血と妹 弐 「偽り言と綺麗事」

中編4
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血と妹 弐 「偽り言と綺麗事」

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「…兄さん、ちょっといいですか?」

俺の妹、愛華は俺に対して敬語を使う。

理由は、血の繋がりのない他人であるから。だ、そうだ。

俺の叔母は10年前にある男と結婚した。ただ、その男には連れ子がいた。それが当時4歳だった愛華だ。

不運にも叔母夫婦は事故で亡くなり、愛華は祖父母の家に預けられた。

それからすぐ俺の両親もそれぞれ病気で死んだ。

晴れて愛華と同じ境遇になった俺も、祖父母の家に預けられたのだ。

それからは兄妹同然に育てられ、今に至る。

とまあ、このくらいで昼ドラのような家族構成はご理解いただけたと思う。

話を現在に戻そう。

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「どうかした?」

「…お客様が」

客?訪ねて来るような友人はいないはずだ。

セールスか何かか?

とにかく玄関に向かった。

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「お待たせしました、何かご用でしょうか?」

待っていたのは黒い女性。黒いセーターに黒いスカート。爪まで黒く塗っている。

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手には日本人形を持っている。

桃色の着物に山吹色の帯が印象的だ。

「こんにちは」

人形の両足をもって60度ほど前に倒し、お辞儀をさせた。

「あの、どちら様でしょうか?」

「こんにちは」

挨拶を返さなかったのが気に入らなかったのか、再び人形にお辞儀をさせた。

「あ、こんにちは」

「………」

「………」

女性は黙り込んだ。

「あの、ご用件は?」

「………」

「あの、すみません?」

「………」

人形をこちらに突き出すだけで全く喋らない。

もしかして、どこかの施設から抜け出して徘徊してるのか?

「…あの、兄さん?」

俺がなかなか戻ってこないばかりか、会話も聞こえてこないため不信に思ったのであろう愛華が玄関まで顔を出した。

「…先ほどからこんなご様子なんです」

「仕方ない、一応警察に…」

俺は玄関横の受話器を取った。

「助けてください!」

「え?」

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突然女性が大声を上げた。

「どういうことですか?」

「私たち、殺されるんです」

私“たち”?

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そこで初めて、彼女が赤ん坊をおぶっていることに気づいた。

「追われているんです、夫に。酔うと暴れて、手がつけられなくて…」

「そんな、じゃあ今すぐ警察に!」

「それはやめてください!…普段は、優しい人なんです…」

「でも…」

「それに、夫が捕まればこの子を養っていくお金が…」

両手でしっかりと赤ん坊の腰を支え、心配そうに顔を覗き込む彼女の姿は、先ほどまでの異様なそれとは大きく違った。

「…兄さん」

愛華の切なげな瞳が何を訴えているのか俺にはわかった。

愛華の顔を見て、首をゆっくり縦に振った。

愛華の大きな目が細い曲線になる。

「…では中へどうぞ」

「アリガトウ」

妙に無機質な声だった。それに、今の女性の声だったか?

それにこの赤ん坊、さっきから声を出さないな…目は開いているから起きてはいるのだろうが…

ただ無表情で母親の背にぴったりと頬をくっつけている。

あれ?何かおかしい…そういえばさっきこの人…

「…足元気をつけてください」

愛華は女性の前に右手を差し出した。

「エエ、アリガトウ」

空っぽの返事をして、自分の右手を差し出した。

やっぱりこの人おかしい。

「待ってください!」

今度は俺が大声を上げる番だ。

女性の動きがピタリと止まる。

「…兄さん?」

「あなた、人形はどうしたんですか?」

「ニンギョウ…モッテ、ナイ」

「とぼけないでくれ」

「…バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ、バレタ」

狂ったようにばれたと連呼している。

いつの間にか彼女のおぶっているモノは人形に戻っていた。

さらに、彼女自身の顔も初めの顔に戻っていた。どうして早く気づかなかったのか。

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彼女の顔は初めから、人間のものではなかった。

人形にばかり気を取られ、俺達2人は彼女自身の異様さに気づかなかった。

そして、まんまと彼女の作った幻影に惑わされていた。

彼女は子を心配する綺麗な女性ではなく、目に穴の空いた化け物だ。

愛華は恐怖で逃げることも叫ぶこともできないでいる。

化け物はそんな愛華を嘲笑うと、今度は俺の眼前に迫り、俺を睨みつけた。

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shake

「モウスコシダッタノニ」

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奴は霧のように空気に溶け込み、消えた。

玄関には放心状態の俺達と、無表情な日本人形だけが残された。

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あれは何だったのか、何故奴が最初から人間の姿で現れなかったのか、そして何故家に入ろうとしたのか。

真実は、暗い穴の中に消えた。

疑問は山ほど残るが、これだけはわかる。

まだ何も終わっていない。

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ピノ様、ありがとうございます。
先ほど新作を投稿しました。よければ読んでやってください。

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