【7話】出口と、その向こう【店長】

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【7話】出口と、その向こう【店長】

冬の到来を感じさせる、肌寒い風が吹き出してきたある日の事だ。

本日は我が店の看板娘が休みである為、俺は悠々自適に店を営業出来るはずであった。

そう、営業できるはずだったのだが。

「てんちょー!紅茶おかわりぃー!」

その看板娘が、学友であろう男子2人と、テーブル席にふんぞり返っている。

どうやら俺に安寧の時は、まだ訪れないようだ。

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看板娘改め、ウチのバイト戦士倉科。

常にアクセル全開、ブレーキは故障しているのだが。

けったいな事に通っている大学は、県内有数の国立大学。

出身高校も随一の進学校である。その偏差値は74。

その彼女が、なぜこんな残念な子になってしまっているのか。

きっと、脅威のマッドなサイエンティストに頭でも弄られてしまったのか。

自分でも意味不明な思考を巡らせ、席におかわりを持っていく。

「店長、この後暇ですか~?」

等と聞かれた。

「まず要件を言え、それ如何にしては暇じゃなくなる。」

「なんですかそれ~!」

当たり前だ、大方めんどくさい事だろう。

「トンネルいきましょう!」

「よし、忙しい。」

「ぶーぶー!」

倉科と一緒に座っている男子2人は、同じオカルトサークルのメンバー。

心霊スポットであるトンネルに一緒に行こう!との事だ。

俺を足に使いたいだけなのじゃないだろうか。

「あのなぁ、俺だってそれなりに忙しいの。」

全く、コイツには困ったものだ。

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夜の街を、郊外に向けて車を走らせていた。

助手席には倉科。

後部座席には男子2人。

運転席の後ろに座るのは、ロン毛黒髪の村田君。

助手席の後ろに座るのは、短髪金髪の阿部君。

さて、どうしてこうなってしまったのだろうか。

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うむ、やはり2Lの水平対向エンジンは最高だ。

そしてこのカラーリング、やはりWRブルーは神か。

購入して間もない愛車をベタ誉めして現実逃避。

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車内では倉科達が件のトンネルの話で盛り上がっている。

そこそこに曰く付きのトンネルではあるだが、数年前トンネル入り口で土砂災害。

家族が乗った車を巻き込み、奥さんと子供が亡くなると言う事故があったようだ。

トンネルの中間あたりで、エンジンを止めクラクション3回で云々。

事故で亡くなった子供だったり女の霊が云々。

車の窓に手形が云々。

最早聞き飽きたような噂ばかりだ。

と言うかだ、この車に手形付けたら許さんぞ。

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トンネルに到着した頃には、夜も大分更けてきている。

街灯もまばらで、かなり暗く、トンネルが口を開けて待ち構えている。

なるほど、かなり雰囲気がある。アチラ側に繋がっている入口に見えない事もない。

「あ、あれ・・・」

俺の後ろに座る村田君が、トンネルの入り口を指さす。

ハテ?俺には何も見えないのだが。

「何か見えるのか?」

「女の子が立っていますよ・・・見えないんですか?」

と、言われるが見えないものは見えない。

「いやいや!男の子だろ!」

阿部君が慌てたように言う。

「女の人だよ!何言ってるの!」

倉科にも見えるようだ。

目を凝らし、前方を良く見て見ても、やはりなにも見えない。

「何も見えんぞ?」

助手席の倉科の方に目を向ける。

「えー、いますよー」

と、言った倉科はしかし、倉科ではなかった。

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全く知らない女だ。

30代前半くらいの髪の長い見た事もない女が、倉科の声で「店長には見えないんですか~?」と、問いかけてくる。

咄嗟に後部座席を見ると、そこに座っていたのは大学生の男子2人ではない。

小学生くらいの男の子と、女の子が楽しそうに座っている。

が、村田君と阿部君の声で「女の子だ!」「いいや男の子だ!」と言い争っている。

ハンドルを握る手が震える。

シートに預けた背に、冷汗が滑り落ちる。

誰だ、なんだ、どうなっている。思考が回らない。

隣に座る女が「てんちょ~どうしたんですか?」と言いながら手を伸ばしてくる。

ヤメロ、倉科の声で喋るな。誰だ。俺に触るな。

顔をのぞき込まれる。それなりに整った顔立ち、しかしその瞳には何も映っていない。

「てんちょ~?て~ん~ちょ~?」

問いかける倉科の声に混ざり「タスケテ」と聞き覚えのない女の声が聞こえた。

女を助手席に押し戻し、シフトノブをローギアに。

半クラと同時にアクセルを思いっきり踏み込む。

慣性によりシートに叩きつけられ「うわっふぅ!」と倉科、もとい見知らぬ女が声を漏らす。

そのままトンネルに突入する。

ギリギリまで伸ばしセカンドに入れる。

300m程のトンネルだ、すぐに終わりが見えてくる。

もし、もしもだ、この女と子供が土砂に巻き込まれて亡くなった人だとしたら。

トンネルの入り口に縛り付けられているだけなら。

トンネルを突破し、急ブレーキで停車する。

自分が走ったわけでもないのに、息切れが酷い。

「どうしちゃったんですか店長?」

と、問いかけて来た倉科は、もう見慣れた姿に戻っていた。

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彼女達は抜けられなかったトンネルを抜ける事が出来たのだろうか。

その出口はどこに繋がっているのだろうか-----

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この状況はアカン!
恐すぎ!w
私なら失禁レベルです。

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ネタバレ注意

トンネルの怖い話って残念なのが多いけど、これは中々いいわね