【十物語】第三夜 ストリップ劇場の女

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【十物語】第三夜 ストリップ劇場の女

僕の勤めている会社の先輩は若い頃、舞台俳優を目指していたそうです。

劇団にも入って稽古をしたり芝居を上演したり、充実した毎日を送っていたと話してくれました。

その先輩が語ってくれた、幽霊話です。

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舞台稽古のあと、帰宅する途中で交通事故に遭った先輩は左半身に麻痺が残りました。

そのせいで、舞台俳優の道を諦めざるをえなくなったそうです。

それでも舞台の仕事に携わりたいと両親に相談したところ、ストリップ劇場を運営している叔父がいると紹介されたんだとか。

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初めは「ストリップなんて…」と思っていた先輩でしたが、同じ舞台での仕事なら何かの勉強になるかもしれない、とお願いしました。

今は温泉街でも見かけなくなってしまったストリップ劇場ですが、先輩が若い頃はまだチラホラあったとの話です。

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先輩は半身が不自由なので、スポットライトの調整やら舞台装置の稼働やら、できる範囲での仕事は何でもやりました。

ストリップは踊り子さんが衣服を一枚一枚、踊りながら脱ぎ捨てて素肌を露わにしていくものですが、先輩曰く、ただ脱いでるだけじゃなくて一種の芸術なんだと言っていました。

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女の玉肌を間近でかぶり付くように客は観賞し、そこで欲望を吐き出してスッキリして帰っていく。

演劇だって歌舞伎だって、客を楽しませたり満足させたりするのは舞台の仕事として共通のことだと先輩は楽しげに話していました。

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ある日、その日のショーを全て終えて、まだ熱気の残る舞台を掃除していた時のことです。

どこからか、言い争うような声が聞こえてきたんだそうです。

先輩は踊り子が座長と揉めているのか、くらいにしか思わなかったそうですが、それはその日だけでなく、その後も度々ありました。

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気になった先輩は、声の出処を探しました。

舞台裏に、使われていない部屋があるのですが、どうやらそこから聞こえてくるようです。

先輩がドアノブに手をかけて回すと、鍵がかかっていました。

そして、今までしていた声もピタリと止んでいたそうです。

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先輩は思いきって、叔父さんに使われていない部屋から話し声がしたことを聞いてみました。

でも、「気のせいだ」とか「あそこは使ったことがない」と、はぐらかされたんだそうです。

釈然としないながらも、先輩は「自分は働かせてもらってる身だから」と、それ以上は追求しませんでした。

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それから何日かが経って、その日も舞台の片付けをしていると、いつもの言い争うような声が聞こえてきたそうです。

先輩が舞台から裏へと回った時、あの開かずの部屋から腰に薄い布を纏っただけの半裸の女が出てくるのを目撃しました。

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その女は、向かいの壁の中へスッと消えていったそうです。

先輩は訳が分からず立ち尽くしていましたが、不意に踊り子さんに肩を叩かれてハッと我にかえりました。

先輩は、無我夢中で自分が目撃したことを踊り子さんに話しました。

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その踊り子さんは劇場一の古株で、大抵のことは知っていました。

その踊り子さんが、「あぁ、ヤエちゃんだね」と言ったそうです。

ヤエちゃんは、劇場ができたばかり時の踊り子の初期メンバーで、「八重歯が可愛い」から「ヤエちゃん」と呼ばれていたんだとか。

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ヤエちゃんは、いわゆる「清純派」というのか、恥じらいながら踊る様が男性客の欲望を掻き立てて人気の出た踊り子さんだったそうです。

ある時、ヤエちゃんはヤエちゃんのファンの一人と恋仲になったそうですが、その恋は上手くいきませんでした。

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ヤエちゃんの恋人である男には他に女がいて、ヤエちゃんは身体を弄ばれ、ストリップで稼いだお金を毟り取られた挙句、捨てられたそうです。

そして、首を吊りました。

その首を吊った部屋が、あの開かずの部屋でした。

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先輩は、その話を聞いて哀しくなると共に腹が立ったそうです。

そして、その時、「幽霊なんかより生きている人間の方が、よっぽど怖い」と思ったとか。

「幽霊が人をとり殺せるとしたら、とり殺すまで時間がかかる。でも生きている人間なら、いくらでもその場で人を殺せるじゃないか」

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先輩の話に、僕も「その通りだ」と思いました。

その後、先輩の叔父さんの劇場も資金難で廃業することとなり、先輩は今の会社に入社してきました。

僕と先輩の働いている会社は、舞台機材等のレンタル会社です。

先輩は今まで身に付けたスキルを活かして、顧客に的確なアドバイスをして機材を貸し出しています。

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僕も恋愛経験はありますが、そんな酷いことをする男って本当にいるんだな、と腹立たしく思います。

「事実は小説より奇なり」とは、このことですね。

ヤエさんの無念を思うと、僕は自然と手を合わせてしまいます。

[おわり]

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mami 様

コメントありがとうございます。

熟女いるのですかΣ(・□・;)
やっぱり、そういう方は齢を重ねてもお綺麗なのでしょうね(*^^*)

吉井さんやロビン様など、お若い(と勝手に思ってますが)方も、見た経験あるのですねぇ。
やはり、こういう場所は、入れないだけに女子は気になりますよね。
ちなみに私が知っていた唯一のお店は…呼び込みの60歳は超えているであろう方が、脱いでいたと…

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吉井 様

コメントありがとうございます。

私はストリップは見たことないですが、やはり興奮するものなんでしょうか(//∇//)
お気に入りの踊り子さんがいらっしゃると、通い甲斐もあったでしょうね(^-^)

本当に、そうですね。
他者を傷付けて平気な顔していられるのは、人間だけでしょうからね。

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