中編5
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集める女の話

「可愛い!そのネイルどこでしたの?」

麗らかな春の日差しも過ぎ去り、灼熱の太陽が照りつけるまでの爽やかな季節。

大学生の美麗は、昼休みを利用して友人達と近くのカフェに集まっていた。

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「あっ、これ?最近表参道に出来た新しいネイルサロンでやってもらったんだ。」

「そうなんだ、いいなぁ、何か見かけないデザインだよね?斬新っていうかオシャレ」

「それにしても美麗、ネイルチェンジしてからまだ2週間くらいじゃないー?」

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.....気持ちいい。

女性特有の感情なのかもしれない。

最先端のファッション、ブランド品を見に纏い頭の先から爪の先まで抜かりのない私。

友人達から向けられる羨望の眼差しを受け、私は有頂天になっていた。

今も、昔も...

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店長.....店長!!

お客様からお電話です。...美麗店長?

「ごめんなさい、ちょっと考え事してたわ...何方からのお電話なの?」

大学を卒業した私は、就職をせず専門学校へ進学する事を決めた。ネイル業界に飛び込んでからは毎日が目まぐるしく過ぎて行き、今では店長と呼ばれる肩書きを手にしている。

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「またあのお客様なんです。アシスタントの私達では話にならないって...すみません」

「あぁ...わかったわ。ありがとうね、もう仕事に戻っていいわ。後は任せてちょうだい」

あぁ、またこいつか。

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「もしもーし?あっ、美麗〜?もー、中々変わってくれないんだもんあのスタッフ。お客様を待たせて、教育がなってないんじゃない?」

「ごめんなさいね...少し立て込んでいて手が離せなかったの。それで、今日は予約のお電話?」

「そうなのよぉ、この前してもらったネイル、ちょっと浮きが気になって。今お店の近くにいるから、お願いね!」

強引に言って、こいつは電話を切った。

いつもそう。もうこいつにはウンザリしている。

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やりとりを終えて程なく5分が経とうとした頃、店の自動ドアをこじ開けるようにして女が飛び込んできた。

「美麗〜、来たわよぉ。」

語尾を妙に伸ばした鼻につく猫なで声の女は、受付のスタッフに藤沢アリスが来たと何度も繰り返している。

頭がいかれてるんだろうか、そんな大声で叫ばなくても十分聞こえる距離だというのに。

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.........もうこんな時間か。

静まり返った店内を掃除しながら、ふと時計に目をやる。針は忙しなく動いており、ちょうど23時を過ぎたあたりだった。

スタッフからはクレーマーの刻印を押され、毎日のように飛び込み電話をかけてくるアリス。大学時代からの付き合いで、顧客を増やし安定させる事が第一のこの仕事、無下に断れない自分に嫌気がさしつつ最終電車を目指して駅への道を急ぐ。

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「.......えさん、おねえさん。ちょっとお待ちよ」

近道をしようと、細い路地に差し掛かったところ、占いの店だろうか。小さな机と椅子に腰掛けた女が俯きながら声を掛けてきた。

「随分と苛立っているんだね。少し話を聞いておいきなさいよ...」

いつもだったら、駅前のキャッチもナンパも、ましてやこんな胡散臭い相手に立ち止まる私ではない。でも、何故かこの日だけは吸い寄せられるようにして女の前に腰を落ち着けてしまった。

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「人間関係でお悩みの様子。さて、それは切っても切れない相手なんだろう」

「えぇ、まぁ.....」

「本当は消し去ってやりたいが、あんたの商売上そうする事も出来ないんだろう。なに、簡単さ、あたしなら、その女を近づかないようにする事ができる」

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その女が差し出したのは、何の変哲もない布製の巾着袋であった。片手に乗る大きさで、口を結ぶ紐が細くどこを見ても黒、一色。

「あんた、まじないは信じないって顔だね?騙されたと思ってこの巾着袋を持っていくといい。

代金は、そうだね...効果があったら又必ず、同じ時間にこの場所を訪れる事。

何、金銭を要求するわけじゃないよ、あたしはあたしの力を試したいだけさ」

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信じられるだろうか、昔お母さんに教わらなかった?知らない人に物を貰っちゃいけません、って。

あとで法外な値段設定をされるかもしれないのに。

精神的にも参っていたんだろう。怪しげな女からもらった怪しげな巾着を手に、最終電車に飛び乗った。

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あれから1ヶ月。

毎日のように店を訪れていたアリスは、顔を見せないどころか電話さえも掛けてこなくなった。

正直、解放された安堵よりも、あんな事で上手くいくなんて...という驚きの方が大きい。

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私は、女に言われた通り。闇より黒々としたその巾着に、アリスの写真を入れた。

適当な大きさのものがなかったので、大学時代に撮ったと思われる彼女のプリクラを。

細い紐で口を結び、縫い針でブスッと貫通させてから夜の間だけ、月の光に当てる。たったそれだけ。

忙しいだけではないのか?

いや、彼女は結婚して専業主婦、子どももいなければパートもしていない。1週間とてあいた事のなかった彼女の来店が、連絡が、ぱたりと止んだ。5年ぶりの静けさだった。

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それからというもの、仕事は順調。

プライベートでも出逢いがあり、身も心も羽が生えたように軽くなった。

ただ、最近近くに大きなネイルサロンが出来た事が気掛かりではあったが、お客様も離れる事なく上手くやっている。自分でも、周りからもそう思われていた。

「店長、最近出来たネイルサロンの噂聞きましたか?何か凄く技術力が高いみたいで、デザインもいいみたいなんです。」

「あっ、店長さん...この前入れた予約なんだけど、キャンセルしといてもらえるかしら」

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人間って、何で新しいものが好きなのかしら。

大型ネイルサロンの噂は瞬く間に広がり、うちみたいに在り来たりなチェーン店はその波に飲み込まれた。

あれだけ忙しく、電話を取る暇さえなかった私が今、休憩室のテレビを見ているなんて滑稽だ。

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「......女性の変死体。通り魔か?爪剥ぎの怪異...」

夕方のニュースが目に飛び込んで来た。これはあの店の近くじゃないか。よく口の回るアナウンサーによるところ、最近女性が眠らされて拉致されたり、殺されて放置されたりしているらしい。

「被害者の共通点は、全ての爪が無理やり剥がされているという点.....」

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ブチ....っ!!

shake

私はテレビの電源を落とし、ネイルチップのサンプルを入れるショーケースを取り出した。

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「私はいつだって羨望の眼差しを浴びていたいの。オシャレで、素敵で、技術もセンスも1番じゃないと。」

色とりどりのジェルが乗った、ネイルアートの数々。一見して手の込んだデザインチップのようだが、よく見ると異変に気がつくだろう。

アリスも、急に店を乗り換えたりして。

うちのスタッフも、客も。みんなあの店の事ばっかり話してるのが、嫌だった。

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変色した赤黒い血が付いた<ネイルチップ>は、どれもあの大型ネイルサロンのデザインだった。

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