が行方不明になるなんて考えられない…事故にあってる可能性があるからと、山探しが始まって…

何日も何日も探したけど、とうとう見つからなくて…

数か月過ぎた頃、ボロボロの焦点も定まらないお兄さんが帰ってきて…

“ゆきめが…”"ゆきめが…”そればかり言って、廃人同様だったそうですよ」

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しばらくの間、沈黙が流れた。

「あぁ、でもね、いつくらいからやったろうかね…どっかの大きな会社の人達が山に出入りするようになってねぇ。

何かの研究か分からんけどね…

そんな辺りから、ゆきめの噂はピタッと聞かんようになったね。

その会社の人たちが、ゆきめを捕まえたんじゃなかろうか…と話したもんじゃったよ。

男たちの行方不明の事件もピタッとなくなってね。

だから、今の若いもんは、ゆきめの話を知らんのやろうね…」

そう言いながら、老人は若い隊員に優しく微笑んだ。

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「それでもなぁ…10年くらい前やったかね?ゆきめが出たんよ。ほら、女の子がおらんって騒ぎになってね」

年配の隊員も、その事件のことなら覚えている。

既に消防団に入っていた彼は、警察と一緒に捜索隊として協力していた。

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『けど、今までの行方不明は、全部男性でしょ?何故、少女が?』

すると、奥さんの方が話し出した。

「そうでしょう。私らからすれば、雪女の話し自体御伽噺のようなのにね、あの事件のときは、年寄り組が“ゆきめだ”“ゆきめだ”って、騒ぎだしてね…

みんな、家の者は年寄りなだめるのに、手がかかったんですよ…」

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これ以上、時間を潰すわけにもいかず、隊員の二人は、この家を後にした。

玄関を出ると…二人はしばらく何も言わないまま、歩き出した。

大学生が最後に目撃されたのは、リフトに乗る前。

悪ふざけでもして、リフトから飛び降りたのだろう、それなら、足跡がしっかり残っているはずだ…と、今回の捜索は簡単なものと思われていた。

しかし、天候はずっと良かったはずなのに、どこにも足跡は発見されなかったのだ…

二人とも、まさか…とは思いつつ同じことを考えていた…

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秋良は、春美の手を握りしめ、とにかく走った。

…とはいえ、走りなれていない積雪の上。

春美を引っ張りながら走るというのは、サッカーで鍛えられた足腰でもそんなに遠くへ行けた訳ではなかった。

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ただ、ありがたいことに、吹雪きは収まっていた。

今の内に、遠くへ、遠くへ…もっともっと…

一心不乱に走っていた。

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「…って。待って。止まってってば!」

春美が大声で叫び、秋良の手を振りほどいた。

驚いて秋良が振り返ると、鬼の形相で春美が睨みつけていた。

「千夏は?千夏は置いていく気なの?」

秋良は、元々千夏を置いていこう等と考えていた訳ではなかった。

ただ、咄嗟に春美の手を掴み、走り出していたのだ。

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「私、戻るから。千夏を置いて自分だけ助かることなんてできないから」

そう言い切ると、秋良の返事も聞かず、元の道を歩き出した。

こんな春美だから…

守るのは俺しかいないから…

秋良の筋肉でできた脳みそですら、戻ることは全力で拒否をしていたが…

体は、春美の後を追っていた。

その瞬間、止んでいた吹雪がまた激しく襲ってきた。

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いくら、葵が華奢で軽かろうと、不慣れな新雪の上を人ひとり背負って歩くのは、一苦労だった。

吹雪は、相変わらずの勢力を保っていた。

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「この…吹雪き方…お母様が…怒っている…」

『おっ、目が覚めた?歩けるか?』

そう言いながら、葵を雪の上に降ろした。

『何?吹雪き方で、母上様の機嫌が分かるの?すごい親子だなwww』

優しくその場を和ませるように冬弥は言うものの、足は別荘の方へと進めている。

やはり、友達を助けるのか…葵は、少し胸が痛くなった。

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その瞬間、吹雪が更に強さを増した。

“お母様が怒っている…やはりこの男を虜にして、この男の子供を作らなければ…

お母様が私の代わりを見つけてしまう…

そうなってしまえば…私は用なし…

私が生贄になってしまう…”

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葵は、“雪道で不安だから”とでもいうように、冬弥の腕を組み、ぴったりと自分の胸を押し付けた。

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こげ様、【コメント】【怖ポチ】ありがとうございました‼
外伝が既に出ているのは知っていたのですが、ゆっくり読む時間がなくて、今から読ませていただくのですが…
何やら、嬉しいコメントが…
え!?え!?まさか、このお話からの外伝を?
しかも、『今までのなしにして…』と、何とも嬉しいお言葉を…(。´Д⊂)

今から、ワクワク読ませていただきます!
『秀逸』とまで、仰っていただけるとは…本当にありがとうございました‼

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綿貫様、お疲れのところ、わざわざお越しくださいまして、ありがとうございます。
綿貫さんの作品も読ませていただきましたよ。
『ゆきめ』の名前を拾っていただいて、嬉しかったです。
どんなにしょぼく仕上がっても、綿貫さんが二人分繋いでくれる!と、頼りきっておりました(^o^)

本当に、素敵なお話しに繋いでいただいてありがとうございました‼

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mami様、遅ればせながら書き込みをさせていただきます。(第6話を投稿して肩の荷が降りたところで)
mami様が張られた伏線、地元の古老たちの噂話。
和の情緒に溢れ、しびれました。
その世界を、私なりに広げさせていただきました。
拙い文章になり恐縮ですが、この度は私なぞにバトンを渡していただき、ありがとうございました。

コノハズク様、おはようございます‼
そうなんですよね…私的には、葵の今後が気になるのですが…
今後の方が、そこを拾われるのか…リレーの楽しみでもありますね…
コノハズクさんは、今からですね。
コノハズクさんなら、安心して皆さん待っておられると思いますよ。(…と言うか、心配だったのは私の時だけだったでしょうが…)
頑張って下さい。

最後まで読んでくれた上、【コメント】【怖ポチ】ありがとうございました‼

鏡姐さん、おっはよーございまっす!
お仕事、ヤバいくらい大変ですね…
病み上りというのに…

それなのに、読んでくれてありがとうございました‼
しかも、次作を…とまで言ってくれて…
いつか、単独勝負してみます!

綿貫さん、アップされているようですね。まだ、ゆっくりな時間がとれないので、もう少し後から読みますが…
いよいよ、マガツヒさん‼
楽しみばかりです。
最後まで読んでくれた上、【コメント】【怖ポチ】ありがとうございました‼

ラグトさん、おはようございます‼
どうでしょうか…
私の能力では、ラグトさんのお話から広げる事ができなくて…紺野さんが拾ったところを…ちょっとつまみ食いする…ような事になってしまいました( 〃▽〃)

楽しかったですね。
また、ラグトさんのお話にもお邪魔しにまいります。

最後まで読んでくれた上、【コメント】【怖ポチ】ありがとうございました‼

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マミちゃーんヽ(≧▽≦)ノ

読んだ!読んだよーヽ(≧▽≦)ノ

って、来るのが遅い?
はい(>_<)ごめんなさいm(_ _)m

今月は〆切前に寝込んでいたから、仕事が終わらなくて(T ^ T)
徹夜で仕事して、自治会の役員決めの話し合いに出席して、又家に帰って仕事して…
ボスに送信した次の瞬間、バタンと気絶した様です_|\○_

これで未だ読みに行けてない、よもつさんやロビちゃんの投稿も、やっと心置きなく読めるヾ(❀^ω^)ノ゙

って、感想ね( *´艸`)

マミちゃん、やっぱり貴女スゴイですヽ(≧▽≦)ノ

コメントの達人のマミちゃんならではの視点。
どうなっちゃうの(O_O)?
って不安になった中、紺野さんに続き、上手く纏めてくれて、炬燵に入ったおばあちゃんの話も、マミちゃんならでは話の運びに、ただただ唸ってしまった( *´艸`)

マミちゃんには、これからもっと沢山の話を投稿して、読ませて欲しい(σ≧∀≦)σ

それから、同じくコメントの達人のりこちゃんにも、次回のリレーの際には、是非!走者として参加して欲しいと思うのは私だけではない筈(・∀・)!!

そして、さえちゃんにもヽ(≧▽≦)ノ

実現したら、もう、本当に楽しみ過ぎちゃうんだけどなぁ╭( ・ㅂ・)و ̑̑

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フレール様、こんばんは‼
今からいざ‼という感じでしょうか…
今後の展開が、私も楽しみです。
ちょっとブラックな終わり方も好きなんですが…

最後まで読んでくれた上、【コメント】【怖ポチ】本当にありがとうございました‼

はるさん、お久しぶりです!
今回は、本当に今まで以上に自信がなかったので…
皆様のお優しい言葉が染み入ります…
はるさんは確か…寒い地方…ではなかったでしょうか?
私の住まいは、積雪など10年に一度くらいで…
雪国の生活表現が合っているのか不安でした…

最後まで読んでくれた上、【コメント】【怖ポチ】ありがとうございました‼

ロビン様、お店も忙しく、他の方のパクり作品も大変で、しかもリレーアンカーという、大変ななか、コメントをありがとうございました。
あんなに、よもつさまの作品を継ぐ練習をされたではないですか!
ロビン様なら絶対大丈夫です!

最後まで読んでくれた上、【コメント】【怖ポチ】ありがとうございました‼
楽しみにしております。

ゴルゴム様、こんばんは‼
メッセージボードにお邪魔して、コメントの催促しちゃったみたいで…すみません…

妖女を描かせたら天下一のゴルゴムさんから、その様に言っていただけるなんて…
ありがとうございます‼

次回は、ゴルゴムさんもご参加ですよね?

いつもありがとうございます‼

紫月花夜さま、こんばんは‼
今回のお話を『回収』と言っていただいて…ありがとうございます(。´Д⊂)

本当ですよね…壮絶バトルはあるんですかね…
私的には…葵の誘惑vs冬弥の理性が見たいです(^w^)

最後まで読んでくれた上、【コメント】【怖ポチ】ありがとうございました‼

紺野さん、ありがとうございます‼
なんか…いつもと左右の位置が違って、照れますね…
紺野さんに、私の話を読んでもらえる日がくるなんて…
しかも、沢山褒めていただけて…( 〃▽〃)
紺野さんが投げ捨てた場面って…どこだろう?
とても丁寧に分かりやすい作品だったので、そんなこと気付きもしませんでした…

紺野さんこそ、リレーお疲れ様でした。

最後まで読んでくれた上、【コメント】【怖ポチ】ありがとうございました‼

第5話おつかれさまでしたー!(`・ω・´)
ここから物語が大きく動いていきそうな感じになってましりました(; ・`д・´)
見事な繋げ方です(´∀`)

後半戦もがんばれ~!

mamiさん、お疲れ様です。
皆さんが仰る様に素晴らしい作品でした!
これ以上語る事も無いので…
怖話ルーキーmamiさん万歳*\(^o^)/*