呪具屋津久喪〜流シリーズ〜

中編5
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呪具屋津久喪〜流シリーズ〜

music:1

水月 鏡子は写真に凝っていた。

『あ〜、カメラ欲しいな〜。スマホもいいけど、やっぱりシャッター押す時のあの感覚がいいんだよね。どっかに中古のデジカメとか売ってないかな?』

そんなことを呟きながら街を散歩していたところ、彼女は一軒の店を見つけた。その店には〈九十九屋〉と書かれた看板が掲げられていた。

『クジュウク屋?』

その店は一見骨董品店のようであったが、窓から中を覗いてみると骨董品店というよりは中古屋といった感じであった。

鏡子はその店がなんとなく気になり、入ってみることにした。すると店の片隅に一つのデジタルカメラが置かれているのが目についた。彼女はそれを手に取り、値段を確認し驚愕した。

『うっそ!5000円⁉︎』

そのデジタルカメラは型はやや古いようだったが、見た目は新品同様であり、5000円というのはあまりにも安かった。

彼女が絶句していると、

「おや、いらっしゃい。」

不意に後ろから声をかけられた。彼女が後ろを振り向くと、そこには白髪ーとは言っても年寄りではなく、見たところまだ30歳前後といったところであろうかーで髪の長い男が立っていた。

鏡子が突然の出来事に身動きがとれずにいると、

「ごめんごめん、驚かせちゃったかな。店の奥で品物の整理をしてたら、お客さんが来たようだったから表に出てみたら、君がそのデジカメを手に立ち尽くしてるものだから声をかけたんだけど。あ、俺はこの〈ツクモ屋〉の店主の御門 津久喪(ミカド ツクモ)。変わった名前だろう?」

となんとも軽い感じで話しかけてきた。

『あ、はい。あの、このデジカメ5000円って…。』

と鏡子が、気圧されながらも話し始めると

「随分安いだろう?実はこの店はね、ただの中古品だけじゃなくて、持ち主が少し特別な理由で手放さなくてはいけなくなったものも取り扱ってるんだ。そのデジカメもその一つ。だから新品同様でも、その値段なんだよ。」

と彼女の言葉を遮って話し出した。

『特別な理由…?』

「フフ、まぁあまり気にする必要はないよ。それよりも、だいぶそのデジカメが気になってるみたいだね。もしよかったら、試用期間として1週間ほど無料で貸し出すこともできるけど。」

『えっ!本当ですか?』

「うん、まぁ返品保証の代わりだと考えてくれればいいよ。1週間使ってもらって、気に入ったら1週間後にまた来て代金を払ってもらう、気に入らなかったら商品を返してもらう。そういうシステムをうちは使ってるんだ。」

鏡子はそこで一つ疑問に思い聞いてみた。

『それって、代金を払わずに商品を持って行っちゃう人とかいないんですか?』

すると

「フフ、そういう人にはちょっと怖いめにあってもらって、無理にでも来てもらうんだ。」

と、津久喪は軽い感じではあったものの、声のトーンを下げて言った。

『……。』

予想だにしなかった言葉に彼女が言葉を返せずにいると

「まぁ心配しないでも大丈夫だよ。要は1週間後にちゃんと来てくれればいいんだから。それで、どうする?試用期間。」

鏡子は少し悩んだ。まずこの津久喪という男は明らかに怪しい。嘘をついているようには見えないが、何か企んでいるような気がする。それに彼が言っていた特別な理由というのも気になる。しかし、試したうえで破格の値段でデジタルカメラが手に入ることを考えると、試さない手はないと思えた。

『はい、お願いします。』

「オッケー。じゃあまた1週間後にどうするか決めて来てね。」

『はい、ありがとうございます。』

そう言って彼女が立ち去ろうとすると

「ああそうだ。そのデジカメ、真実を写すカメラなんだ。だから写したものが見たものとちょっと違うかもしれないけど、それも含めて考えてね。」

と、津久喪は今思い出したという感じで付け加えた。

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次の日、学部の友人と街へショッピングに出かけた鏡子は、早速例のデジタルカメラを使ってみることにした。

『そうだ、みんな写真撮ろうよ。いいデジカメもらったんだ。』

『いいね!じゃあ誰かにとってもらおう!』

『すみませーん。写真撮ってもらえませんか?』

鏡子たちは通りすがりの人にデジタルカメラで写真を撮ってもらうことにした。

「とりますよー、ハイ、チーズ。」

『ありがとうございまーす。』

そして、撮ってもらった写真を確認した鏡子は愕然とした。そして

『ごめん、あたし、用事思い出したから今日帰るね。』

といい、その場を逃げるように立ち去ってしまった。

music:2

帰り道、彼女は考えていた。

(どういうこと?あの写真あたし以外みんなつまらなそうな顔してた。撮ってもらった時はみんな笑ってたはずなのに…。)

そして彼女は津久喪が最後に言った言葉を思い出した。

『もしかして、真実を写すって写真に写った人の心を写すってこと?だったらみんなは…。』

確証はなかったが、自分の考える通りだったらと思うと彼女は胸が苦しくなった。

2日後、鏡子は恋人とデートに行った。写真を撮るのは怖かったが、彼女は自分の考えが間違っているという確信が欲しくて、例のデジタルカメラを使うことにした。

『ねえ、写真撮ってもらわない?いいデジカメ持ってるんだ。』

『今時デジカメ?でもいいね。じゃあ撮ってもらおう。すみませーん。』

そして、撮ってもらった写真を確認した鏡子は自分の考えが正しかったことを確信した。

さらに

『おー、よく撮れてんじゃん。』

彼女の恋人の一言で新たな事実にも気づかされることとなった。

(やっぱり、このカメラ写した人の心を写すんだ。しかも、あたし以外には普通に見えてる。)

この事実に気づいてしまった鏡子はその後写真を撮るのが怖くて、このデジタルカメラを使うことができなかった。

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music:1

そして、カメラを受け取ってから1週間後、彼女は再び九十九屋を訪れた。

「いらっしゃい。どうだった?そのデジカメ、気に入ってもらえたかな?」

『ひとつだけ聞いてもいいですか?このカメラって写した人の心を写すカメラなんですよね?』

「フフ、厳密に言えば少し違うけど、まぁ普通に過ごしていればそういうことになるかな。」

『やっぱり、私このカメラ返品します。』

「いいの?こんなカメラ他にはないよ。」

『いいんです。私気づいたんです。人には建前と本音があるのが本来の姿だって、建前があるから世の中がうまく回っている。だからこのカメラはいりません。』

「フフ、そうかい。じゃあそれは返品だね?」

『はい。ありがとうございました。』

そう言って鏡子はカメラを返し、店を後にした。

「どうもー…。ふう、今回はたくさん魂の欠片が集まったな。やっぱり、若い子は感情の起伏が激しいからかな。フフ…。」

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