スピリチュアルゴーストの抱擁

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スピリチュアルゴーストの抱擁

今回のお話は地元での就職一年目の年末に近い頃のことだったと思います。

その日、私は職場の教育係の黒川さんと「海賊の隠れ家」という創作海鮮料理店にいました。

テーブルはすべて個室になっていて居酒屋のように騒がしくないのが特徴でした。

もちろんあまり人に聞かれたくない内緒の話をするのにも好都合でしたが・・・

なぜこんなところにいるのかというと私の高校時代の先輩の高遠さんが私たち二人に相談したいことがあるということでこのお店に呼ばれていました。

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「えっと・・・フリルアイスとグリーンマリーゴールドのぱりぱり海鮮サラダと

気まぐれ店長のおまかせ手作り魚肉ソーセージ、

それとあんかけ料理選手権があったら優勝が狙えるカニあんかけチャーハンを」

黒川さんが店員にやたら名前の長いメニューを注文していると高遠先輩が制止しました。

「今日は俺が奢るから、もっといいもの注文してよ」

高遠さんの言葉を受けて黒川さんも右手を前に出してストップのポーズをとりました。

「いや、別に変な貸し借りは作りたくないし、むしろ娘さんが生まれたことのお祝いを込めて私達が奢ってもいいんだけど」

高遠さんの奥さんの絵梨花さんは先日無事女の子を出産していました。

「あ、ああ、それはありがたいんだけど、実は俺この店のお食事券をもらっちゃって、2万円分も、だから遠慮しなくてもいいよ」

そう言って高遠さんは食事券の入った封筒を見せてくれました。

「黒川さん、カニ好きだって前言ってたじゃない・・・ここ、カニ料理もいっぱいあるよ」

カニと促されて、黒川さんはまんざらでもない様子でカニ料理のメニューを見始めました。

「ほら、いけすの生きたカニを使ってるみたいだから、しゃぶしゃぶなんかいいんじゃない」

「・・・確かにしゃぶもいいわねえ」

なんか通っぽい言い回しで略しました。

結局、黒川さんは勧められたままにカニしゃぶを注文しました。

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「それで・・・黒川さんを大人の女性と見込んで相談がしたい悩み事があるんだけど・・・」

「大人の女性とか言うな! というか高遠さんと私は同級でしょう」

確かに母校は違いましたが、二人の学年は同じでした。

黒川先輩は実は私とコンビでいても年上に見られることが嫌いのようで、よく取引先の人間にどっちが年上に見えるかと聞くほどでした。

まあ黒川さんの方が年下といっても違和感のない容姿だったので、安全に黒川さんの方が年下に見えるよと皆おべっかを使っていましたが・・・

そして、料理が出そろうと、あらためて高遠さんが悩みを打ち明け始めました。

このとき私はいわゆる霊感のある黒川さんに相談するのだから、当然心霊がらみのことだと思っていました。

実際、今までも高遠先輩がらみだけに絞ってもかなりの事件を黒川さんは関わってきていました。

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「実は・・・

最近ナニが立たなくなっちゃって・・・」

え、ナニ、この人何言ってるのかな?

ナニ、ナニって何?

「えっと・・・先輩、それってまさかいわゆる勃起不全というやつですか?」

先輩はゆっくり頷きました。

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私との話ならまだしも、女性の黒川さんを前にして完全にセクハラでした。

というか、黒川さん全く関係ないんじゃ・・・

もうこの人との縁を切ろうかなと思うほど、私は動揺していました。

結婚してから、環境の変化のせいか以前より女性にときめかなくなった、ぐらいのオブラードに包んだ表現にしてくれたらまだよかったのですが、直球ど真ん中の表現でした。

黒川先輩が激怒すればその怒りの矛先が私の方に向かうことも十分考えられましたのですが、私だけでなく、いつも冷静な黒川さんも呆気に取られているようでした。

「そ、それって病院行った方がいいんじゃないですか? 確かにその・・・立たないと奥さんの絵梨花さんとの関係が困ることもあるかもしれないですけど」

私は何とかこの話を穏便に終わらせようと必死でした。

「いや、それがな、ここからが不思議なんだけど、絵梨花にだけは反応するんだよ、それも今までより激しく」

彼の話はこうでした。

もともと今の奥さんの絵梨花さんとは会社の社長の息子と女性従業員という関係で、高卒で入ってきた彼女をガキっぽい奴ぐらいにしか思っていなかったそうです。

それが去年の会社の忘年会の時に酔った絵梨花さんをアパートに送り届けた時に酔った勢いで男と女の関係となってしまい、それが仇で妊娠・・・

奥さんの絵梨花さんとは出来ちゃった婚になったのですが、いつからか奥さんの絵梨花さんにしか体が反応しなくなったとのことでした。

絵梨花さんとは妊娠している体のことも考えて、そういうことはしないようにしていました。

そのため、普通であれば他の女性には敏感に反応しそうなものなのですが、全く反応しないようになってしまったようなのでした。

「その・・・絵梨花さんの身体には興奮するんですよね」

「うむ!」

「それって、単純に先輩が幼児体型好みになったということでは?」

絵梨花さんはスタイルや容姿的には年齢よりも幼く見える感じでした。

年齢は確か今21歳だったはずですが、その子供っぽい雰囲気も相まって服装と髪型次第では高校生か中学生に間違えてしまいそうなほどでした。

「俺も最初そう思って、ロリ系のアダルトDVDをレンタルして試してみたんだけど、全く興奮しなかった」

試したんかい!と心の中で突っ込みました。

幸いにも黒川さんは頼んだカニ料理が来てそちらの方に注意が向けられているようでした。

「絵梨花さんにだけ反応するとしても、妊娠と出産で・・・その、そういうことはしなかったんですよね」

「ああ、それは主に手と口で」

あ、もうこの人馬鹿なんだ、なんでそんな直接的な表現使うんだよ。

「うふふ、このとろけそうなカニをしゃぶしゃぶして」

黒川さんが怒らないか心配でしたが、どうやらカニしゃぶに夢中のようです。

「それで・・・あくまで俺の勘なんだけど、なんでこんなことになってしまったのかを黒川さんに聞いたら何かわかるんじゃないかなと・・・」

高遠さんが黒川さんに話を向けました。

カニしゃぶを幸せそうに頬張りながらでしたが、黒川さんはようやく口を開きました。

「・・・うお、気が付かなかった」

黒川さんはあらためて高遠さんの方を見て、何かに驚いたように声を上げました。

「ちょっと! これだけいろいろ食べてそれはひどくない?」

高遠さんは黒川さんのその驚いたそぶりを自分の話を何も聞いていなかったと受け取ったようでした。

しかし、黒川さんはう~んと考えるようなそぶりを見せて

「・・・まあ、こんなおいしいカニ料理をごちそうになってるんだし、心当たりは当たってみようかしら」

どうも黒川さんには先輩の身体の異変の原因に心当たりがあるようでした。

「心当たり?」

「・・・そういうのも視れる知り合いがいるの」

そういうと黒川さんは携帯電話を取り出して、どこかに電話をかけ始めました。

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「ああ、真央姉、ごめんね、こんな時間に」

黒川さんはその真央姉と呼んだ知り合いが電話に出たのを確認すると、高遠先輩のことを説明し始めました。

「でね、今からで申し訳ないんだけど、ちょっと視てあげてほしいのよ・・・ああ、うん、まあ、それは・・・」

どうも電話口の真央姉さんは黒川さんの依頼を渋っているようでした。

「この前見つけたおいしいお寿司のお店今度案内するから・・・うん、じゃあ写真送るね」

どうやら真央姉さんという人は快諾したようでした。

黒川さんは高遠さんの写真を携帯で撮り、そのままメールで送りました。

「いわゆる霊視ってやつですか? 携帯の写真でもできるんですか?」

「まあ、真央姉ぐらい視える人だったら、写真でも大丈夫よ。それにこの前祈祷に行ったときのことも覚えてくれてたし」

詳しく聞くと、その真央姉さんというのは高遠先輩が呪われた病院からの因縁をお祓いしに行った神社の娘さんのようでした。

そう言われて、私の頭の中にもその時応対してくれた綺麗な巫女のお姉さんの顔が思い起こされました。

黒川さんの説明によると、その真央さんという女性は内々に神社の氏子さんなどの依頼で霊視を行っているいわゆる視える人のようでした。

そうこうしているうちに真央さんから電話がかかってきました。

電話に出た瑞季さんは真央さんの話を高遠さんに聞かせるために携帯のスピーカーをオンにしました。

「高遠さん、でしたでしょうか、まず結果から申しますと・・・」

真央さんが霊視結果を話し始めました。

「これほど良い相性のお二人は見たことがありません」

「えっ、どういうことですか?」

高遠先輩が驚いて聞き返しました。

「文字通りの意味です、あなたと奥さんはそのまとう気の相性も、心根も親和性が非常に強いですね」

「・・・いや、でも好みという意味では、最初出合ったときは絵梨花に何にも感じなかったんですけど」

「・・・体の関係をもったことがきっかけとなって、お互いの気が深くつながることは往々にしてあります」

真央さんの説明はこうだった。

絵梨花さんと高遠さんの相性は最高でそのままであっても深い愛情を形成することができるのですが、今はまだ先輩の方が世間一般の美人などの見方とこれまでの女性遍歴に引きずられているということ。

だから、それも先輩が良い相性だとちゃんと受け入れて接すればじきに違和感もなくなってくるということでした。

「まあ、美人の要素一つ取ったって、時代によってもその常識は変わるんだし今の自分の感じ方を信じて問題ないってことよ」

瑞季さんも納得していました。

「・・・但し、これだけ親和性が強い間柄ですので、逆にあなたが別の女性に無理に心を向けるようになると、あなたを包む気が乱れて身体と精神に変調をきたすことになるかもしれません」

要するに浮気をすると、相性が良すぎる分、その力が反転してしまうということのようでした。

最後まで説明を聞いていた高遠先輩はなんだか複雑な面持ちでした。

おそらく奥さんの絵梨花さんとの相性が良いという喜ばしいことと同時に他の女性との逢瀬はもうできないという認識に対する反射的な落胆と思えました。

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食事のあと、私は瑞季さんを自宅まで送っていました。

その際、私は気になっていたことを聞いてみました。

「あの、黒川さん、さっきの席で先輩の方を見て何か驚いた時がありましたよね。

先輩は黒川さんが話を聞いていなかったと思ったみたいですけど・・・

・・・何か視えたんじゃないですか?」

私の問いかけに瑞季さんはどうしようかなと少し悩んでいるようでしたが

「・・・他の人に言っちゃだめよ」

いつものように助手席に深くもたれながら彼女はつぶやきました。

「・・・高遠さんにえっちゃんの生霊が渦を巻くように憑りついてた」

以前からも絵梨花さんは生霊を飛ばす前科がありましたが、今回も憑いていたようでした。

「えっ、またですか! 

でも、なんであのときまで気が付かなかったんですか?」

以前も絵梨花さんが高遠先輩を殺す勢いの強い生霊を送っていたことがありましたが、その時はすぐに気が付いていたはずでした。

「・・・う~ん、あれは前と違って全く害悪じゃないからなあ、意識して視ないと認識できないよ」

「どういうことですか?」

「いわゆる悪い気を放つ霊の場合はこう何だかぞわわっとくるいやな感じがするじゃない」

そういえば私ぐらいのいわゆる霊感のほとんどない人間でもやばい心霊スポットなどではよくない悪寒を感じることがありました。

「あれは生霊といっても慈しむ気で包まれているわけでむしろいい影響を及ぼしているはずよ、それが真央姉の言っていたとおりもっと時間がたてばお互いに気が練られて行って全く違和感がないくらいに一つになっていくから」

しかし、その説明だと真央さんの説明と食い違うような気がしました。

相性とか親和性とか言っていたような・・・

「それにしても私じゃうまくごまかす言葉が浮かばなかったから、写真を送るときに『うまくごまかして』って文章を添えて本職にまかせてみたけど、綺麗に説明したものよね」

「えっ、あの説明嘘なんですか?」

「結果としてそれと同じことになるということだから明確に嘘ということにはならないかしらね」

確かに絵梨花さんの愛情の気に取り込まれて絵梨花さんのことしか考えられなくなるのであれば、結果的に相性は最高といえるような気もしますが・・・

「いいじゃない、そう思っていれば本人にとってはそれが真実になるんだから」

高遠さんが絵梨花さんを運命の人と信じれば、それが私達の認識とは違うもうひとつの真実となる。

何だかだましているような気もしましたが・・・

「でもね、えっちゃんから聞いたんだけど、えっちゃんのお父さん浮気してその女のところに出て行ってるらしいんだよね」

瑞季さんが絵梨花さんの家族のことを話し始めました。

そう言われてみれば、絵梨花さんの結婚式では母親しかいませんでした。

私はてっきりすでに亡くなっていると思ったのですが、まさか浮気相手のところに出て行ったとは驚きました。

「出て行ったのは、えっちゃんが高校生のときらしいんだけど、そのせいでえっちゃん本人もえっちゃんのお母さんもつらい思いをしたらしいわ」

確かにそれは本当にショックなことだと思えました。

「・・・だから、えっちゃんは余計に必死なんだと思うの、自分自身の家族を守ることに」

瑞季さんの口調が強くなりました。

「そして、その強い思いが生霊となって影響を及ぼす・・・良いものも・・・悪いものもね

本当に浮気なんかして気の質が悪いものに反転しちゃったら、たぶん今度こそ呪い殺しちゃうだろうしね」

そこまで言って、瑞季さんはこの話は終わりとばかりに笑顔を浮かべました。

「まあ、結局真実はいつもひとつじゃないってことよ」

瑞季さんは私の方に向いて、そんな事を独り言のようにつぶやきました。

どこかの探偵が発するようなセリフでしたが、そうなのかもしれませんでした。

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それでも・・・高遠さんが絵梨花さんの想いを裏切ったとき、今度こそ本当に呪い殺される。

そのことだけは変わりようのない真実である、そう思えてなりませんでした。

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ピノ様、みんな読んでくださるなんて!
嬉しいです。
ピノ様に少しでも興味をもっていただけると幸いです。

身体の相性・・・よく聞きますね。
想いの通じ合っている相手との方が気持ちいいというのはあると思います。

マヨ!いいですね、マヨなんにでも合います。

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