短編2
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田の上の家

これは、私がまだ小学校へあがる前の話です。

当時、私は、両親と6歳年上の兄と4人で、小さな平屋建ての借家に住んでいました。

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ある日、夕飯を食べ終えた私たち家族は、母の剥いたりんごを齧りながら、テレビを観て寛いでいました。

私は、皆がダイニングテーブルの席に着いている中、ひとりふざけてテーブルの下に潜ったり出たりを繰り返していました。

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その時です。ふと、テーブルの下から、廊下に目を向けると、白い着物を着た白髪の老婆が、右から左へ、すうっと横切っていくのが見えました。

老婆の向かった方向には、玄関しかありません。玄関扉の開く音はしませんでしたが、玄関を見ても、おそらく老婆はいないでしょう。私には、確かめる勇気すらありませんでした。

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家族はテレビに夢中で、私以外誰も気付かなかったようです。私は、口にする事さえ怖く、老婆の事を誰にも話しませんでした。

その後、私が小学校へ入学すると同時に、私たち家族は、父の転勤の為、県外へ引越しをしました。新しい生活の中で、あの時見た老婆の記憶は、次第に薄れて行きました。

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あれから20年余りが経ちました。先日、実家に顔を出し、母と昔話に花を咲かせていたところ、こんな話を聞きました。

「そういえば、あなたがまだ幼稚園に行ってた頃に住んでいた家があったでしょう?あの辺一帯は、元々は田んぼしかなかったところを埋め立てて、何件か家を建てた場所なのよね。あなたが生まれてから住み始めて、最初の頃は、毎晩冷蔵庫の下あたりからカエルの鳴き声がしてね。多分、生き埋めになったカエルが鳴いていたのね。あまりにうるさいんで、お祓いしてもらったら、声しなくなったけど。」

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その話を聞いて、私は久し振りに、あの日見た老婆の事を思い出しました。

埋められてしまったカエルの鳴き声。

廊下を歩く、恐らくこの世のものではない老婆。

あの家の下に埋められていたのは、果たしてカエルだけだったのでしょうか?

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私達の住んでいたあの小さな家は、今は取り壊され、その場所は駐車場になっているそうです。

Concrete
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