中編3
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売家

家を売る人には様々な人がいるという話です。

私は昔、建築業界に勤めていました。

まだ入りたての頃、私は居住中の一戸建てを売りたいという人を担当していました。

家を売ろうとした人の理由は離婚による売却で、嫁と子供が家を出て行って

一人で戸建てに住むのは広すぎるから売却したい、という割とよくある話でした。

私は現物を見に訪問しに行き、その家の中に入った瞬間、驚いたのはすごい異臭でした。

築まだ10年未満の物件なのに何故か家の中から異臭がしていて、

出迎えた40代くらいの男性がその異臭の原因だと気づ来ました。

格好から見ると明らかに浮浪者の臭いでした。

玄関からあがりリビングに入った瞬間見えたのが、あちこちに転がる酒の瓶と割れた破片。

さらには、あちこちの壁がボコボコに穴があいていて

よくみるとその中のいくつかに、黒っぽい、何か血がのようなものがこびりついていたりしてました。

その時、私は一人で、このまま私は殺されたりするのだろうかと本気で恐怖しました。

その後、色んな話を聞いたり必要書類を集めたりしながら

「これ、このままじゃ売れないだろうなぁ・・・でもリフォーム入れるだけの財力もなさそうだから

業者買取になるのかな」と思っていたところ

突然「あんたこれ見たらわかるだろ。俺、アル中なんだよ」と自分の人生を語りだしました。

最初は親から受けた虐待の話から、中学くらいに不良になり

その後チンピラみたいなことをやりながら、現在の仕事に就職して嫁と知り合った

ここまでは割りと普通でしたが・・

この後、何故か嫁が悪いと言い続け、嫁が浮気をした嫁が親にちゃんとしつけをされていなかった

と嫁の攻撃が始まった途端、目が尋常ではありませんでした。

なんというか、私ではなく私の肩の向こう側の一点をジーッと凝視しながら話すようでした。

これが何故か凄く怖い。

そして、嫁から反撃されたので、壁がこんなことになったとか。

最終的に、嫁が荷物をこっそりまとめているのに気づき、

このままじゃ俺が置いていかれると思ったので

わざと嫁が丸腰の風呂を狙って襲ったんだよ、と笑いながら言ってました。

「襲った?」と聞き返したら「うん。まあね。そういえば風呂場まだみてないよね。

ちょっと荒れてるから」とフラッと立ち上がって風呂場に連れて行ってくれた。

正直、私は嫁の遺体が転がっているかも!と焦ったけれど、遺体は転がっていませんでした。

ただ、風呂場のドアが折れ曲がって割れて黒いものがついていて

風呂場の中も一面黒い塊みたいなのが残っていて・・・これが異臭の本当の原因みたいでした。

「掃除面倒だからあれから風呂はいってないんだよね。

でさ、これ、このままじゃ売れないよねぇ・・?掃除会社とかいくらくらいすんの?」と

妙に冷静に聞いてきた男性はかなり怖わかったです。

余談ですが、この男性の嫁と子どもの行方は私はは知リません。

どこかに逃げ込んでそのまま何とか親子二人で頑張っているんだろうか?

そうであって欲しい、と思わざるを得ませんでした。

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