長編8
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異世界に行ってみよう

「異世界に行く方法って知ってる?」

大学の友達の悟に急にそんなこと言われた。

もちろん俺は知らないと答えた。

すると悟は、そのやり方を丁寧に教えてくれた。

要約するとこうだ。

エレベータに乗り4階、2階、6階、3階、10階と移動する。

その後降りずに5階を押す。

5階に付いたら誰か乗ってくる。

乗ってきたら1階を押す。

すると何故かエレベータは10階に上がるそうだ。

直前に心変わりした場合は9階を過ぎるまでなら途中で降りることが出来るそうだ。

実はこの話を俺は知っていた。

ここ数年、なぜかここ最近ネット上で良く見る都市伝説だから、俺がすでに知っていたとしてもそんな特別な事ではない。

しかし、この様に直接人から聞くのは2回目だ。

俺は敢えて初めて聞くふりをして、悟の話を聞き入ったあと。

「じゃぁ、今夜試してみようぜ」

と誘ってみた。

深夜2時ごろ、学校から程ほど近い15階建ての古いマンションに悟と集まった。

「さてと、どっちが試そうか」

俺はしれっと言った。

「え!?お前がやるんじゃないのか?お前が言いだしっぺだろ?」

悟はまるで俺がやると思いこんでいたのか、驚いた表情をした。

「俺は試そうぜって言っただけで、俺がやるとは言っていない。

それともなに?お前まさかびびってんの?」

「いや、別にびびってないけど、お前がやりたがってるかと思ってたから」

「うん、やりたいな。でもお前はやりたくないのか?」

「え?俺は、お前の後でいいや」

その瞬間、悟の表情に一瞬安堵の影が見えたのを俺は見逃さなかった。

「でもなぁ、そんなこと言ってもし俺が異世界に本当にいっちゃったら、お前やらないだろ?」

「その場合は誰か助けを呼んだ方がいいだろ?」

「誰も信じねぇしそんな事、誰も助けられやしないだろ」

「じゃぁ、どすんだよ」

「うーん」

俺は考えるふりをした。そして急に思いついたように装い、次のように提案した。

「よし!こうしよう、ここのマンションエレベータ2基あるし、二人同時に試してみよう」

「ええ?それじゃ、もし二人とも異世界いったら誰もこっちから助けに来れないじゃないか」

「だから、誰もそんな事信じねぇし、誰も助けられやしないだろ?それに、二人の方が異世界で協力して戻りやすくなることもあるかもしれないだろ」

悟はその後も、ぐちぐち文句を言ったが最終的に

「分った。じゃぁもし、5階で本当に誰かが乗ってきたら9階で降りようぜ?それならいいだろ?」

という俺の妥協案を無理矢理に納得させ、二人同時に試すことになった。

手順としては、二人で2基のエレベータに同時に乗り込み、手順通りに階を移動していく。

エレベータは正面で向き合うように設置されており、ドアが開くとすぐ目の前に相手のエレベータが見える。

手順がそこそこ複雑なので、相手と確認しながら階の移動が出来るのである意味これも合理的だ。

そうこうしている内にエレベータが2基ともやって来た。

俺たちはそれぞれ自分のエレベータに乗った。

「まずは、4階か……」

呟きながらエレベータのボタンを押す。

ドアが閉まり、足にズシリとした重さが感じた。エレベータ上がり始めたらしい。

途中止まることなく4階に着き、エレベータのドアが開いた。

その瞬間、向こう側のエレベータもドアが開き、悟の顔が見えた。

「次は2階と……」

深夜2時という時間のせいか、このような感じに手順は順調に消化していき、やがてエレベータは10階にたどり着いた。

悟のエレベータも順調に進んでおり、俺たちはお互いの顔を確認しながら5階のボタンを押した。

初めてこの都市伝説を聞いた時から何かしら違和感があった。

もしこの都市伝説が本当だとするなら、なぜその者はこの方法を知っているのだろう?成功したら、異世界に行ってしまうのに。

もし、異世界に行った後に帰ってくる方法があるとするなら、都市伝説として広まるべきは異世界それ自体の話はずだ。

しかし、そんな話は殆ど聞かない、一方的に異世界に行く方法だけが独り歩きしたように広まっている。

これはどういう事だろうか?

それについて、俺は一つの仮説を立ててみた。

実はこの噂はその方法で異世界に『行った人』が広めてるのではなく

そのような方法で異世界からこっちの世界に『来た人』が広めているのではないだろうか?

この異世界に行く手順とは、こちらから異世界に行くための手順であると同時に

こちらの世界へ異世界の住人を呼び寄せる手順なのではないだろうか?

これはつまり、多次元世界の話だ。各世界でのエネルギ、エントロピは保存されなくてはならない。

こちらの世界の自分が異世界に行くなら、異世界の自分がこちらの世界に来なくては理屈に合わない。

手順では10階から5階に行くと誰かが乗り込んでくることになっている。

つまりそれは、異世界の自分ってことではないだろうか?

こっから先は仮説ですらなく、俺の妄想の範囲になるが。

例えばその異世界では、今何かしら破滅的なことが起こっていて、緊急避難的にこちらの世界に逃げたがっているのではないだろうか?

チン!という短い機械音とともにエレベータは5階に着いた。

ドアが開くとそこには黒い靄のような人影がそこにはあった。

そして、それはエレベータに乗り込んできた。

俺は内心、心臓が飛び出そうなほどびっくりしていたが、あらかじめ決められた手順通り1階のボタンを押した。

すると、エレベータは当たり前のように上に上がり始めた。

俺はボタン板の前いに張り付くように立っていたが、黒い靄のような影は俺のやや右後ろ斜めにいる様だった。

正直怖すぎて、後ろを振り返って確かめる気にもなれない。

しかし……

俺の目的は、異世界に行くことではない。気をしっかり持たなければならない。

気づくとエレベータは6階を通り過ぎていた、俺は慌てて9階を押す。

あいつは、悟はどうしてるだろうか……ちゃんと手順通りしているだろうか。

別の意味で緊張してきた、エレベータは8階を通り過ぎ9階に向かっている。

俺は一つ大きく深呼吸した。

チン!という相変わらず短い機械音の後エレベータのドアはあいた。

見ると、悟のエレベータもほぼ同時についておりドアが開いた。

俺たちはエレベータフロアに居りた。

そして俺が「よぉ」と短い掛け声とともに手を挙げたその瞬間。

「……!!」

悟は無言で俺に殴り掛かってきた。

備えていた俺はその攻撃をかわすと同時に膝蹴りを悟に浴びせ、間髪入れず用意しておいたナイフで悟の太腿を指した。

「ぐっ!」

短い悲鳴とともに悟は足を抑えた、俺は今度は逆側の太腿を指した。再び、悟の短い悲鳴が聞こえた。

とどめを刺す時間はないし、そもそもとどめを刺す気もない。

俺は閉じかかっていた悟が乗ってきたエレベータのドアを足で止めると、うめき声をあげる悟をエレベータ内に放り込んだ。

ドアが閉まる瞬間の睨むような目つきを俺は一生忘れることは出来ないだろう。

俺は非常階段を使ってゆっくり10階を目指した。

悟の様子がおかしいと気づいたのは随分前からだった。

俺たちは小学校から大学まで一緒に育った、悟は俺にとって親友だった。

悟にはオカルト趣味があった、親友の趣味は否定する気はないが、俺にはあまりその手の事に興味を示さなかった。

そして、ある日悟は目を輝かせて、この異世界に行く話を俺にした。

相変わらず薄い反応の俺に気付かないのか、悟は終始楽しそうにその話をした後

「今度試してみるんだ」

と子供の様に目を爛々と輝かせて喋っていた。

それ以後、悟との連絡がぷつりと切れた

そして、3か月後大学内を何事も無かったようにあるく悟を見つけた。

その時の悟はもはや別人のようだった。

姿形には何の変りもないようだが趣味、性格、嗜好などが大きく変わったように見受けられた。

聞くと病院に長い事入院してたらしいが、今は大丈夫だというような事を言い。

「今日は疲れたので帰る」

と言い残すと、逃げるように俺から去って行った。

俺は悟が変わる直前に興味を持っていた、異世界に行く方法についていろいろ調べ、先述のような仮説を立ててみた。

調度そのタイミングで悟がこの話を持ちかけたのでペテンをかけてみたという訳だ。

10階に付いた俺はエレベータを目指した。

もし、この世界の悟が異世界に囚われているなら、この世界の悟を再び異世界に戻せば悟は戻ってくるのではないだろうか?

エレベータはそこに居り、ドアが開いていた。

中には、姿形は先ほどの悟とほぼ同じだが明らかにその雰囲気が違う悟がそこにはいた。

悟は衰弱しきっているが、割と意識はしっかりしているようだった。

「お前……は…」

悟を抱きかかえると消え入りそうな声で、悟は聞いてきた。

「おかえり悟、お前はこっちの世界に戻って来たんだ」

「そうか……」

よく見ると悟の太腿には何か刺したような傷があった。

「ああ、これな。向こうの監視の目を欺くために、自分で刺したんだ見た目ほど大きな傷じゃない」

傷の様子は明らかに、俺がさっき異世界の悟に付けた傷に似ていた。

つまり、異世界とこちらの世界は何らかの同期がとられているらしい、尤も仕組みまでは解らない。

「ここは何処だ?」

悟は思案に拭け入りそうな俺を呼び戻した。

「大学近くのマンションだ」

「……!早くここを出よう。頼む急いでくれ」

「安心しろ、お前はこっちの世界に戻って来たんだ。何の心配もすることはない」

「違う、違うんだ!こっちの世界とあっちの世界は表裏一体なんだ!この世界のお前、異世界のお前が居るように、この世界のマンションは、異世界にもあるんだ!」

「ん?」

「お前は今回、手順を行うためのこの場所を自分で選んだと思ってるだろ?しかし、それは異世界のお前が今回ここを選んだという事もあるのさ!」

「わかった、わかった、その話は今度聞くから」

「今度じゃ遅いんだ!!いいかよく聞け!!向こうではこのマンションの部屋のほとんどはこっちから来た人間を監禁するために使ってるんだ!

という事はこっちではその逆なんだ!」

「逆って……」

「そうだよ!!ここの住人は、元異世界の……」

その瞬間、10階全てのマンションのドアが開き、そこから人がぞろぞろと……

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修行者さん
どうもお久しぶりです。
相変わらずこんなの書いてます。
今後ともよろしくです。

腐煙さん
コメント、怖い、ありがとうございます。
こんなの書いといてあれですが。
私自身はもし仮に多次元的な世界があるとしても、こんな風に同期がとられること(表裏一体であり続けること)なんかないと思ってます。
物語の都合上の生まれた設定であり、故に物語上扱いやすいのであります。決して、使い方が上手いわけではないというへりくだり。

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