中編3
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「してあげる」

ある日先輩からこんな電話がかかってきた。

「なぁ、お前。俺に『してあげる』なんて電話かけたか?」

身に覚えは無いので(そもそも誰にも電話をかけた記憶が無い)「違う」と言ってその電話は切った。

その数日後、先輩は事故で亡くなった。

当然だけど、電話の事なんかと関連付けることは無かった。

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一年くらい経って仲間内でささやかな飲み会を開いた時のこと。

電話が鳴り、部屋主だったやつがその電話に出たんだ。

そいつはすぐに戻ってきた。怪訝そうな顔をして、しきりに首を捻っていた。気になった俺は、何の電話だった聞いてみたんだ。

そいつは変な電話だったと前置きして「なんか『してあげる~』なんて女が言ってた」と俺たちに言ったんだ。

酔いもあって、先輩の事なんかかけらも思い出さなかった。

…数日後、そいつも死んだと聞かされるまでは。

そいつが死んだと聞かされた時も、少し記憶に引っかかったくらいだった(先輩もそんな電話の事を話していたな…)

またしばらく経って、飲み会に同席していたやつから電話があった。

「してあげる」って言う電話がかかってきたそうだ。

そいつも数日後に死んだ。

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俺は怖くなった。

『してあげる』を聞くと死んでしまう。そう思い、自分で電話に出ることは決してしなかった。

家に誰かがいるときは変わりに出てもらい、誰も居なければいくら電話が鳴ろうが近づくことさえしなかった。飲み会に出ていた友人にも、できる限り伝えた。「電話をかけるのはいいけど自分では決して出るな」と。

そうこうしている内に、飲み会に出ていたやつらのほとんどが死んでいた。

『してあげる』を聞いたってやつが、俺に電話をかけてくることも何度かあった。

数日すると、死んだと聞かされたり、連絡が取れなくなる…

そのたびに恐怖が上塗りされていくようだった。

とはいえ数年が経つと『してあげる』の話題が誰からも出なくなってくる。

時間が経つと恐怖も薄れてくる。

そう、俺は油断してたんだ。

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ある時、結婚が近くなり俺は彼女と電話してたんだ。

打ち合わせは終わり、俺は受話器を置いた。すると、受話器を置いたばかりの電話が再び鳴り始めた。

当時は携帯はおろか、発信者通知機能なんてものはなかったので、俺は彼女がかけなおしたのだと思い、すぐ受話器をとってしまったんだ。

うかつにも。

「もしもし、まだ何かあった?」

「・・・」

相手は数秒無言だった。

「(間違いか何かか?)」

のん気にもそう思い受話器を置こうとすると、キュルキュルという音がした。かと思えば

電話の向こうから声が聞こえてきた。

shake

「してあげる」

動きが凍りついた。

「****してあげる」

数秒の間を持って女が繰り返す。

「****してあげる」

(ああ、とうとう俺の番か)

「****してあげる」

歯の根がかみ合ってないのがわかる。

「****してあげる」

「****してあげる」

「****してあげる」

「****してあげる」

・・・・・・

・・・

女は延々と繰り返す。

俺はまるで金縛りにあったように動けない。

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何時間が経っただろう。

受話器を置いてしまいたかった。だけどそれ以上に置くのが怖かった。

いつの間にか辺りは暗くなっていた。

そして、自分で電話を受けて初めて気付いたことがある。

女が『してあげる』という前に毎回奇妙な音がしているのだ。カセット早送りにしたようなキュルキュルという音。

何時間が経っただろう。

微かに。本当に微かだったけど、女の言葉が変わった。

「***ぉしてあげる」

本当にゆっくりだったけど、女の言葉は徐々に変わって言った。

「***ぉしてあげる」

「***ぉしてあげる」

「**ろしてあげる」

「*ぉろしてあげる」

shake

「ころしてあげる」

shake

「殺してあげる」

はっきりと「殺してあげる」と聞こえた時、俺は我慢できずに叫んだ。叫んでしまった。

「嫌だ!死にたくない!俺は死にたくない!」

そして叩きつけるように受話器を置いた。

あれから一年経つけれど、幸いにも俺は死んでいない。あの電話は何だったんだろう…

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