案山子の村~『案山子ーゼロ』

中編6
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案山子の村~『案山子ーゼロ』

鏡水花様のリクエストにお応えして、以前書いた、「案山子」の前のお話を書いてみました。

結末がよくわからない結末になっていますので、この後に前作を読んでいただければ、繋がると思います。

長くなると思いますので、読むのが面倒!と思われる方は、ここでご断念をw

前作「案山子」http://kowabana.jp/stories/22028

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「おめえ、案山子の名前の由来、知っとるけ?」

その男は、土臭いあばた面を、白く線の細い優男に向けてニヤつきながら問うた。

「いえ、知りません。」

 フンと団子鼻を鳴らすと、どこぞの大学を出たか知らねえがと嫌味に前置きをした。

「案山子ってのはなあ、見てのとおり、竹やら藁で作った鳥避けの人形だがなあ、昔は、人間の髪の毛を焼いたりしたものを使ったり、魚の頭やら使って、悪臭で獣を追い払ってたことから、『かがし』が訛ってカカシになったんだわ。」

その男は、どこからか仕入れてきた知識をひけらかしながら、優男の隣に居る、村で一番美人の娘の反応をチラチラと伺っていた。

 男は村で一番の豪農で庄屋の息子で、鼻持ちなら無い男であった。親の威を借りて、威張り散らしていて、女はその男が好きではなかった。男の名は寛治。女は、山田さんところの娘さんは、べっぴんさんで良い娘と評判だった。幼い頃より、寛治には、よく意地悪をされて快く思っていなかった。好きな子には意地悪をするという、あれである。

 優男は、つい最近、山田家に農業従事を目指し研修に来ている若者である。寛治は自分の好意を寄せる女の家に、研修とはいえ、見知らぬ若者が都会から突然来てしかも、女と同じ屋根の下に一時期でも暮らしているということが気に食わなかった。

 美津子は俺の嫁になる女だ。それを、横から横取りしようったってそうは行かない。寛治は嫉妬に狂っていた。傲慢な男は往々として、自分が嫌われていることには気付かない。根拠の無い自信から、勝手に美津子を自分と添い遂げるものと決めていたのだ。

 しかし、若い男女が一つ屋根の下に、ほんの一時でも暮らすということは、必然として恋愛感情は生まれてくるものであって、お互い会った当初から魅かれあっていた二人の距離は徐々に縮まっていった。当然、寛治は快く思うはずもなく、あらゆる手段で嫌がらせをしてきた。それは、美津子に限らず、山田家にも及んだ。

 水路を使わせないように、せき止めたり農作物を害獣から守っていた柵を密かに壊したり。証拠は無かったが、青年が農業研修に来てからそういったことが始まったので、寛治がやっているに違いないということは、村の皆が知っていた。

 美津子は、意を決して、寛治に抗議した。

「かんちゃん、もうこんなことはやめて。」

「何のことだかなあ?俺ぁ、なあんもしとらんで?」

そうしらばっくれられたら、美津子も証拠が無いので言い様が無かった。

「なあ、美津子?知っとるか?」

寛治は、息がかかるほど、美津子に顔を近づけてきた。

慌てて美津子は、顔を背けて

「何が?」

と答えた。

すると、寛治は、背けた美津子の顔を執拗に覗きこんで言った。

「大昔な、ここの村に、平家の落人が流れついてきよったんよ。村の人間は、人が良かったけん、受け入れて村人同然に、その落人と一緒に暮らしておった。」

そこから、寛治はニヤニヤと笑い出した。

「ところがな、人間っちゅうのは、自分がかわいいもんよ。その落人には、懸賞金がかけられとって、しかも匿った人間には咎があるっておふれが来た。村人は困ってしもうてな。わが身かわいさに、その落人を竹の槍で寄ってたかって突き殺した。」

美津子の顔が青ざめる。

「この村には、竹がいっぱいあるやろ?ほんだもんで、竹にその男をしばりつけて、皆で突き殺した。まるで、キリストさんみたいにな。ほんで、火をかけた。」

寛治の残酷な話に、美津子がぎゅっと目を瞑る。

「それを率先して指揮したのが、俺のご先祖様ちゅうわけや。」

寛治はまるで、自分の祖先を英雄のように語る。

「何で、この村には案山子が無いか、これでわかったやろ?村人は、あの落人を思い出すから。焼かれた落人を思い出すんよ。あの落人がさらされた土地には、二度と獣や鳥が寄り付かないっちゅう話や。それが、あの神社なんや。」

村には、そう言えば、まったく獣や鳥が寄り付かない神社があった。

幼い頃に、その神社の周りには悪臭が今も立ち込めていて、美津子はあまり近寄らないようにと、親からよく注意されたものだ。

憎まれっ子世にはばかるとはこのことか。

昔から、カリスマ性のある人間という者は残酷で、人を従わせる術を知っている。

そして、この目の前の傲慢な男も、それを信じて止まないのだと美津子は恐れた。

「よそ者は、災いをもたらすっちゅうこっちゃ。お前も、せいぜい気をつけるんやな。」

そう寛治は捨て台詞を残して去って行った。

その日から美津子は落ち込んで、塞ぎこんでしまった。その様子を青年は気遣った。

そして、美津子から理由を聞いて、青年は怒りに震え、寛治に抗議すると息巻いた。

美津子は慌てて、やめてと懇願した。

「あなたに、何かあったら、私・・・。」

そう青年の胸に縋ると、二人は自然と唇を重ねていた。

その様子を、寛治は見ていた。寛治は、嫉妬に狂った。しかし、寛治は変に、プライドの高い男であった。

その感情を直接、美津子にぶつけることはできなかった。

「今に見ていろ、美津子。」

愛情が憎しみに変わった瞬間である。

山田家の裏手は竹林になっており、そのすぐ側には、山田家の薪置き場があり、風呂場があった。

この村のほとんどの民家が薪をくべて風呂を沸かしていた。

寛治はその夜、夜陰に紛れて、山田家の裏手の竹林でタバコを吹かした。

そして、乾燥してよく燃えそうな落ち葉の上に、それを落とした。

その日は空気が乾燥して、あっという間に炎は薪に燃え移った。

真夜中の2時である。しばらくは、誰も気付かないだろう。

寛治が立ち去って、数時間後、山田家は全焼した。家族全員、そして、農業研修生の青年も、焼死体で発見された。

村人は、薄々、寛治の仕業ではないかとは思ったが、証拠もなく、寛治が逮捕されることもなかった。火事は、タバコの不始末として片付けられた。

そして、1年後、寛治の変死体が、神社で見つかった。

普段誰も、近寄らないはずの神社の竹林で、寛治は、斜めに切った竹に覆いかぶさり、串刺しになって死んでいた。

寛治に恨みを持つ者は、たくさんおり、殺人と事故の両方から捜査されたが、結局犯人は見つからなかった。

村人は、山田さんの祟りと恐れた。その村も、過疎化と、若い者は病死で倒れ、あっという間に人が住まなくなってしまった。

廃村となったその後、時折、山田家のあたりに、ボンヤリといくつかの光が漂っているという。

そして、時々山道を小さな軽トラックがこの村を訪れる。

年若い男は知らない。

ここが昔、一本の案山子も立ってはいなかったということを。

「うわー。凄いな。案山子だらけだな、この村は。」

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【怖話】http://kowabana.jp/stories/25968  よもつひらさか著

※尚、このお話は無断転載サイト「読んではいけないナンタラ」とは一切関係ありません。

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