それはまるで、ほたるのように

中編3
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それはまるで、ほたるのように

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ひとつ、

ふたつ、

淡く照らし始めた、仄かな灯り。

何処か儚く暖かい『色』は、それを厳かに照らしだしていた。

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さびれた田舎町。すれ違う人もまばらなこの街に、私は戻ってきた。

都会に夢を追いかけてはみたものの、芽が生えることもなく、朽ちて消えた。

結局、夢は夢と割り切るほかなかった。

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暫くぶりの地元は、どこが変わるという事もなく、私を受け入れてくれた。

空気の匂いも、遠くで聞こえる鴿の声も、緑しか見えないこの景色でさえ。

変化がない。そう、これが私の、ココを出た理由

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懐かしいなぁと感慨にふけっている時だった。

その景色の中、ところどころに見える薄桃色に目が奪われたのは。

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自然とそちらに足がむいていた。川沿いの道、アスファルトの上をコツコツと音を立てるハイヒール。

この街を出るときは持ってすらいなかったのに、都会を離れた今、この街に不似合いなものを持って帰っている。

(皮肉だねぇ。)

こぼした言葉は誰が聞くでもなく、風と戯れ、霧散した。

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水の音が強くなるに連れ、足元は舗装のされていない土道に変わった。少しぬかるんでいるのか、歩き辛い。油断したら、転んでしまうだろう。

それなのに、歩を進める足は止まることはなかった。

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空が次第に青みがかる。

山の裾がオレンジへと変化するのを横目に、眼前の光景に息を飲んだ。

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水音激しく落ちる湖面を背景に、こちらも変わらぬままの少々手狭な広場があった。ここは幼い頃、友人たちと走り回って、夢を語り合った思い出の場所。

やはりここにも人の痕跡は見当たらなかった。

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そばには匂い立つが如く咲き誇る桜の大樹。

風が吹く度にハラリ、ヒラリと舞う花弁は木が流す涙のようだった。

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(再会の涙、てか?)

柄にもない。

浮かんだ言葉を鼻で笑いながら、ポケットの中の煙草を手繰りよせ、そのうちの一本に火を灯す。

なぜか吸う気にもなれず、ただただ上る煙を眺めれば、目の前の桜さえ青に染まって見えた。

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ふわりと風が動いた。

自分の姿さえ暗い色に変わっていたというのに、如何だろう。

ひとつ、

ふたつ、

ポツポツと空(くう)に明かりが灯る。

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人っ子ひとりいないこの場所で。

明かりを灯すものなど何もないのに。

数えているわけではないけれど優に20以上の光源がふわりふわりと空を舞う。

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あれは橙、これは水色、あっちにあるのは紫に見える。個々によって色合いが違い目を楽しませてくれた。

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その一つに指先で触れると、手元は一段と明るく、温かみさえ感じた。そして、風と滝の水しぶきの音に混ざって聞こえる、老若男女様々な、小さな笑い声。

とても優しく、暖かで…少しの切なさをもたらした。

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ジジッ

shake

「あっづ!」

時間を忘れて眺めていたからどれくらい経ったか分からないが、手慰みに弄んでいた煙草が熱とともに地面へと落ちた。

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同時に辺りを彷徨っていた仄かな灯りもまた、蠟燭の火を吹き消したように消え去り、残ったのは地を這うような水の音のみだった。

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私はあの夜起きたことが何だったのか…今でもわからない。

ただ、思うのだ。

久方ぶりに戻った私に、

おかえり、と言ってくれたのではないかと。

ナニが、って?

さあ?何だろうね。

あなたは何だと思う?

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Makoto1000さん、初めまして。コメントありがとうございます。
これからも精進して参ります(✿︎´ ꒳ ` )♡︎

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