中編3
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地獄に仏はいない

今、僕は生まれて初めて、人魂というものをみている。

 部活帰りの夕暮れ。オレンジの物体が僕の頭のすぐ上をふわふわと飛んでいるのだ。僕は、怖いというより、不思議な気持ちだった。だいたい、これが人魂と認識するまで、ゆうに5分はかかったのだ。僕はその行く末を、呆然と立ちすくんで見守っていた。

 するとどこからともなく、網を持った、小学低学年くらいの男の子が走ってきて網を振り回している。僕が見るところ、網は空を切ってはいるが、虫と思しき物は見当たらない。ただ一つ、考えられることは、この男の子が追っているのは、虫ではなく、あの人魂だということ。

僕は恐る恐る、その男の子に聞いたのだ。

「何を追いかけているんだい?」

男の子は、どことなく、現在の子供にしては古臭い服を着ている。全体的に、昭和臭が漂っている。

「あのね、人魂。あれを獲って帰らないと、鬼の親分に怒られちゃうの。」

全く意味不明だった。

「君はどこから来たの?なんで人魂を獲らないと怒られちゃうの?」

男の子はしばらく考えて、僕にこう言った。

「うーん、わかんない。人魂を獲って来いって言われて、獲ってこなかったらぶたれちゃうの。あっちの川原からきたんだ、僕。」

 川原?このへんに川なんてあっただろうか?

僕は少し、薄気味が悪くなった。

もしかして、この子は人ならざるものなのかもしれない。

「あ、逃げちゃう。」

男の子は、ふわふわと飛ぶ、オレンジ色の物体を追いかけて、行ってしまった。

 家に帰って、あの子は誰なんだろう、とずっと考えていた。

そして、僕は次の日も部活帰りにその場所を通った。気付かなかったけど、この場所って墓地に近いんだな。木々の間から、ぽつぽつと灰色の四角い石が見え隠れしている。

その男の子はベンチに座っていた。

全身傷だらけで。しかも頭は割れて、少し脳が露出している。

僕は心臓が飛び出しそうなほど驚いた。その男の子が、僕に気付き、そんな様子でも声をかけてきたのだ。

「こんばんは、昨日のお兄ちゃん。」

「どうしたの?その傷。大丈夫?」

僕が言うと、男の子は俯いた。

「昨日ね、ちゃんと人魂、捕まえてね、鬼の親分に渡したの。でもぶたれちゃった。」

脳が露出していたら重態だが、この子はしゃべれるということはやはり人ならざるものらしい。

「なんで?ちゃんと獲って渡したんでしょ?」

「うん。でも、あれは人魂じゃなかったの。猫魂だったの。」

人のじゃなかったんだ。

「君は何者なの?」

男の子は痛々しい腫れあがった顔で僕を見上げた。

「僕は餓鬼。僕ね、前世で子供を虐待して殺しちゃったの。だから餓鬼にされちゃった。鬼の親分は僕が殺した子供だよ。人魂を100個獲るまでは許してもらえないの。」

地獄の試練ってやつか。

この子はこれから、何百回もこうして打たれるのだろう。

それも前世の業だから仕方ない。

「そっか。がんばってね。」

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鏡水花様
コメント、怖い、ありがとうございます。
お久しぶりでございます。
ようやくこちらに来るお時間ができたのですね。お疲れ様です。
人魂ってなんなんでしょうね?その時は、怖い、というより興味のほうが強かったです。
え?なにこれなにこれ!って。
夜ではなくて、夕方だったからかもしれません。
一説によると、人魂は土葬の死体からリンが発生し、自然発火した物と言われてはいますけど、確かに近くにはお墓もありましたが、この現在、日本で果たして、まだ土葬をしているところがあるでしょうか?一般的にはもう火葬ですよね・・・。

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ピノ様
いいのかなあw人魂。
夕方見ると、ぜんぜん怖くなくて、でも、あれが何なのか、説明して欲しいし、友達に言ってもまったく信用してくれないし、ましてや親になど、言えるはずもなく。ずっと消化不良です。
思えば、あの頃、一度こっくりさんやってて途中でちょっとパニックになって過呼吸になって倒れたことがあったんです。しばらくそれがトラウマになってて、疲れていた時でもありました。
錯覚なのかもしれませんが、異様に興奮して、誰かに言いたくて仕方なかったんですよね。

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