中編4
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スポーツ広場

私の実家の近くに、スポーツ広場がある。

小高い丘に作られた広場は、リトルリーグの試合で使われる広いものとテニスコートが2面分くらいのものと2つあって、リトルリーグの試合が終わるとちびっ子達はそのすぐ隣の狭い広場で保護者とお弁当を広げて団欒していた。

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私の友人の弟もリトルリーグに入っていて、中学生になった時には一緒に応援に行ったりしていたものである。

たまたま隣町のチームと試合があった日、私は家の用事で試合の応援には行かれなかった。

その日の夕方、友人から連絡があって試合に勝てたことを教えられたのだが…。

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「…あそこの広場、なんか変」

試合の内容を私に告げたあと、友人はそう言いだしたのである。

「変って?」

私が聞き返すと、何とも言えないような、言いづらいような間を空けてから彼女は口を開いた。

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「なんかね、試合の後の団欒中ずっと、誰かの視線を感じて気持ち悪かったんだよね…」

電話の向こうで身震いするかのような言い方だった。

「…気のせいとかじゃなくて?」

「気のせいじゃないと思う」

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狭い広場の方は、広場の奥に茂みがあって鬱蒼としている。

その茂みの方から視線を感じたという話だった。

「誰か隠れてたんじゃないの?」

「…うーん…、茂みの方って斜面になってて危ないから、それはないんじゃないかな…?」

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「茂みの方って使われてない仮設トイレあるじゃん?あそこに誰か隠れてイタズラしてた、とか」

「いや、それはないよ。あの仮設トイレって扉開きっぱなしだから誰か入れば分かるよ」

「…そっかぁ」

結局、その時は原因も分からなかった。

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翌月の試合も私は見に行けず、あとから友人が連絡をくれた。

前に話していた視線のことが気になって、私は友人に尋ねてみた。

「今日は、視線…大丈夫だった?」

「それが…今日も視線を感じて…」

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薄気味悪そうに友人が話し始める。

要約すると、こうである。

試合の後、すぐ隣の狭い広場でお弁当を広げて家族で団欒をしていた時、やはり茂みの方から視線を感じてそっちを見てみたが何もなく、再び食事を始めると視線を感じるのだそうだ。

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その友人は霊感ゼロだが、さすがに気味が悪くて茂みの方を気にしないようにしていたが、じっと見られている感覚に我慢できなくなり、再び茂みの方を見てみると真っ黒い影が立っていたとのことだった。

「影だけだから男か女かは分からないけど」

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「何かあるのかな、その茂み」

私が言うと「分からない」と友人。

そりゃそうだよね、調べてみたわけじゃないんだし…と思った私は友人に、

「あまり気になるようなら、しばらく行かない方がいいかもよ?」

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そう言うと友人が、「なんで?」と尋ねてきた。

「いや、霊的なものなら呼ばれてるのかもしれないじゃん、あんただけ視線感じたりしちゃってるなら尚更さ」

私の言葉に、電話の向こうで友人は身震いした様だった。

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「波長が合っちゃってる、ってこと?」

友人の問いに私は「うん」と答える。

しばしの沈黙があり、「分かった」と友人は返事をした。

それからしばらくして、スポーツ広場で騒ぎがあった。

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狭い広場の茂みの斜面から、初老の男性の遺体が発見されたのである。

他殺体で、発見時は死後約2、3ヶ月ほど経っていたそうだ。

新聞にも載って、しばらくの間は黄色いテープでスポーツ広場は封鎖された。

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地元ではかなり有名な話である。

友人が感じた視線は、もしかしたらその初老の男性の霊が早く自分の遺体を見つけて欲しくて知らせようとしたものかもしれない。

私は先週末から実家に泊まりで帰ってきているが、昨日コンビニ帰りにスポーツ広場の前を通った時、供えられたままの枯れた花束を見てこの話を思い出し、書かせていただいた次第である。

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今も時折、花を供えに来る人がいるんだな、と思うと、その初老の男性の殺された時の無念はいかほどだったろうと考えさせられる。

ただでさえ、毎日のように殺人事件がニュースで流れる世の中になってしまい、どこへ出かけるにも安全ではなくなってしまったと思う。

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人間、知らないうちにどこかで恨みをかうこともあるだろうが、他人の命を奪う前に、命の尊さをもう一度考えてほしいと願ってやまない。

自分が逆の立場だったら?殺されても仕方ない、と思えるのか?潔く死を受け入れられるのか?

現代人は感情のままに行動する人間が、あまりにも多い。

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一時の感情で取り返しのつかない事態になってからでは遅いんだと、それだけは心の片隅でもいいから留めておいてほしいな、と私は思う。

[おわり]

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