中編5
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カヨだよ…

これは、オレが学生時代にとあるスポーツ店でアルバイトしてた時の話し…

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その日は、スポーツ店の近所にある小学校の入学式だった…

今日の仕事は、その小学校に行き、入学式・教室でのホームルームみたいなことを終えた新入生とその保護者に、注文されていた体操服を手渡すと言う仕事だ…

店の従業員のオバサンと二人でその準備をしていた…

家庭科室だったかな? 用意された部屋に入り、子供の名前の書かれた体操服入りの袋をあいうえお順に並べて、ホームルームが終わるのを待つ…

入学式➡ホームルーム➡体操服の受け渡し➡帰宅という予定になっているらしい…

ホームルームが終わったクラスから親子でこの部屋を訪れて、体操服を受け取って帰るって流れみたいだ…

なん組まであったかは忘れたが、4~5組まであったと記憶している…

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最初のクラスが終わったようだ…

この部屋の手前にある階段から、大きな声が聞こえて来た…

『こちらの階段から降りて、すぐの所にある部屋で注文された体操服を受け取って帰ってください!』

担任の先生の声だろう…

そのうち、階段の方からざわざわとした話し声が聞こえて来た…

『ご入学おめでとうございま~す。こちらで体操服を受け取ってお帰りくださ~い』

さっきまでだるそうにアクビばかりしていたオバサンが満面の営業スマイルで声をかける…

『おめでとうございます。お名前は?』

「○○です」

告げられた名前の袋を探し、手渡す…

それの繰り返し…

大抵は親子で来るのだが、おしゃべりが忙しいのだろう… 親は後ろで話し込んでて、子供だけで取りに来る子も結構居た…

ー入り口周辺で話し込んでんじゃねぇよ… 邪魔くさい…ー

心の中で、悪態をつきながら満面の笑顔でオシャレをしたピカピカの1年生に声をかける…

『お名前は?』

「○○~!」

元気のいい返事が帰ってくる…

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そんなことを繰り返しているときだった…

各クラスごとのホームルームももう終わったんだろう…

部屋の前には行列が出来て居た…

名前を聞き、体操服を渡し、先生から渡された名簿にチェックを入れる…

単純作業だが、ここまで行列を作られるとやはり焦る…

4月の初旬、あまり天気のいい日では無かったが、汗が出てくる…

そんな時だった…

一人の女の子が目の前に立っていた…

『お名前は?』

「カヨだよ!」

『名字はなんて言うのかな? なにカヨちゃん?』

女の子は軽く首を斜めに傾けて、不思議そうな顔をする…

ーチッ、このくそ忙しいタイミングで… 親はどこや? どこで話し込んでんだ?ー

心の中で呟き、辺りを見渡す…

話し込んでいる大人は結構いるのだがどれがこの子の親なのかわからない…

『カヨちゃん、お父さんか お母さんは?』

「居ないよ。だって来れないから。」

満面の笑顔でそう応える…

???

入学式に親が居ない?

『じゃあ、おじいちゃんかお婆ちゃんと来たのかな?』

「違うよ~、カヨ、おじいちゃんもお婆ちゃんも居ないもん」

『じゃあ、誰と来たの?』

「カヨ一人だよ!」

???

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そんな馬鹿な…

小学校の入学式に子供だけ? そんな事あるの?

「あっ、ママ~」

その声に反応し、顔を上げるとカヨちゃんの隣にお母さんらしき女の人が立っていた…

「すいません。加藤です。」

今にも消え入りそうな声だった…

なんとか聞き取れるくらいの…

『加藤カヨちゃんですね。ご入学おめでとうございます。』

そう言って、加藤カヨって名前の書いてある体操服入りの袋を手渡した…

「ねぇ、ママ! これっていつ着るの?」

「さぁいつかなぁ? ほら帰るよ。ありがとうございました。」

そう言って、親子は帰って行った…

見送ったオレは何か言い表せないような違和感を感じていた…

「すいません。○○なんですけど!」

目の前の人に声をかけられて我に帰った…

『あぁ、すいません。○○さんですね』

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そうこうしている内に全ての新入生に配り終えた…

持ってきた名前入りの袋は全てなくなった…

「全員、取りに来られました?」

先生らしい人に声をかけられた…

『142名、全員取りに来られましたよ』

「えっ、141名ですよね? 一人おられないので…」

『えっ、でも全部配りましたよ…』

「あっ、お店には事前に連絡入れといたので数に入って無かったのかも…。ほら、例の先月末の火事の子…」

『あぁ、あの子… 可哀想でしたね… おかあさんも一緒に亡くなられたですよね?』

「はい…」

ーうん?なんだこの会話? 火事?ー

『イカ君、名簿見せて』

オバサンがオレに声をかける…

名簿を手渡す…

『あっ、やっぱり一人チェック入っていませんでした。やっぱり店の方で一人分抜いてたみたいです。お騒がせしました。』

「いえいえ、こちらも最初に言っておけばよかったですね。すいません。」

『うん、やっぱり来てないですね、加藤カヨちゃん。 私の名簿にも、彼の名簿にもチェックが入って無いんで。』

2枚のチェック用の名簿を見比べて言った店のオバサンの言葉にオレは愕然とした…

ー加藤カヨちゃん…ー

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帰りの車中で、オレはオバサンにその出来事を伝えた…

『え~、そんな訳ないじゃん。最初から入って無かっただけだよ~。もうイカ君私を脅かそうとしてるでしょ~。』

ーいや、間違いなく彼女は来ていた…ー

言い返そうとした言葉を飲み込んだ…

「そうですよね。勘違いですよね。」

『まぁ、会社に帰れば分かる話でしょ。』

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結局、会社に帰ったオレたちが知った事実は、誰も彼女の体操服を抜いていないということだった…

確かに学校から連絡はあったらしい…

加藤カヨちゃんという入学予定の女の子の家が火事に合い、お母さんとカヨちゃんが亡くなられたので体操服はキャンセルしてくださいと…

しかし、それを伝え忘れたため多分体操服入りの袋をまとめて入れていた段ボールの中にそのまま彼女の分も入っていたはずだと…

だけど、用意してあった体操服は全て手渡して無くなっていた…

そしてオレは確かにカヨちゃんとお母さんと思われる女の人と話をした…

あのカヨちゃんの分の体操服はどこに行ったんだろう…

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いや、オレは知ってる…

だって確かに手渡したんだから…

そう言えば、彼女たちの着ていた服…

確かに入学式に着るようなオシャレな服だった…

でも、思い出してみると少し汚れていたような…

それが違和感の正体だったのかな?

カヨちゃん、あの体操服来てくれたかな…?

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裂久夜さん、お久し振りです。
楽しみにしてたんでしょうね(;つД`)
ホントに何とも言えない気持ちになったのを覚えてます。
忙しい時期だけのバイトでしたし、住んでる地域も離れてたので、詳しいいきさつはよく分からないままなんですが…

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