中編4
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鈴田さん

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これは私が小学生の時に体験した出来事です。

当時、私は小さなアパートで母と二人暮らしをしていました。

築30年くらい経ったアパートで歩くだけでもミシミシと音が鳴り、壁や襖にも年期を感じる程でした。

そんな私のお隣には鈴田さんという、一人暮らしのお婆さんが居ました。

いつも会うと笑顔で話しかけてくれて、時々お菓子やアイスをくれて、優しいお婆さんでした。

鈴田さんは数年前に旦那さんを亡くされていて、一人いる息子さんは旦那さんと合わず反発し、出ていったっきりでした。

ある日のこと、鈴田さんは重い病気にかかり、そのまま亡くなってしまいました。

葬儀は親族だけで行われ、出ていったままの息子さんが、鈴田さんの家の物を片付けにやって来ました。

学校から帰って来ると、ちょうど片付けが終わったようで、帰ろうとする息子さんに会いました。

「こんにちは!」と挨拶すると、優しく微笑みながら挨拶を返してくれました。

「お嬢ちゃん、いつも母さんと仲良くしてくれて、ありがとうな。母さんが残した手紙にお嬢ちゃんのことが書いてあったぞ。」と、優しくも少し寂しげな顔で話してくれました。

そして息子さんは、こんなことも話してくれました。

「実は…、俺には妹がいたんだ。ちょうど、お嬢ちゃんくらいの歳だった。 ある時、事故で亡くなったんだ。それも親父の不慮の事故のせいでな…。だから、母さんはお嬢ちゃんが可愛くて、妹の姿をお嬢ちゃんに重ね合わせてたんだ。」

確かに鈴田さんは、時おり手作りの洋服をくれたり、運動会にお弁当を持って見に来てくれることがありました。

私も母も不思議に思うことがあったのですが、息子さんの話を聞いて、ようやく理解しました。

「妹が亡くなった後、母さんは毎日のように泣き、親父は親族から酷く責められた。俺は妹を死なせた親父が許せなくて、親父に酷いことを言って喧嘩した。それで家を飛び出したんだ。その後、親父は責任を感じて山奥で自殺した。 首を吊った姿で発見されたそうだ。」

私は息子さんの話が、あまりにも衝撃的で涙してしまいました。

そんな私に息子さんは「大丈夫さ、お嬢ちゃん。きっと、お空の上で楽しく三人で暮らしてるはずさ。」と、頭を撫でながら優しく言ってくれました。

息子さんの優しさに感激していると、いきなり息子さんが声をあらげて「何せ、親父を殺して楽にしてやったのは俺だからな!! 」と言いました。

ビックリする間もなく、「親父を山奥近くに呼び出し、背後から縄で首を絞めて殺した。 そして、あたかも自分で自殺したかのように見せかけて、そこら辺の木に吊るしたってわけさ。妹を殺し、母さんを悲しませて生きてるような親父が憎かったからな!!!!」と言い、息子さんの優しい表情が、みるみる鬼のような形相になっていくのが分かりました。

「まあ、これで俺も楽になったもんさ。母さんが死んで、母さんの貯金は俺一人のもんになるからな。年寄りの面倒を見なくて済むし、遊び放題だ!!」

私は、さっきまで優しかった息子さんが怖くなりました。もう言葉も出ず、恐怖のあまり涙がポロポロこぼれるばかりでした。

そして、私は息子さんの背後にいる三人の家族に気づきました。

その三人の家族は恨めしそうに息子さんの方を睨んでいました。

怨みと憎しみが入り交じったような睨み方でした。

そして息子さんは、「さーて、女遊びに出かけますかな。 お嬢ちゃんも大人になったら、お兄さんの所に来ると良いよ。 たっぷり可愛がってあげるからね。 じゃあね~!」と言い、去っていきました。

私は恐怖と気持ち悪さで動くことが出来ず、仕事から帰宅した母に何とか支えられながら、家の中に入りました。

そして次の日、私は高熱を出して学校を休む事になりました。

息子さんは、あれから去っていった後、鈴田さんが残した貯金で女遊びをし、飲み回ったあげく、飲酒運転で事故を起こして亡くなったそうです。

即死だった遺体は見るにも無惨で、とても見れない状態だったそうです。

息子さんが亡くなった数日後に聞いた話ですが、遺体の首などには誰かに絞められたような跡があり、それも手形のような跡がハッキリと痣になって、残っていたそうです。

その話を聞いた時、私はあの家族じゃないかと思いました。

あの家族のお母さんは、亡くなった鈴田さんにソックリだったからです。

それに一緒にいた娘さんが私と同い年くらいだったのです…。

そして、お父さんが凄く怒ったような顔で息子さんを恐ろしく睨み付けていたからです。

三人の家族は亡くなった鈴田さんと旦那さん、娘さんだったのです。

それから、しばらくして私と母は隣り町にある祖父母の家に引っ越すことになりました。

鈴田さんがいた部屋は誰も入居者が居ないまま、空き家になっていました。

アパートも取り壊されることが決まり、新たに建ったマンションの一角となりました。

今ごろ、鈴田さんの息子さんは、お空の上で楽しく暮らしているのでしょうか。

それとも・・・・、酷い目にあってるんでしょうか・・・。

私が人間の怖さを知った、忘れられない出来事でした。

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