【十物語】第二夜 廃墟の住人

中編6
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【十物語】第二夜 廃墟の住人

昨年夏、俺は初めて廃墟探検に行った。

梅雨が明けてすぐの頃、高校3年の時のクラスメートが集う『クラス会』があって、当時の友人達と顔を合わせたんだけど、「8月はお盆休みあるから、廃棄探検に行かないか?」って誘われたんだ。

俺、そういうのって「興味本位で行くべきじゃない」とか聞いたことあったからさ、渋ったんだよな。

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けど、高校時代から強引なトコがあったアキラは「大丈夫、大丈夫。変なイワクとか無いトコだから!」って何度も言うもんだから、俺も他の友人達も根負けして行くことになったんだ。

8月のお盆休みに入ると、みんな都合のいい日に合わせて出かけることになった。

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メンバーは俺と言い出しっぺのアキラ、高校時代は俺らの金魚のフンだったタケシと、割と仲良くしてた女子のミアとレイも何故かついて来ることに。

場所は、通ってた高校からそんなに遠くない場所だった。

アキラは最近になって、その廃墟を見つけたそうだ。

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俺が通ってた高校ってさ、山を切り開いてそこに街を作りました!的な地形の場所にあったから、結構、近くには森とか川とかあって自然豊か。

だからアキラが案内してくれた廃墟も、鬱蒼とした森の中にあった。

腕時計を見れば、夜の7時ちょい前。

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8月だから、まだほんのり明るいが、それでも夜の闇はそこまでやってきていた。

テレビなんかを見てても思うけど、なんでわざわざ暗くなってから廃墟に探検に行くのかが分からない。

怖い雰囲気を楽しむっていうのが最大の理由としても、暗闇の中では足元とか危険が多いじゃないか。

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アキラに連れて来られた廃墟は、病院っていうよりも『医院』って言った方がしっくりくるような小さな廃墟だった。

建物は二階建て。

各々、懐中電灯を手に廃墟へと入る。

女子の二人はキャイキャイとジャニーズの話で盛り上がっていた。

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医院のドアは自動ドアじゃなくて、赤茶っぽい色付きプラスチックのドアで、大きめの四角いドアノブと言ったらいいのか、『押す』というプレートが貼られたパネルみたいなヤツだった。

入ってすぐ左手に受付、右手は壊れた下駄箱。

通路は入り口からまっすぐ奥へと伸びている。

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受付のすぐ隣が診察室で、診察室の向かいに、たぶん、急患用のものだろう『救急処置室』とプレートの掛かっている部屋があった。

床は、いろんなゴミが散乱していて、歩くたびにパキパキと音がする。

そして何故、廃墟にあるのか理解できないもの…。

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「エロ本だ!」

タケシが足元に落ちていた何冊かのエロ本を、懐中電灯で照らす。

「やだー、なんか、比較的新しい感じ?」

ミアが覗き込んで、レイと嫌悪感を顕にした。

「誰か、持ち込んだんだろ」とアキラ。

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「廃墟でエロ本って、持ち込んだヤツ、どういう神経してんの?」とか言いつつも、汚れて萎れたエロ本をタケシが開く。

「ちゃんと袋綴じも空いてるぜ?」

「マジ?マジ?」

タケシとアキラは、完全にエロ本に夢中だ。

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「ちょっと、早く探検済ませようよ」

レイが痺れを切らせて言うと、タケシとアキラは未練がましそうにエロ本から離れて歩き出す。

救急処置室の隣は待合室のようなスペースがあって、その奥に検査室やらトイレがあり、さらにその奥には三人部屋の病室が三部屋と二階に続く階段。

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小さな医院という外観とは裏腹に、中は広かった。

「何の病院だったんだろうな?」

俺が言うと、

「検査室の隣が手術室になってるから…外科?」

とタケシ。

検査室も手術室も病室も、ボロくなった機械やらベッドやらが無造作に置かれたままになっていて、それだけで気持ち悪い。

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アキラが二階へ続く階段を見つけた時、病室の窓の外に人が見えた。

作業着みたいなのを着た中年っぽい男で、気付いた俺に向かって首を横に振ると、何かを言っているようだった。

「なぁ、外に人がいるんだけどさ、出てけって言ってんじゃねぇの?あれ」

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俺が伝えると、アキラやタケシ、女子達は、

「え、どこに?」

「こんな森の中まで、わざわざ誰が見にくんだよ?」

「怖いこと言うの、やめてよねー」

と言いながら、病室の窓を見やる。

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「いねーじゃん」

「え、今の何かのフラグ?」

口々にそう言われて俺が窓を見ると、そこには確かに誰もいなくて、とっぷり暮れてしまった夜の闇があるだけだった。

「ほら、二階さっさと調べちまおうぜ」

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アキラに続いて階段を上がる。

階段にもゴミが散乱していて、足の踏み場もない感じだったが、何とか二階へと上がれた。

二階にも病室が三部屋くらいあって、その他は、宿直室なのか居住区なのかは分からないが、台所とか和室とか、敷布団が散乱していることから、たぶん寝室なのだろう部屋があった。

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「おー!ここにもエロ本が!」

目ざといタケシが、見つけたエロ本をめくろうとしゃがみ込む。

「ビール缶とかも散乱してるし、宴会でもしたヤツいんじゃね?」

そんなことを言いながら、アキラもしゃがみ込む。

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「これ、モザイク薄っ!」

「ここでシコったのいんの?どんな神経?」

俺も男だから、二人で盛り上がってるエロ本が気にならないと言えば嘘になるけど、それでも女子二人のドン引き具合を見ると仲間に加わる気にはなれなかった。

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「だいたい見終わったし、帰ろうぜ」

俺が声を掛けて二人の襟首を掴み、エロ本から引き剥がす。

「えー、もうちっと見たかったのに」

タケシとアキラがやや不満そうに立ち上がった。

女子二人は、もはや呆れ返っている。

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「今、何時?」

アキラの問いかけに腕時計を見たミアが「9時ちょい過ぎ」と答えた。

なんだかんだと、2時間はいたことになる。

「エロ本にのめり込みすぎなんだよ」

俺が言うと、アキラとタケシは「だってさー…、なぁ?」と顔を見合わせて笑う。

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その下卑た笑いに女子二人は「不潔ー」と、アキラとタケシを非難した。

無事に医院のドアをくぐって外へ出ると、昼間の熱気はすでになく、森の中独特のヒンヤリした空気が頬を撫でる。

廃墟を後にしようとした時、不意に声をかけられた。

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「何してたの?帰れって言ったでしょ」

振り返ると、あの病室の窓の外にいた作業着の男が立っていた。

「あ、すみません。私有地とは知らなくて、ちょっと探検に入ってしまったんで…」

「ダメだよ、勝手に」

「はい、すみません。すぐ帰りますんで…。ホント、すみませんでした」

俺は男に、何度も頭を下げた。

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「おい、お前…誰と話してんの?」

アキラが言った。

何で俺が怒られなきゃならないんだと腹を立てていた俺は、ちょっとイラっとしながら、

「誰、って、見りゃ分かるだろ」

トゲトゲしくアキラに答える。

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『・・・・・・・・・・』

何故かアキラもタケシも、ミアもレイも黙り込んで俺を見ていた。

みんなをよく見ると、こう、何とも言えない凍り付いた表情というか、血の気が引いた顔ってこういうのをいうのかな?って表情をしている。

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さすがの俺も、それで気付いた。

『きゃーーーーーーーーーーっ!!』

女子二人が、ハモった悲鳴を上げる。

それをキッカケに、弾かれたようにみんなで車を停めた森の外まで猛ダッシュ。

俺は怖くて、廃墟を振り返れなかった。

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停めてあったアキラの車にみんなで乗り込んで、アキラは夢中で街中へと車を運転した。

ファミレスに入るまで、誰も一言も言葉を発しなかった。

ファミレスに入ると、ようやく一息。

みんな、喉もカラカラだった。

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ドリンクバーと軽食を頼み、それぞれ喉を潤すと口を開く。

「…幽霊、見えなかったけど声は聞こえた」

「アタシも!ダメだよ、勝手に…って!」

「そうそう!」

ミアとレイが興奮したように言い合った。

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「俺は声も全然。コイツが誰もいない空間に向かって話して頭下げてるから、それ見たら、なんか急に寒気した」

そう話すのはアキラ。

その隣で、黙ったままのタケシ。

俺も、さっき体験した出来事を思い出すのさえ嫌になっていた。

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ファミレスで軽食を済ませると、解散になった。

女子二人は電車で帰ると言ってアキラに車で最寄り駅まで送ってもらい、俺とタケシはアキラの車で自宅まで送ってもらった。

「うち、寄ってく?ビールあるけど」

家の前で降ろしてもらった俺がアキラに声を掛けると、アキラは首を横に振った。

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「いや、なんか、すげー疲れたのか、さっきから身体がダルいんだわ。だから帰って寝る」

「…そっか。分かった、またな」

俺はアキラを見送って帰宅。

翌日からアキラは高熱を出して二週間ほど入院したと、後日タケシから聞いた。

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それが霊障によるものか何なのかは分からないけど、俺は二度と廃墟探検するのはごめんだね。

だってさ、霊感ないのに霊体験しちゃったんだから、懲りるのも無理ないだろ…?

[おわり]

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