蘇る憎悪 悲しい事件 (リサイクルショップシリーズ 36)

中編6
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蘇る憎悪 悲しい事件 (リサイクルショップシリーズ 36)

公園通りのベンチに腰を下ろし

煙草を吸う。

リサイクルショップの旦那から預かったトラックの整備がひと段落ついたので、ひとまずは仕事がない。

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俺は自動車解体業を営む

『延原 章雄』

皆には『ノブ』などと呼ばれている。

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ここの所、2台ほどの整備 修理を行ったが、これでは食べていくのに苦労しそうだ…自営業のため中々顧客を増やすのに苦労をしている…

殆ど母のパートが我が家の生活を支えてるといった所だ…

頑張らなくては…

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へっぽこ探偵の

『刈谷 哲夫』

からも一台、故障車を預かっているが、奴の車は修理しない。

なんせあいつは金も払わない…

前もブレーキの不具合があるとの事で、直してやったがその修理代を未だに支払わない…

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『金が無い…その代わりに女を世話してやる』と言って、紹介する女は奴自身面識のない女…

そんな女性をどうしろというのか?

とんでもない詐欺師だ。

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ベンチに座り道行く人を眺めていると…

ガリガリに痩せ細った幼い少女が一人で歩いているのが目にとまる…

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着ている服は子供服では無いようで、だぶだぶ…元の色がわからないほど汚れている。

髪は殆ど切ったことがないのか伸ばしっぱなしで…ボサボサで艶もない

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ホームレスの子か?

そんな馬鹿な…

この公園に住むオッさんらが子供を養う程の余裕はないだろう。

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煙草の火を消して少女を追う。

少し近づくと

少女の汚れた服から覗く手足に痣のようなものがある事に気づいた…

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虐待?

あまりに酷い暴力に耐えかねて

親元から逃げてきたのかもしれない。

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嫌な記憶が蘇る。

俺の親父も酒を飲むと凶暴化して俺やお袋を殴る、蹴るで手のつけようがない奴だった…

それが四六時中酒を飲んでいるから堪らない…

俺もお袋も生傷が絶えることが無かった…

妹だけは殴らせまいと俺は妹を抱き抱えて奴の暴力が終わるまで耐えに耐え続けた…

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その生活が一変したのは俺が中3の頃。

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親父が脳梗塞を患い、命こそは助かったものの寝たきりになった…

いつか物理的に力関係を逆転させてやる!と思っていたが…それすらも許されない状態となってしまったのだ…

その上、体がいうことを聞かなくなった親父は毎日のように「すまなかった…すまなかった…」と回らない口で訴える。

そんな姿が居た堪れなかった…

その三年後に親父は亡くなったので、全て忘れることにした…していた…

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だが今 痣だらけの少女を目の当たりにして…あの頃の憎悪が蘇る。

一度だけ、親父は妹の『愛子』に暴力を振るったことがあった…

痣だらけになった妹を抱え泣き叫ぶ母の姿…

その横で酒をかっ喰らいながら野球中継を観る親父…

流石に俺も頭に血が上り、親父に飛びかかった…全く歯がたたなかったが…

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少女は国営住宅のアパートへ向かっているようだ…

見上げると、ある 部屋のベランダにカラスが群がっている。

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「なんだアレ…

生ゴミでも溜め込んでるのか?」

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少女がアパートには入っていくのを見て、慌てて後を追う。

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あの子の親の顔を見てやる…

普通の親なら可愛い我が子…それをあんなひどく痩せさせ、虐待するクソッタレの顔を拝んでやる。

俺の親父と同じ目をした奴なら俺が制裁をくれてやる!!

狭い階段を細いその脚で一歩一歩登る姿を妹の愛子と重ね合わせる。

いまの愛子は夫を持ち幸せに暮らしているが、あの頃のままの愛子の姿が蘇る…

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二階…

自分のウチであろうドアの前で少女は部屋に入る事なく立ち止まる。

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「何してるんだ?」

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俺はその様子を眺めていると…

少女は急に俺の方を向き、俺の目をジッと見つめながら、細いその腕をドアに向け指を指す。

顔には生気が無く、まるで死人のように土気色をしていた…

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「き…君…俺がつけてるの、気付いてたの?」

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その問いに何も答えず、部屋のドアを指差し続けている。

困惑を隠せなかったが、『このドアを開けてくれ』と受け取った俺はソロソロとその部屋の前に向かった…

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ドアノブに手をかける…

その時、不思議な不安が襲った…

何故か…?

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臭いだ…

腐敗臭が…鼻を突いたのだ…

まさか…な。

ドアノブを捻る。

鍵はかかっていないようだ…

すんなり開いたドアに顔を近づけると、その腐敗臭は鼻に激痛を与えるほどに俺を襲う。

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「こ…ここが…君の家なの?」

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と、少女を見る…

先ほどまでドアの前に立っていた彼女はその姿を消していた…

あたりを探したが全くみつからない。

ここまで来て、帰るのはしのびない…

不法進入だが、この臭いは尋常じゃ無い…

放っとく事もでき無い…

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部屋の中は、ゴミが彼方此方に散乱し、とても靴を脱いで上がれるような状態ではなかった…

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「クッセェ…」

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部屋の中は酷い悪臭が全体を包む。

ゴミを掻き分ける。

あの子…あの少女…

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「もしかして…ま…まさかな…」

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心臓が口から飛び出しそうな感覚に襲われる。

だが、その感覚は無情にも正解を引き寄せた…

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ゴミ袋が散乱する、恐らく居間であろう部屋の真ん中に小さな人型の塊が転げている…

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「あ…ああああ…」

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臭いの原因を目の当たりに、吐き気との闘いに突入する。

腐敗した人間を見るのはもちろん初めて…

しかも、幼い子供の屍体。

吐きそうな口を押さえ顔を背けた。

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その時、何処からか?

カラスの鳴き声が聞こえる…

ベランダの方だ。

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「ああ…」

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つま先に力が入る。

ゴミを近くにあった箒で掻き分ける。

ベランダに向かう道を作りながら…

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「あった…やっぱり…」

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母親だろう…

髪の毛が顔を覆うように被さりベランダの縁に背中を預け座るように亡くなっている。

カラスたちが騒いでいるのは、この屍体を喰らうためだったのだ…

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(鼻が曲がりそう)という言葉がある。

まさにその通りだと気づかされる。

その悪臭は身体全体から吸い込まれているかのように俺の身体を硬直させた…

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震える手で携帯を手にする。

本来、警察に連絡を入れるところだが…

何故か、『刈谷 哲夫』に電話をかけていた。

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『修理したか?俺のハコスカちゃん…』

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車の修理はしてい無い…

だが、今おかれている状態から俺を救ってくれるならば、修理代を取らずに修理してもいい…

うまく言葉に出せなかったがそんなような事と居場所を彼に伝え、電話を切った…

長くこの場には居られない。

早く、この部屋を出たい…

硬直して、動かない脚をようやく動かし部屋を出た…

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特徴的な足音が階段を上って来るのが聞こえる。

普段、あてにしなかった奴の足音がこれほど心強く感じるとは思わなかった…

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「ノブ!?さっきの言葉に嘘はねぇだろうな!?」

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気持ちがいいくらいに軽快な声も俺を安心させた…

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「あ…ああ…」

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やっと出した声も擦れ刈谷の耳には届かない。

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「どうなんだよ?俺の車、直すのか直さねぇのか?ああん?」

「分かったから…早くこの部屋に」

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首を傾げながら、ドアノブに手をかける刈谷。

「うっ…」

顔を顰め俺を睨みつける刈谷。

「お前の言ってたのはこれか?」

確信がある表情の刈谷。

「メンドクセェ…」

元刑事とは思えない発言をする刈谷。

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だが流石は元刑事と思わせる段取りをつけ、モノの数時間で事を収める。

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「異臭がするって話で来てみたら、コレですよ刑事さん…」

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元同僚をからかう顔が印象的だった…

俺にも事情聴取があったが、「そいつは付き添い…」の一言で一蹴する。

長い一日は一人のへっぽこ探偵のおかげで、何もなかったように終わったのだ…

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あの少女は俺に自分を見つけて欲しかったのだと後で考えて気づいたそんな一日。

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刈谷の車、スカイラインC10(通称ハコスカ)が思いのほか金がかかってしまったのは誤算だった…

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屍体発見時は警察へ連絡しましょう!!!

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(翌月の新聞)

○○市、△□町の国営住宅で遺体で発見された母子の事件で、母子を殺害し放置した疑いのある 八坂 広宣 (やさか ひろのぶ)容疑者を殺人容疑で逮捕。

警察の調べで、八坂はこの母親と交際中で、連れ子とのソリが合わなかった為に子供を殺したと、娘の 日村 夢ちゃん(5才)を殺害した事を自供しているという。

近所に住む住人によると、日頃から虐待があり、子供の泣く声が頻繁に聞こえていたとの情報もあり、調べを進めている。

一方、母親の 日村 敏子 の殺害に関しては黙秘をしている。

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