長編8
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灯り…

まだ、私が中学生の頃のお話です。

友達が、ゴールデンウィークに2泊3日で旅行に行こうと、私を誘ってくれました。

その子は、街の子で、入学と同時に私の住む村に越してきた子で、以来ずっと仲良しの子です。

その子のご両親も、私の事を可愛がってくれていて、

『もう1人、娘がいたなら、

にゃにゃみみたいな子が良かったなぁ。』と

言ってくれる、優しいご両親でした。

旅行を決めた時に、

『にゃにゃみも誘おうよ。』と

言ってくれたのは、彼女のお父さんでした。

私の家は、両親が店をやっていましたので、ゴールデンウィークにお休みはなく、

私は暇を持て余すだけのものでしたので、

誘われた事を話すと、

『ご迷惑にならない様に、あちらさんの言う事を守って行動しなさいね。』と

許可をもらって、出発の日を楽しみにしていました。

旅行先は、違う県の山奥にあるキャンプ場でした。

近くに、とても綺麗な川が流れており、イワナや鮎が釣れると聞き、

潜ったら獲れるかな?罠を仕掛けようか?

と、ワクワクしていました。

同じ様な環境で、日々過ごしているのに、

友達との旅行、という事で、楽しさは膨らみ、

たとえ、やってる事が同じであっても、

所変われば勝手も違い、それがまた、楽しくて、

初日はあっという間に、夕方になりました。

夕方になり、パパさん(友達のお父さんをそう呼んでいました)が、

『お前ら、何もないとこから、火を起こせるか?』と

言いました。

友達は、

『中一の時、研修旅行でやったね?私、出来なかったよ。』と

言うと、パパさんが

『にゃにゃみは、出来る?』と

聞いてきました。

私は、出来るよ?と答えます。

子供の頃から、川で捕った魚を、おやつ代わりに、自分達で火を起こして焼いて食べていた私には、何て事ないものでした。遊びの中で、上の子に、火起こしの方法を教えて貰うのです。

私は、適当な、火起こしの道具になりそうな物を探し、

火を起こして、焚き火をあげました。

友達は、

『にゃにゃみ、すごいね!かっこいいよ。』と

手を叩いて喜び、

その後、自分達の捕った魚を串に刺したり、

ママさん(友達のお母さん)とカレーを作ったりして、

気づくと、辺りはすっかり暗くなっていました。

友達は、私が、

火を起こせる事、野菜の皮をクルクル剥ける事、魚を捕って処理ができる事、山菜がどこにあるのかわかる事…

私にとっては何て事ない事を、ずっとすごいね!すごいね!と、寝るまで言い続けていました。

興奮している友達と、キャンプ場に設置されていた温泉に入り、1日の疲れを流して、脱衣場から出ようとした時、

汚れのついた、ヒールのある白いサンダルが、片方だけ、入り口の隅の方に、横倒しに転がっていました。

『片方?何これ、変なの?』と

私が言うと、友達が、

『キャンプ場にヒールとか、遊ばないじゃんね。

そう思って、捨てて行ったんじゃない?』

と言いました。

私は、なるほどね、と思い、

友達とテントに戻りました。

しばらくは、焚き火のそばで、話をしていましたが、

さすがに、まだ山の中は夜は寒くて、

『湯冷めしてしまうよ。もう、横になりなさい。』と

ママさんが言うので、私達は、先に寝床につく事にしました。

1泊目は、テントで寝る事になっていて、

私と友達は、話をしながら、いつの間にか、眠りにつきました。

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ふと、何の拍子か、目が覚めました。

テントの中では、友達家族の寝息が聞こえます。

何だろう、何で目が覚めたんだか…。

そう思った時に、テントのすぐ脇、ちょうど私達の寝ている頭側を、

誰かが歩く音がしました。

他にも、キャンプ場にテントを張っている人達がいましたので、

『あー、きっと、おトイレに行ってるんだ。

その足音で目が覚めたんだなぁ。』と思い、

何気なく、足音のする方に目をやりました。

小さな灯りが、フワッと見え、それはゆっくり、ゆっくり、私達の頭側を歩いているのだと分かりました。

とても、ゆっくり、ゆっくり…。

何?この人、しんどいのかな?

えらく、ゆっくり歩くじゃない。

それより、あの小さい灯りじゃ、前、見えないんじゃないの?

小さな灯り…、それは、何といったらいいでしょうか。

懐中電灯などの光には程遠く、

キーホルダーなどになっている、簡易の小さなライトとも違う…。

光量のある、まっすぐした光ではない、と言ったら伝わるでしょうか?

ホワホワ、ユラユラ、

その人物の歩くのに合わせ、光が揺らめき、

空気の揺れに揺らめき、不安定な灯りでした。

燃えている、小さな炎を、持って歩いてる…?

燻りかけた、木の先にある炎…

そんな感じ。

何?この人。

酔っ払い?

頭を起こして、その人の方を向こうとしたその時…、

フワワワァ〜…、と、

その灯りが、こちらに向いたのです。

明らかに、私が起き上がる音に、反応した様子でした。

えっ?

何なの、この人。

こっち、見てる…。

泥棒?

一瞬、1番、出口に近いパパさんを起こさなくちゃとも思いましたが、

とっさに動いて、こちらに襲いかかってきたらどうしようと思い、

ジッとして、動かない事にしました。

寝返りを打ったように、思わせたかったのです。

すると、外の頼りない灯りが、ホワホワ〜ッ…と、

テントギリギリまで近づいてきました。

息をするのもいけない様な気持ちになり、

でも、今、このテント内で起きてるのは私だけだと思って、

私は、首に巻いたままにしていたタオルを、そっと取り、

手にグルグル巻きつけました。

もし、何か仕掛けてきたら、戦わなければ!と、思ったのです。

その灯りは、フワワ、フワワ〜…と、

左右に動き、

中の様子を見ようとしているのがわかりました。

どうしよう、どうしよう、

起きてるって、バレたらどうしよう。

今となれば、どうしたって、あちらがテントの中を照らす事は出来ないのですが、

その時は、バレたらどうしよう、かかって来たらパンチしなくちゃ!

としか考えることができませんでした。

ところが、灯りはフワワ〜…とまた、テントから離れ、

私達に背中を向ける様に、去って行きました。

小さい灯りながらも、

テントの中の私には、それが

肩を落として歩く、

間違いなく、人物である、

とはっきり分かる影を作り出していました。

その影が見えなくなり、

目を覚ました時と同じ、暗闇が戻った時、

やっとの思いで吐き出す様な息をした瞬間、

ギュッ!

と、手を握られました。

ハッ!と、手を見ると、

友達でした。

彼女は、目だけがパッチリと開いている状態で、

唇はキツく結んでいました。

ゆっくり、私の方に目をやると、

『…今の、

何?』

と聞いてきました。

見開かれた目からは、涙が出ているのがわかり、

声は、震えていました。

私はとっさに、

シーッ!と、自分の口に指を当て、

声を出さない様にと、友達の口を塞ぎました。

彼女が、わかったと、ウンウン、うなづきましたので、

私は手を離し、横になりました。

泣いてる彼女の背中をさすってやり、

それでも声を出してはいけない気がして、

彼女の手の平に、指で

『あっちに行ったから、へいきだよ。』と

書きました。

彼女は、

『何?あれは。』と

書いてきましたが、

『わからないけど、もう来ないよ。』と

返すと、また背中をさすってやりました。

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気がつくと、辺りは明るく、

お手洗いにも行きたかったので、起きる事にしました。

私が起きるのと同時に、友達も出てきて、

一緒に手をつないでお手洗いに行きました。

ふと、山間を見ると、

たくさんの男の人が、何やら書いてある法被を着て、歩いているのが見えました。

消防団の人だな、とすぐに分かりました。

友達が

『朝からたくさんの人で、何をしてるの?』と聞くので、

『多分…、山でなんかあったんじゃないかな。』と答えました。

友達は、

『遭難…とか?』と、また聞いてきましたが、

私は

『わかんないけど…、そうかも。』と答えて、

テントに戻ろうと言い、友達の手を引いて歩きました。

2日目の宿泊先は違うところだったので、

朝からテントを片付け、焚き火の片付けをしたり、荷物を運んだりしていると、パパさんが管理事務所から戻って来て、

『なんだか、人を探してるみたいだよ。

昨日、山に上がった、ここのロッジに泊まってた人が、戻ってないんだって。

荷物も置きっ放しで、遊歩道に行くのに道聞いて、その後、帰ってきてないらしいよ。』と言いました。

友達は、真っ青な顔になり、私を見てきましたが、

すぐにパパさんの方を見て、

『早く行こう、次に行こうよ!』と言い、

私の手を引いて、車に乗り込みました。

車に乗り込み、友達は、

『もう、ダメだよね?』と聞いてきました。

私は、

うなづくしか、出来ませんでした。

様子のおかしい私たちを見て、

パパさんとママさんに、

『何か見たり、知っているのか?』と

聞かれましたが、

人がいなくなった事に怖がってるんだよ、と言うと納得してくれて、

そのキャンプ場を後にしました。

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ゴールデンウィークが終わり、

3日ほど経った日、

友達から、新聞の切り抜きを渡されました…。

読んでみると、私が連れて行ってもらったキャンプ場のある山の中で、行方不明だった女性が発見されたと言うものでした。

女性は、遊歩道に、朝、散歩に行くと言い、管理事務所でマップを貰って、出て行ったまま行方知れずになっていて、

遊歩道と言えども、軽装で行かない様にと忠告したのだそうですが、発見された女性は、

薄手のカーディガン、ジーンズ…

足元は、ヒールのサンダルを履いていたそうです…。

私はすぐに、

浴場の入り口にあった、あの白いヒールのサンダルを思い出しました。

色まで書いてはなかったので、分からないですが…、

あの白いヒールのサンダルが

やけに、鮮明に…、

汚れや、傷までも、頭に浮かんできました。

そのサンダルが、亡くなった女性のものなら、

なぜ、浴場の入り口にあったのか、と言う疑問も浮かんできます。

ただの偶然かもしれません…。

ただ、あの夜、私の見たあの灯りは、

友達も見ていたあの灯りは…、

あの夜、間違いなく私達を、外側から照らそうとしていた事は間違いありません…。

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