お客様ノート(リサイクルショップシリーズ37)

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お客様ノート(リサイクルショップシリーズ37)

『居酒屋 夢見屋(ゆめみや)』

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アンケート兼、お客たちのお楽しみの為に『お客様ノート』なるものをカウンターに置いてみた。

月日が流れ、すっかりそのノートの存在を忘れた頃、ふとカウンターの隅に置かれたノートに気付いた…

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「おや?そうだった…こんなん置いたんだっけ…」

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と、客が一通りはけたので見る事にした…

カウンターには一人だけ酒の飲み過ぎで突っ伏した奴が居るが、こいつの事は放っとく…

昔からの馴染みの『刈谷 哲夫』

どうせ朝まで起きる事はあるまい…

今日は嫁も子供を連れて実家の方に行っていてウチには居ないから、俺もこの店に泊まる予定だからこの馬鹿を泊めるのは構わない。

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……………………………………

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俺は『美山 晴臣』

居酒屋 夢見屋の店長をしている

前の店長からこの店を任されたのはアルバイトとしてこの店で働き始めて、8年目を迎えた冬の事だった。

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歳も30を超え、嫁と子供2人を食べさせていかなくてはいけないし、いつまでも呑気にアルバイト風情では居られない…

と、二つ返事で店長になることを了承した。

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(客足を護らなければ…)

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そればかりが俺を苦しめているが…充実した毎日を過ごしている。

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お客様ノートを開くと、悪戯書きがワンサカと目に飛び込んでくる。

猫好きの客、ハルカちゃんが描いたものだろう…色んな表情をしたネコがところ狭しに描かれていた…

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「ハルカちゃんだな…猫を上手に描くのは良いが何だよこの『ウンコをしてる時のマル』ってのは…」

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ページをめくる…

一見さんの客がメッセージを書いてくれていた…

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『初めて夢見屋に来ました。お料理もお酒もとっても美味しくて感激しました。また来たいと思います…平林 香織』

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丁寧に名前まで書いて…

ありがたいお客様。

この仕事をしていて一番励みになるのは、お客に感謝される事なのだと改めて感じた。

その下にも、別の客だろうメッセージが…

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『焼き鳥が手が込んだ味付け…感激して同じものを何本も注文してしまいました…ご迷惑お掛けして申し訳ない。』

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何本でも御注文頂ければお焼き致します!!材料が続く限りは…

疲れが吹き飛ぶほど気分が良くなる…

普段、口に出してお礼などを言う客は少ない。

せいぜい「美味かったぁ…ご馳走様〜」くらいのものだ。

カウンターで寝ている哲夫に至っては「タコワサくらい置け!!ボケ」

などと言って、実際リクエストに答えて『タコワサ』を入れても注文すらしない…その上、何時もツケで飲んでく有様…

そんな事はどうでも良いが…

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さらに読み進める。

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『鹿児島の本格芋焼酎、原口屋甚右衛門を入れてくれませんか?故郷の大好きだったお酒を呑みながらこの店の美味しいおつまみを食べたいです。』

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この人は鹿児島の出身なのか…

でも、中々そうもいかないのですよ…

決まった酒屋からしか入荷してないので…スンマセン!

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『今日の酒は美味くないぞ〜!!みゆきちゃん…なんだってアメリカに留学とか言い出すんだよおおおお』

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あ…この客覚えてるぞ。

いつも仲間を連れ立ってやって来る大学生だ…

その日は一人でこの店にきてたな…

大学生の客が一人で来店するのは珍しい事だし…よく覚えていた。

付き合って間もない彼女がアメリカに留学すると話していたあの若者だろう。

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ページをめくる…

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『馬鹿ばかりがいる飲み屋の方がやっぱいいね〜』

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何だそれ…

確かに馬鹿は居るがそこまでみんながみんな馬鹿じゃないと思うぞ。。。

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『また来ちゃいました。タコワサ美味しいですね。お酒がすすみます。平林 香織』

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お、またこの子か…

さらに読み進める。

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『美山のアホ』

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この字…見覚えがある。

カウンターに突っ伏した馬鹿を睨みつける。

間抜けな寝顔が更に腹立たしい…

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次のページ…は落書きか…

ドラゴン ボールの孫 悟空やピッコロなどのキャラクターが描かれていた…あまり上手くはない…

「なんだこのベジータ…何で鼻がないんだよ…鼻がないのはクリリンだろ…」

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ページをめくる…

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『あなた様が…好きになっています。平林 香織』

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ん?なんだこれ…

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この子いきなり何を書き込んでるんだ…?

そういや、どんな子だったか未だに思い出せない…

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『↑誰を?美山のクソは止めておけ!』

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これは哲夫だな。

字でわかるほど仲がいいって…

まぁ…悪くないな…

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『また来ました…告白したのに貴方は返事を返さないのですね。平林 香織』

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ん?いや、まさか俺に告白してるわけじゃないだろうな?

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『ゆきちゃんと最後の晩餐!!離れ離れになると、気持ちも離れると思うから別れよだって!ふざけんなぁああああ…』

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あの大学生か…

そういや、女の子と二人で来たことあった様な…どんな女の子だったかよく見てないから覚えていないが…

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『リサイクルショップの上に探偵事務所あるの知ってた?

行方不明の愛犬を探してもらったよ!凄い簡単に見つけてくれて有り難かった!!』

『↑それ俺です。刈谷 哲夫』

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哲夫が経営する探偵事務所…そういや、看板もないから誰も知らないかもな…

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『中々、ご返事がありませんね…誰か他に好きな方があるのですか?

ご返事をお待ちしています。平林 香織』

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え…またこの子か…ちょっと気持ち悪くなってきたな…誰に告白したのか書かないと分からないだろ…

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『金がないぞタダ酒飲ませろ!クソミヤマ!テツ』

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寝たまま死ね…哲夫

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『23歳同級生達と飲み!!枝豆に生ビール!居酒屋ハシゴの一軒目はこれで決まり!!』

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ハシゴか…最近の若い奴らにもこんな奴がいるんだなぁ…

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『お鍋は冬限定なんすね〜』

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そんなことないよぅ!メニューから外しているが頼まれれば出しますよ〜

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『ゆるせない!!何故?返事をください!! 平林 香織』

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ん?なんだこれ…凄い殴り書き…またこの子か…

ページをめくると『平林 香織』という子からのメッセージが連なって書かれている…

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『無視しないで!!平林 香織』

『いつも見てるのに!! 平林 香織』

『今も見てるのに!! 平林 香織』

『ねえ?貴方の目の前にいるよ!?平林 香織』

『こっちだってば…平林 香織』

『そう…今貴方を見ているの…平林 香織』

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ちょっと…

なんだこれ…

気持ち悪い…

更にページをめくると、更にぎっしりと『平林 香織』なる人物からのメッセージが書かれている。

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いや、怖い…これ以上読めない…

ノートを閉じる。

だが、この人は一体誰に対してメッセージを送り続けているのか気になった…

一番『最近』に書かれたページを開いてみることにした。

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酷く乱暴な字、ページ一杯に大きな文字で殴り書きされていた…

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『やっと、このノート見てくれましたね。美山 晴臣様…貴方をお慕いしてもう一年になります。今夜も貴方のそばにいます。平林 香織』

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nortyさん<ありがとう!!ストーリーの時代背景が古いので、お客様ノートですが、今ならインターネット掲示板かSNSになるのかな…

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