暗く小さな闇の中で蠢めくモノ

中編2
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暗く小さな闇の中で蠢めくモノ

ガクン

shake

突然のブレーキに窓際の吊革に捕まる体が傾き、満員電車内の隣の乗客にぶつかる。

『現在、事故の為に一時運行を停止しております』

『お乗りのお客様には大変ご迷惑をおかけしております』

流れる車内放送。

隣の乗客に軽く頭を下げつつ、

”クソ! 今朝は大事な会議があるんだよ!”

”迷惑だ!”

心中で毒付く。

肩に提げられたビジネスバックの中の、会議用の書類の束と課せられた責任の重さがが鎖骨に食い込む。

”はぁ”

憂鬱な溜息を吐きながら、何気無く窓の外に目を向け、線路に視線を移す。

…。

真っ赤な瞳が俺を見ていた。

車輪に絡まる赤く濡れた海藻みたいに捩れた何かと、肌色の崩れた輪郭が見えた。

瞬間!

俺はピクリと顔ごと天井を見上げて目を反らす。

”やばい”

あれは、見てはいけないものだ。そう無意識に悟る。

”早く、早く発車しろ””大事な会議かあるんだ”

”早くしろ””俺には関係ない。迷惑だ”

鞄の重みが痛いほど鎖骨に食い込む。

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会社ビルに駆け込み、一目散に会議室を目指す。

”間に合った!”

「では、○○君、資料を配布して下さい。」

「はい、解りました。」

俺は鞄に右手を突っ込み、中身を探る。

ない?

鞄に入れた筈の資料の束に、手が触れない。

「どうしたのかね?」

「いえ、あれ? あれ?」

俺は鞄の中を覗き見る。

真っ赤な瞳が俺を見ていた。

鞄の中には、赤黒く濡れた髪を蒼白な肌にべたりと張り付けた、女性の顔が入っていた。

真っ赤な瞳が、片目だけの真っ赤な瞳が、動く。

ギョロリと瞳を動かして、俺を睨みつける。

その口元には、肌色をした二本の物体がにょろりと咥えられいる。

切り裂かれた白い骨と赤い肉の切断面が見える。

その二本の物体には見覚えがあった。

「うわぁっっっ!」

叫び声を挙げて、俺は鞄を宙に放り投げる。

「ど、とうした?」

俺の動向に上司も驚く。

ドサリと地面に落ちた鞄からは、見慣れた紙束が覗いている。

「あ、あああああああああ」

”な、なんなんだ、あれは?”

たった今、鞄の中に目にしたモノを、信じられなかった。

けれど、

「き、きみ…?」

上司が俺の右手を指差した。

俺は自身の右手に目を向ける。 

ポタリ

地面に鮮血が滴り落ちた。

俺の右手の、薬指と小指が、無かった。

噛み千切られたかのような断面を見せて、途中から消え失せていた。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

壮絶な痛みが、自分を襲う。

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俺は一体何を鞄に入れてきてしまったのか?

切り離された二本の指は未だに見つからない。

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