長編8
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見てる…

私の、中学の頃の話です。

私の通う学校に転校生がやってきました。

彼女は、中学1年の2学期に引っ越してきました。

少し都会から引っ越して来た彼女は、田舎者の私達よりもずいぶん大人びた印象で、みんな友達になりたいと話しかけ、興味津々だったのですが、

1ヶ月を過ぎる頃、クラスメートから総スカンを喰らいます。

私はクラスが違ったので、その経緯を知らなかったのですが、

なんでも彼女が

「こんな田舎で、友達なんか作りたくない。」

「こんな田舎で、井の中の蛙がドングリの背比べで必死こいてる様が笑える。」と、

ハナで笑いながら、ある女の子のグループに言ったのが事の発端のようでした。

見た感じ、おとなしそうな彼女が、

そんな事を言うのが想像出来ず、

「取り方の違いじゃないの?」と半信半疑でした。

しかし、総スカンは収まることはなく、

彼女は、学校に来なくなりました。

私は、

「彼女もそこまで言ったんなら、みんなのムシなんか気にせず、学校に来れば良いのになぁ。」と思っていたくらいで、

特に気にはしていませんでした。

彼女はその後、学校にくる事はなく、

たまにお母さんと一緒に、放課後、校長室に何度か来ているのを見かけたくらいで、そのまま、私達は二年生に進級しました。

ある日の放課後、私は、

ばあちゃんの薬を取りに行かねばならず、

クラブを早退して、病院に向かいました。

病院は、学校から徒歩で20分くらいのところにありました。

茶畑の間のアスファルト道路を、1人で歩いて行きます。道は緩く上り坂です。

ふと足を止め、学校の方を見ると、クラブに励む友達の姿が見えます。

蒸し暑い、梅雨が明けた頃だったので、

グランドに水を撒く先生の姿も見えました。

しばらく、グランドの様子を見ていると、

ふと、気になるものを見つけました。

学校側から見ると、

学校のグランドのフェンス横には、線路が走っており、土手が少しあって、私のいる茶畑があります。

私はつまり、学校のグランドを見下げている状態です。

グランドを見ている私の視界にチラチラと映る気になるもの…

それが、人だという事に気付くのと、

登校拒否の彼女じゃないの?と思うのに、さほど時間差はありませんでした。

よく見てみると、そのチラチラする人影は、間違いなく彼女でした。

彼女は、茶畑の1番下のあたりにある掘っ建て小屋で、何やらしているようでした。

私は、何をしてるのか気になって、彼女のところに行く事にしました。

行ったところで、

彼女が何をしていたか話してくれるかは分からないし、

第一、私は彼女と挨拶程度しか言葉を交わした事がありませんでした。

それでも私は、彼女の元にずんずん歩いて行きました。

何も言わずに、帰っちゃうかな。

そしたら、せっかく降りてきたのに、また上がっていくのしんどいな…。

それ位しか、考えていませんでした。

茶畑の下のあたりには、ススキの葉が伸びており、そこからは学校のグランドは見えなくなっていました。

私は、掘っ建て小屋の近くまで来たところで、彼女の名前を呼びました。

「〇〇さん?」

掘っ建て小屋の裏から、ガタっと、物音が聞こえ、

ジッと身を潜めてその場をやり過ごそうとしてる事がわかりました。

「〇〇さん?何してんの?

久しぶりだね、分かる?2組だった、にゃにゃみだけど?」

私はまた、掘っ建て小屋の裏にいる彼女に話しかけました。

…返事はありません。

「〇〇さん?私の事、忘れたかな?

挨拶しか、したことないもんな。

元気なの?そこで何してんの?」

彼女に、もう一度声をかけます。

…返事はありません。

私の事、分からないのかな、

それとも、私とも話したくないって事かな

と、感じ、

「私、行くね。元気なら良かったよ。」

とその場を後にしました。

何してたんだろ。絶対、彼女で間違いないんだけど。

なぜか、

「何をしてたの?」と、

近くに行ってはいけない気がしたのです。

まっすぐ来た道をまた、上がって行きました。

少し行ったところで、振り返ってみると、

掘っ建て小屋の陰から、彼女がこちらを見ているのがわかりました。

私は、彼女に向かって、手を振りましたが、彼女はまた、サッと裏に隠れてしまいました。

やっぱり、私とも話したくないんだなと改めて感じ、その後は振り返らずに茶畑を上がり、

元の道に戻った後も、もう下の方を気にせずに歩きました。

病院に着き、薬をもらって、また来た道を引き返します。

今度は、歩いていく方向に、首を振らなくても、彼女のいた掘っ建て小屋が目に入りますが、

わざわざ見なくても、なぜだか彼女はもうその場にはいないとわかっていました。

あそこで何をしていたのか、すごく気になりましたが、

どうしても、1人で掘っ建て小屋に行く気になれず、まっすぐ家に帰りました。

次の日も、その次の日も、

彼女を学校で見かける事はありませんでした。

何度か、病院に行った時も、掘っ建て小屋のあたりやその道中でも、

彼女を見かける事はなく、

3ヶ月ほどした頃…

彼女が引っ越したことを知りました。

「昨日、学校に挨拶に来て、

新しく通う学校で頑張ります。と、言ってました。

少しの間しか学校には来てなかったけど、

友達の新しい生活を応援しましょう。」と先生が話していました。

コソコソと女の子達が、

「あんなやつ、どこ行ってもムシでしょ。」

「応援って何?笑

性格悪いから、また1人で頑張れよ。って事かな?笑」

「つーか、まだ、この辺、住んでたんだ。

とっくに、どっかに行ったと思ってたわ。」

などとコソコソ話していました。

私は、どうしようもなく、あの掘っ建て小屋に行ってみたくなっていました。

最後に、彼女を見たあの場所に行き、

彼女が何をしていたのか、

今更ながら確かめたくなったのです。

私はその日の放課後、クラブを休んで、

掘っ建て小屋に向かいました。

茶畑のその道を通って、何人か通学していたので、誰かに出くわしたらどうしようと思いましたが、その日もその道を歩いているのは私だけでした。

掘っ建て小屋の前まで行くと、私はまず、こちら側についてる扉を確認しました。

扉には、大きな南京錠がかかっていました。

とても、開けられそうにありませんでした。

やはり、彼女は、小屋の裏側で何かをしていたのだと思い、周ってみました。

小屋の裏側は、ススキの穂がもたれかかっているような状態で、パッと見たところ、特に変わった様子はありませんでした。

こんなところで、本当に一体、何をしていたんだろう。

また、そう思い、

こんな、ススキの伸びきったところで何を…

と思いながら、ふと、上を見上げた時…

大きな目

と目が合いました。

ヒュッ!と、ビックリしすぎて声も出ず、驚きで固まったままよく見ると、

それは、よく出来た目玉のオモチャでした。

本当によく出来ていて、

目玉についてる神経なども、生々しく作られており、しかしそれが、しばらくの間、日の光にさらされていたのがわかる、色あせが感じられました。

その目玉は、木の板に打ち付けられており、

明らかにそれらは、この小屋よりも新しく、

打ち付けられた釘は、無様に途中で曲がっており、

明らかに素人の手によるものだと見て取れました。

どうしても、これを外して、燃やさなくてはいけない…

怖いけど、外そう…

私は、小屋の外にあった、貨物用の一輪車を持ってきて、板を持ち、力任せに外しにかかりました。

釘が細く、曲がって打ち込んであった事が幸いしたのか、何度かゴソゴソ、グイグイと板を動かすと、バキッと音を立て、目玉つきの板が外れました。

素手で持っているのが気持ち悪かったので、ハンカチに包んで、カバンに押し込み、一輪車を元に戻して、急ぎ足で家に帰りました。

道中、この辺で捨ててやろうかなと思うほど、持っているのが気持ち悪く、

何度かカバンから出してみたのですが、

何故かしら、

捨てずに、燃やさなくてはいけない気がして仕方がなく、家に持ち帰りました。

家に着くと、自分の部屋には入らず、お風呂のある場所に行きました。

我が家は当時、五右衛門風呂だったので、

そこで燃やそうと思ったのです。

気持ち悪い思いをしながら、何とか持ち帰ったおもちゃの目玉つき板を、

ハンカチから取り出した時、ちょうど板の裏側が見える状態でした。

そこには、小さなカタカナで…

ハメツ シロ (破滅 しろ)

ズット ミテル (ずっと 見てる)

ミンナ クダケロ (皆 砕けろ)

シヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌ

△△ (名前)

□□ (名前)

◇◇ (名前)

♧♧ (名前)

↑名前は、10人くらい書かれていました。

…と、書いてありました。

板に打ち付けられた、おもちゃの目玉の意味が、

『ずっと見てる』ということを表してるとわかった時、

彼女を見かけたあの日のことが蘇り、

帰り際、振り返った時に、私を陰から見てた彼女の顔と重なりました。

その瞬間、私は包んでいたハンカチごと、

風呂のかまどに、目玉つきの板を投げ込みました。

ドクンドクンと頭からつま先まで、怖くて脈打ってるのがわかりました。

よく分からないのですが、ひどく、手と目が汚れてるような気がして仕方がなく、

目をゴシゴシ、真っ赤になるまで水で洗い、

手をタワシで、ガシガシ洗いました。

彼女の、気紛らわせのいたずらかもしれない。

彼女は、効果など期待していないかもしれない。

彼女は、些細な仕返しのつもりかもしれない。

板に書かれていた名前に私のものはなかったのですが、それでも怖くて仕方ありませんでした。

私にとっては、

明らかな悪意が感じられるもので、

あの時に、わたしを見ていた彼女は、

きっと私が、『目玉つき板』を

見に来ることを確信していたと思えて仕方ありませんでした。

引っ越してしまった後、彼女がどうしているのか、知ってる人は誰もおらず、

また、彼女の『シヌ』という言葉とともに名前を挙げられた友達にも、何も起こってはいません。

ただ、

『憎む』というものは、

あんなにも気持ち悪いものなのだなと、

深く感じさせられた出来事でした。

私は私で、

未だになぜ、あんな行動をしたのか、

自分のした事に、納得のいく答えを出せないままで、

たまに思い出すその気持ち悪さは、

当時と何1つ変わることなく、

やはり、頭からつま先まで、ドクンドクンと脈打つのでした…。

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