血と妹 参 「憎しみと憎まれ口」

中編6
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血と妹 参 「憎しみと憎まれ口」

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俺の妹、愛華は俺に対して敬語を使う。

兄は皆さんにこう仰っていますよね?でも私が敬語を使うのは兄に限ったことではありません。

私は基本的に誰にでも敬語を使います。

理由は、血の繋がりのない他人であるから。この世に私と同じ血が流れている人は1人もいないから。

それを踏まえても、兄のことは大好きです。私のことを本当の家族として大切にしてくれています。

それは確かです。

兄の叔母は10年前に連れ子のいた私の父と結婚しました。その連れ子が当時4歳だった私です。

不運にも私の両親は事故で亡くなり、私は母方の祖父母の家に預けられました。

それからすぐ兄の両親もそれぞれ病気で亡くなりました。

私と同じ境遇になった兄も、祖父母の家に預けられました。

それからは兄妹同然に育てられ、今に至ります。

このくらいで家族構成はご理解いただけたと思います。

話を現在に戻しましょう。

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「…すっかり遅くなってしまいましたね」

私はこの日、友人と買い物を楽しんでいました。

「何言ってるの、まだまだ遊ぶわよ!」

友人はクレープをかじりながらニコッと笑いました。

「…私、そろそろ帰らないと家族が心配しますから…」

時刻は午後7時。いつもなら夕食を食べている時間です。

「いいじゃない。まだ補導対象時間には早いわ。たまには心配かけちゃいなさいよ」

「…でも」

「あたしと遊ぶのが楽しくないの?ねぇ!」

彼女は気に入らないことがあるとよくヒステリックになります。

自分のペンを折ったり、学校からのプリントを破いたりする事もありました。

他人や他人の物に八つ当たりすることはありませんが、見ていて冷や冷やさせられることも多々あります。

「…いえ、そんなことは」

私がそう答えると彼女は急に上機嫌になりました。

そんなことはない。そう言って欲しかったのでしょう。自分の味方が欲しかったのでしょう。

「じゃあ行こ!」

私の手を引いて再び歩き出します。

「え?…あの…」

私は紫色から紺色に変わりゆく空の下を引きずられていきました。

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歩きながら友人が語る話は、あまり人と関わってこなかった私には刺激的でした。

お付き合いしていた男性を、3日で振ってしまった話。

冬休みには髪を染めて出歩いていた話。

中学生でありながら、もう男性経験があるという話。

友人曰わく、今時の中学生なら普通らしいですが、私には想像もできません。

「ねぇ、今度は愛華が話してよ」

「…私の話、ですか?」

私は困ってしまいました。私は友人が話してくれたような体験談を持ち合わせていないからです。

「何かないの?カレシの話とか」

「…全然です。…私、お付き合いとかもしたことないので」

「はぁ?!カレシいないの?今までずっと?」

「…はい」

彼女は、周りに聞こえるほどの大声で私に尋ねてきました。

周りの人達の私達を見る目が、私を嘲笑する目にさえ見えました。

「あれ?でも愛華前に男と歩いてなかった?」

彼女が見たその男性は、私の恋人などではありません。

「…たぶん、それ…兄です」

友人は案の定、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしました。

「うそぉ!あんな仲良しだったのに?」

「…はい」

私と兄はよく仲が良いと言われます。それは私達自身も自覚しています。

でも、兄妹は仲が良いものではないのでしょうか?

「でもあんま似てないよね?」

「…はい。血は繋がっていませんから」

普段はこんなこと他人には言わないのですが、夜の街を歩く開放感が私を饒舌にさせているようです。

「マジ?それであんなベタベタしてるって、あの人そんなヤバいの?」

「…え?えっと…」

「そんな仲良くするほどハンパないの?」

彼女の言っている意味がわかりません…

「…と、言いますと?」

「あの人、別にイケメンではないでしょ?運動部のエースとかだったりするの?」

兄は、特別容姿が優れているわけではないと思います。でも、他の人にそう言われると私の中にもこみ上げてくるものがあります。

「…いえ、美術部ですけど?」

私は自分を押さえ込みました。

「えぇ?じゃあ意外と裏で色々やってんの?」

「…いえ、そういうわけでも」

「あぁ!わかった!愛華可愛いから小遣いたくさんくれるんでしょ?」

「いい加減にしてください!」

私は気がつくと彼女に感情をぶつけていました。

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「じゃあ聞くけど、あの人の何がいいの?!」

彼女は怒り出しました。

「………」

「ほら言えないんじゃない!」

私が兄さんを好きな理由は、いまいちわかりませんでした。

私が言葉を見つけるのを、彼女は待ってくれませんでした。

「それに何?このブローチいっつも着けてるけどもしかしてこれも?」

「…兄さんからの贈り物です」

数ヶ月前のあの事件以来、外出するときはお守りの意味も込めて必ず着けています。

「ダサッ!センスわるーい!」

彼女はムキになったように笑い出しました。

「こういうのってキモいのよ、正直。重いっていうか。絶対、こういうことすんのがカッコいいとか思ってたのよ!マジ引くわー」

あからさまに私を怒らせようとしています。

自分が怒った次は悪口、これは度が過ぎると感じました。

少々呆れながらも聞いていると、不思議な感覚に襲われました。

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彼女の言うことが正論に聞こえてきたのです。

「それ見た感じけっこう値段するでしょ?そういうのあげて束縛してんのよ」

「………」

「顔も良くない、身長も高くない、スポーツもできない、遊びもだめ、そのくせ財布にもならない!最っ低の男じゃない!」

「………」

「あんたはあの男のお人形なのよ!」

「………」

「このままじゃあんた、空っぽのまま人生おわるよ?」

「………」

sound:18

shake

「~♪」

sound:18

shake

「~♪」

sound:18

shake

「~♪」

兄さんから電話がかかってきました。やはり心配しているのでしょう。

「…兄さん」

「出ないで!あいつのとこを離れなきゃだめ!行くとこないならあたしの家に泊めてあげるから!!」

「………それでも私は…」

「もう逃がさない…」

え?

そういえばこの人、今日ずっと一緒にいたけど…誰だっけ…?

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music:6

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俺は走っていた。

もうこんな時間だというのに愛華がまだ帰らない。

今日は友達と出かけると言っていたが、8時になっても帰らないなんて今まで無かった。

祖父は心配しすぎだと笑うが、どうも嫌な予感がしてならない。

電話にも出ないし…

もしあいつに何かあったら…

人の群を掻き分け、目を皿にして愛華を捜す。

どこだ?どこだ!

「さぁ行くよ、愛華!」

微かに聞こえた愛華の名前を、俺は聞き逃さなかった。

声のした方に体を向け、なまった足を酷使する。

「愛華!!」

music:2

彼女はいた。薄暗い路地に。

隣にいるのは例の友達か?

…いや、違う。

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俺の妹に腐敗した遺体とデートする趣味はない。

「おい、妹から離れろ」

「離れろ?離れなきゃいけないのはあんたよ。何が妹よ」

少女のゾンビの声には、深い怒りが込められていた。

「死ね!こいつに近づくな!邪魔だ!お前はクズだ!ゴミだ!地獄で永遠に苦しめ!」

ゾンビは俺にありとあらゆる罵声を浴びせた。

「俺は何を言われようとかまわない。でも愛華は返してもらう」

一歩一歩2人に近づいていく。

「やめろ!来るな!それ以上近づくと殺す!」

俺はかまわず進む。

「やめろ…やめろ!」

あと少しで愛華に手が届く。

あと3メートル

2メートル

1メートル

「止めてください兄さん!」

「え?」

今大声をあげたのは愛華か?

「…もうやめてください。この人は、私のためにここまでしてくれているんです」

「愛華、何を?」

「…ごめんなさい、兄さん。でも、今夜は少し、考えさせてください」

「何を言ってるんだ!」

「…今夜は彼女の家に泊めてもらいます」

「おい…そいつが何だかわかって言ってるのか?」

「…ごめんなさい」

愛華は俺が贈った狐のブローチをセーターから外し、路面にそっと置いた。

「愛華!!」

愛華とソレは路地を抜け、人混みの中に溶けていった。

愛華を奪われた俺は、ただその場に崩れ落ちるしかなかった。

「愛華…愛華ぁ!!!」

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裂久夜様、ありがとうございます。
引っ張っておいて申し訳ありませんが、学業を優先させていただきたいので少々間が空くかと思います。
ご容赦ください。

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