Mountain of Snow Woman【リレー作品⑦】

長編13
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Mountain of Snow Woman【リレー作品⑦】

wallpaper:2003

music:4

千夏がゆっくりとこちらを振り向く。

「千夏…?」

春美が一歩踏み出し心配そうに呼びかける…が。

「……。」

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春美の呼びかけにも反応しない千夏。

普段の千夏ならこんな表情は出さない。緩んだ口元、焦点のあっていない目。呼びかけに反応し、四人へと振り向いたがその目は何も見てはいなかった。

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「…あ…ああ…。」

緩んだ口から漏れる嗚咽。

「…あああ…。」

「千夏?」

駆け寄ろうとする春美、だが

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「あああああああああああ!!」

突然千夏が咆哮する。自分を両手で抱きしめ、左右に激しく身体を振りながら叫びだした。

「ど、どうしちゃったの、千夏!ね、ねえ!!」

「私の!私の身体から出て行って!!」

叫び出す千夏、そして、狼狽える春美。

「な、なんだぁ?どうしたんだよ、千夏!」

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秋良も千夏に駆け寄るが、春美と同じく狼狽えるだけだ。どうしたらいいか、分からない。

「わ、私の中にナニカが居る!出てって、出てってよ!!」

「落ち着けって!一体どうしちまったんだよ!」

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必死に訴えているが、千夏には春美達が居ることさえ認識できてはいなかった。

冬弥と葵が少し離れた場所からそれを見ていた。

「ち…千夏?」

想いを寄せている女の豹変ぶりに普段の冷静な思考を保てない。驚きで身体さえ動かせないでいる冬弥。

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その横で-

「………お母様?」

葵が呟く。

その視線は千夏達の足元へと注がれていた。グズグズに崩れ原型を留めていない肉塊へと…。

「お母様、まさか…根を?」

「根?」

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不明瞭な呟きに冬弥が反応する。

「葵、何か知ってるのか?」

「………。」

葵は答えない。

「お、おい!なにやってんだよ冬弥!手を貸してくれ!」

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千夏の両腕を掴んで何とか落ち着かせようとしている秋良がこちらを見ながら呼んでいた。

「わ、わかった!」

冬弥が駆け寄ろうとするが、それを葵が手で静止させる。

「私にお任せください。」

「え?あ、ああ…。」

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葵なら何か知ってるのかもしれない。素直に従う冬弥。

「出てって!出てってよぉ!!」

「お願い!落ち着いて千夏!」

錯乱する千夏に葵がゆっくりと近づいた。

「貴女が千夏さん…。どうやらお母様の根を移されたようですね…。」

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痛々しいものでも見るかのように表情を歪め、そっと千夏の頬に手を添える。

「眠りなさい。今は…。」

氷雪の幻術なのだろうか、葵の添えた手から青白い光が灯ると千夏はゆっくりと瞼を閉じていった…。

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「ど、どうなってんだ?」

千夏の変貌、そして葵の能力を目の当たりにした秋良の驚きも無理はない。春美も固唾を呑んで見守るしかなかった。

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「千夏さんの身体にはお母様の雪月草の根が移されています。」

一階の暖炉に移動した5人、ソファーには静かな寝息を立て眠る千夏の姿があった。

「せ、雪月草って?そもそも、葵さん…でしたよね?あなたは一体何者なの?」

千夏を膝枕した状態で春美が問う。

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「俺から説明するよ。」

その反対側、葵の隣に座った冬弥が身を乗り出しながら語り出した。

生贄の一族、雪月草の効用と育成方法、そしてそれに目をつけた最大大手の製薬会社。更には国が管理しているという信じ難い事実も。

語りながら冬弥の口元は皮肉な笑みを帯びていた。ほんの少し前まで俺達は普通の大学生だった筈なのに。信じ難いものを見て、信じ難い事を口から吐いている…。

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「一体全体どうなってるのか、未だに信じきれてないけど…信じるしかないのかな…。」

溜息混じりの失笑が出た。

「………。」

押し黙る春美、にわかには信じられないが千夏の変貌は異常だ。信じるしかない。

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「えっ…と、つまり?」

暖炉に薪を足していた秋良が立ち上がり振り向く。

「俺達が最初に出会ったのが雪女で…?そこのお嬢ちゃんは雪女の娘ってことだよな?」

「葵です。」

秋良には視線も向けずピシャリと言う。

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「信じる信じないはあなた方の勝手ですが、冬弥さんの言ったことは本当です。そして、秋良さん…でしたか?」

「お、おう…。」

葵の視線が千夏を向く。

「あなたが言った雪女。このままではそこの千夏さんがその雪女となってしまうのです。」

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「……は?」

3人の視線が葵へと注がれる。そう、さっきから葵の発する不明瞭な言葉の意味。それを知りたい。

「正確に申しますと。お母様の身体は既に朽ち果てているのです。最初にあなた方が出会った雪女、彼女はいわば端末です。」

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「た、端末ぅ?」

秋良が間抜けに返す。

「ええ、分かりやすく表現するとそうなります。本当のお母様は洞窟の奥にいらっしゃいますから…。」

「全然わからん!」

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秋良は頭を掻き毟るが、葵の横の冬弥は息を呑んで葵を見つめる。

「つまり…。さっきの移ったという言葉は雪女足らしめる何かが千夏の中に移った。そういうことか!?」

さすが私が見初めた人と。柔らかい微笑を返しながら葵は答えた。

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「その通りです。そしてソレを私達は雪月草の根、と呼んでおります。」

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「…………。」

なんてことだ。

まだ全容を聞いたわけではないが、それが千夏にとって最悪の出来事なのは間違いない。冬弥はドッとソファーに身を預けた。

葵は続ける。

「体内で芽吹いてしまえば根は彼女の身体から血を吸い上げて成長します。それと同時に自我も侵食され、新しいお母様。つまり、雪女が出来上がる…。そういうことです。」

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「そんな…。」

葵は考える。お母様がどうして彼女を選んだのかは知らない。でも、これは好機だ。冬弥の彼女への想いを断ち切る事が出来れば、私を選んでくれたなら…。

この呪われた血の宿命から逃れることができるかもしれない。

「冬弥さん…。私は…」

あなたが…

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「助けることはできないの!?」

葵の意識が強制的に現実へと引き戻される。春美が強い眼差しで葵へと訴えかけていた。

「ねえ、お願い葵さん!千夏を助ける方法があるなら教えて!」

「方法…ですか…」

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ちらりと冬弥を見る。彼の為を思うなら教えるべきだ。だけど、その場合成否はともかくとして自分は帰る場所を必ず失ってしまう。

この葛藤はなんなのか?どこから来るのか?分からない、初めてだから。

私は…

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「俺からも頼むよ!方法があるんなら教えてくれ、葵ちゃん!」

秋良も春美の懇願に加わる。だが、自身を幼く見られる事が嫌いな葵は苛立ちを含んだ言葉を返そうとし-

「…っ。あなたにちゃん付け呼ばわりされる覚えは…」

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そして凍りついた。部屋の入り口に誰かいる。

「影山…。あなた、何しに此処へ来たの」

葵が呼びかけた先には1人の巨軀。神社で葵に付き従うようにしていた、髭面の猟師のような大男が立っていた。

「何をしに…とはお言葉ですね。もちろんお迎えにまいりました。」

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一体いつからそこにいたのか。秋良、冬弥、そして春美は突然の来訪者に驚きを隠せなかった。

「おわっ!?びっくりした!」

「こいつ、最初に俺達を襲って。確か神社にも居た…。」

「だ、誰…?」

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3人が動揺してる中で葵と影山と呼ばれた大男だけが静かに互いを見ていた。

「お迎え?必要ないわ、帰りなさい。」

「………。」

影山は黙っている。冬弥が2人の間に割って入った。

「お、おい、お前は葵の従者だろう?なら、主の言うことを聞け!今、大事な話をしているんだ!」

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千夏の生死に関わる問題だ。しかも、事態は一刻を争う。焦りから普段の冷静な対応ができないでいた。

そして警戒も。

「…従者?」

視線をゆっくりと葵から目の前の冬弥に向ける。正確には影山の胸の前だ。冬弥の身長は高い方だがそれだけの身長差がある。

影山は冬弥を暫く見下ろしていたが…

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「ぐあっ!?」

突然、右手の裏拳で冬弥を殴り飛ばした。

まるで腰の入っていない拳だというのに冬弥は横に吹き飛ばされ、そして壁に激突する。

「冬弥さん!」

葵が慌てて冬弥に駆け寄る。今の一撃で昏倒してしまったようだ。

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「て、てんめぇ!いきなり何しやがる!」

数瞬遅れて秋良が反応する。影山に掴みかかろうとするが-

「邪魔だ。」

「うわっ!?」

そのまま突き飛ばされ床を転げる。

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「影山!これは何のつもり!?私に逆らうの?」

「逆らうもなにもない。そもそも私が従っているのは政府なのだから。」

そして、春美が庇っている千夏に向き直り、こう続けた。

「新しい【ゆきめ様】を迎えに来ただけだ。どうやら、まだ芽も出ていないようだしな。」

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「っ…。」

歯嚙みする葵。どうやら、この展開は葵にとっても予想外の出来事のようだ。

「その娘を渡せ。」

威圧するでもなく春美へと手を差し出す影山。

「だ…ダメっ!!」

「お前も痛い目にあいたいのか?」

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差し出した掌を握りこぶしに変えようとした瞬間。

「いきなり出てきて何勝手な事ほざいてんだキーーーーック!!!」

飛ばされた先から助走をつけた秋良の飛び蹴りが影山の後頭部に炸裂した。

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「キャア!?」

派手な音を立て、春美と千夏の横に転がり倒れる影山。着地した秋良は素早く春美を影山から守るように立ち塞がった。

「【ゆきめ様】だあ?こいつの名前は千夏っていうんだよ。人違いだろ!」

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影山はゆっくりと床に手をついて起き上がろうとしている。軽口を叩きながらも秋良は戦慄した。

-おいおい、マジか!かなり本気で蹴ったのに!-

ゆっくりと起き上がってくるが、それは秋良の飛び蹴りが効いているのではなく。

「小僧ぉ、死にたいのか?」

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油断した所為もあるが、こんな若造にとの影山の怒りからだった。比喩ではなく筋肉が服の上からでも分かるほどに肥大している。

「春美!千夏連れて逃げろ!なんかコイツやばい!」

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「そ、そんなこと言われたって!」

春美とて女だ。千夏を抱え上げて移動するわけにはいかない。それは秋良も充分

に分かっているが-

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「なんなんだ、コイツ!?」

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影山の風貌がみるみる変化していく。肥大化した筋肉は服を破り、そして全身が真っ白な体毛に覆われていく。その姿はまるで-

「ゆ、雪男…?」

千夏をなんとかして安全な場所に移動させようとしていた春美が動きを止めて呟く。無理もない、あまりに非現実的な光景だ。

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「なんなの?これ…。」

呆然と見つめる春美、その目には吹き飛ばさる秋良が写っていた。

「…いっ……て……。」

壁に激突して呻く秋良、とんでもない膂力だ。打ち所が悪ければ一撃で人が殺せる。

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咄嗟にガードした両手の感覚が麻痺してる。折れてないか?と確認する暇も与えられずに

「ガアァァ!!」

「ぐはっ!」

まともに腹に一撃。重力を無視して部屋の隅に飛ばされていく。なぎ倒される家具の派手な音を聞きながら床に倒れ伏す秋良。

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「あ、アッキー!!」

「よしなさい、あなたに何ができるのですか。」

駆け寄ろうとする春美の服を葵が掴む。

「で、でも!」

「ああなっては私の術でも止められない。本当に殺されますよ?」

「その前にアッキーが死んじゃう!」

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会話している2人の視線の先で影山改め雪男の蹴りで再び吹き飛んでいく秋良が見えた。呻き声すら聞こえない、もしかしたらもう本当に死んでいるのかもしれない。

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-あー…頭ぼーっとしてきた…。これ、マジで死んじゃうな…俺…-

朦朧とする意識の中で秋良は考える。

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-死にたくなんかないけど、これは無理。これは反則だよ…、そもそも雪男って言うより雪ゴリラじゃねーか…-

雪ゴリラ-言い得て妙だ。絶体絶命の大ピンチなのに、そんな事を考えている自分にくすりと笑った。

首を掴まれ、そのまま壁に何度も叩きつけられる。感覚が麻痺して痛みも感じない。

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-しつけーな…。ウホウホ、ウホウホやってんじゃねーよ。飛び蹴り一発にここまでやるか?どんだけ怒りっぽいんだよ…-

雪男は秋良の首に手をかけ、そして締め上げようとする。

-このまま、ここで死ぬんだろうか?死ぬんだろうな…。でも、何か忘れてないか?-

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秋良の視線は目の前の脅威ではなく、部屋の隅にいる春美へと向いていた。

-春美…。そうだ、春美だ。春美を守らないと…!!-

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秋良の目に力が戻る。

「お前に…春美の告白は…邪魔、させない!」

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首にかけられた雪男の手を払いのけようとする秋良だが、ビクともしない。やはり、正攻法では敵わない。

必死に考える。力で敵わないならどうしたらいい?何か使えるものはないのか?

雪男の弱点…。あるなら何だ?単純に考えれば火なんだが、そんなもの…。

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「あるじゃん。」

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暖炉の火、あれが使えたら。この拘束を解くことができたら、一瞬でもいいからコイツに隙ができたなら-

なんとしても春美を守ってみせるのに。

「アッキーを離せ!この化け物!」

いつの間に近づいていたのか、秋良を締め上げる雪男の背後で火かき棒を振りかぶる春美。

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「ええい!」

雪男の肩口に振り下ろされた一撃は悲しいほどに無力だった。所詮、女の細腕、雪男に全く通用していない。

「ガァッ!」

「キャアァ!?」

雪男は秋良を突き飛ばし、背後の春美へと向き直る。

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「こ、来ないでよ!」

後ずさりをする春美。それをジリジリと追い詰める雪男。

「あっち行ってよ!」

「グゥゥゥ…。」

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威嚇するように低い唸り声をあげながら近づいてくる。今にも襲いかかって来そうな恐怖に春美は無意識に叫ぶ。

「やだ!やだよぅ!た、助けてアッキー!!」

「はいよ。」

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雪男のすぐ後ろで声がした-

「おい!!雪ゴリラ!!!」

あれだけ痛めつけたのにまだ歯向かってくるのかという苛立たしさからか、それともゴリラと呼ばれた事に対する怒りなのか。雪男は咆哮しながら振り返る。

振り返った先、頭から大量の血を流す秋良の両手に持たれたモノに驚愕した。

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秋良の両手に持たれてるのは暖炉の薪、燃え盛った暖炉の薪だ。しかも、それを素手で両手に持っている。

間違いなく大火傷だ。でも、関係ない。春美を守れるのなら、そんな事は秋良には全く関係ない。

「食らえ!!」

文字通りに左手に持った薪を大きく開けられた雪男の口に突っ込む!!

「ギャアァァァァァァァ!!」

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くぐもった悲鳴をあげる雪男、堪らずたたらを踏むがそこに間髪入れずに-

「人の好きな女に手を出そうとしやがってアタック!!!!」

雪男の悲鳴が掻き消されるほどの大音量を口から発しながら、右手の薪を雪男の顔面に叩きつけた。

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「グガァァ!!」

雪男の苦し紛れの一撃で再度吹き飛んでいく秋良。今度こそ、もう起き上がれない。

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雪男が去った後、荒れ果てた部屋からは春美のすすり泣く声が聞こえていた。

「あ…れ?」

春美に膝枕された状態で秋良は目を覚ました。どうやら、少しの間意識が飛んでいたらしい。

「…春美?…雪…ゴリラ…は?」

「ゴリラじゃないよぅ。雪男だよぅ…。」

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春美は顔を涙でクシャクシャにしながら秋良に答える。

「どっち…でも…いいよ。で?どうなった…の?」

「逃げた。逃げる時に千夏も攫われちゃった…。」

「!!……そ、うか…すまない。守れ…なかった…。」

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部屋に冬弥と葵の気配は感じない。もしかしたら、攫われた千夏を追いかけて行ったのだろうか?

「ううん…。今、葵さんが千夏の行方を探ってくれてる。冬弥は救急箱を探しに…。」

少しの沈黙…。

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「ねえ…。」

「…ん…?」

「なんで、あんな無茶したの…?」

「………。」

「どうして?」

「………。」

「答えてよ。」

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君が好きだからです。

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「…春美…さ、この旅行でさ…冬弥に告白する…つもりだった…ろ…?」

「…え?」

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君が大好きだからです。

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「だ、だから…大事な告白をする…前に…死なせたりする…わけにはいかない…と…思ったから…。」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「お、俺…さ…。」

秋良は泣いている春美の頬にそっと手の甲を当てる。春美の涙を拭ってあげるように。

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「俺、春美の…こと…ずっとずっと…好き…だった…から…。」

「!」

「だ、だから、守りたかった…んだ…。惚れた…女ぐらい…守らせて、くれよ…。」

「アッキー…。」

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春美の頬を優しく撫でる。もう、泣かないで…と。

「アッキー、聞いて?私もね…」

「う、まく…やれ…よ…。」

春美の頬に当てられた秋良の手が滑り落ち…。

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コトン…。

そして、床の上に落ちた…。

「…アッキー…?」

秋良の顔を覗き込む春美、まるで眠ってるかのような秋良に再度語りかける。

「ねぇ、アッキーってば…。」

秋良は応えない。

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「ねぇ、嘘…だよね?」

揺すってみる。

「アッキー…?…お、起きてよ…。」

頬をつねってみる。

「や、やだよ…。こんなのいや…。」

秋良の顔に涙がポロポロ降り注ぐ…。

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「いや…だよ…。」

こんなのは嘘だ。あのアッキーがこんな簡単に死んじゃうわけがない。脳筋のアッキー、頑丈なアッキー、空気を読まないアッキー…。

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「アッキー…お願い…。」

不器用で…でも本当は誰よりも優しいアッキー…。

「お願い…起きて…?」

誰よりも好きだったのに…。

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「わ、私だって…。」

ずっとずっと好きだったのに。溢れる感情を堪えきれず春美は叫ぶ。

「私だって、アッキーが好きだった!大好きだったの!ねえ!お願いだから!起きてよ!」

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パッチリ

突然、秋良の目が開いた。

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「呼んだ?」

「ひっ!?」

「今、なんか凄いこと言わなかった?」

「あ、あ…あ…アッキー…?」

「うん。秋良だけど?」

「………。」

「ねえねえ?なんか言ったよね?」

「バカーーーーー!!!」

「おぶぅぅぅぅ!??」

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応急処置の為に別荘内で救急箱を探し終えた冬弥が部屋に入って目撃したのは秋良の腹にめりこんだ春美の鉄拳と泡を吹く秋良であった。

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「お母様の根の気配を探ってみましたが、やはり神社。あそこしかありません。」

「やっぱり、そうなるか…。」

負傷した秋良の看病を春美に任せた冬弥は影山が千夏を連れ去った先を葵から聞いていた。

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雪女の次は雪男、次は何が出るか想像もつかないが…。

「やっぱり行くしかない…か。」

千夏は必ず救い出す。その思いが冬弥を奮い立たせる。

そんな冬弥の姿を、葵はただジッと見つめていた。

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つづく

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ごきげんよう マガ兄様!
ニャンタークエストの依頼主、番長です!w

なんですかなんですか!やっぱり爪あったじゃないですか!w
面白くて2巡しましたよ!
秋良がカッコ良すぎて胸がきゅんきゅんしましたw
どうしようアホッキーにドキドキするなんて!w

さすがマガ兄様。
やはり能ある鷹でしたね…
半分無理やり参加をさせてしまったので心配していたのですが
余計なお世話でしたねヒヒヒw
さて、次回は何番目に走ります?w

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マガツヒ全開ヽ(≧▽≦)ノ

まさかのラブコメwwwww

超オモロかった(。>∀

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