リサイクルショップシリーズ38〜お友達〜

中編6
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リサイクルショップシリーズ38〜お友達〜

私は中古品の買取、販売を行う『リサイクルショップ 千石』の店主をしている。

あまり良いネーミングとは言えないがまぁ、父の代からの名で変更するのも面倒なのでそのままにしている。

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ウチは代々、質屋を営んできたそうだが…

親の代から質屋では聞こえが悪いと、今の買取販売の形に変更したそうだ…

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この店にはあらゆる品物が持ち込まれる…

その中には、何やら怪しい…曰く憑きの物まで含まれている。

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『市松人形』

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とある、老婆がその人形を手に店に来たのは夏が過ぎ秋をむかえた9月の事だった。だいたい人形と言うと曰く憑きのイメージがあるが、市松人形は昔から年配の富裕層から絶大な人気もあり私からしたら、大金になる良い品物だ。

その人形はガラスケースに納められた可愛らしい人形…好きな人なら買ってくれそうだ…

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老婆はウチが質屋の頃からの客らしく、この店が質屋だと思い込んでいるようだ。

かなりお年を召したお年寄りのためリサイクルショップだと説明するのに骨が折れた。先ずリサイクルという言葉自体分からないらしい…

兎に角、買い取る事は出来ると話すと、「お願いします…」と深々と頭を下げた。

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さて、査定の結果、着物にカビや汚れがあったが状態は悪くなかったため¥10,000で買い取った…

だが、着物のクリーニングはどうするか…

おっと…そういえば市松人形は着せ替えのできる人形なので着物の汚れについては大丈夫なのだ…が、今の所、着せ付ける着物が手元に無…いや…

そういえば、売れずに奥の倉庫で大切に保管している古い市松人形がある。父の代に買い取ったものだが…

いや、でもアレは止めておこう…

年代物ではあるが…あいつを表に出すのは…

しかし…売れ残りは処分しなくてはと前から気になってはいた。

〈倉庫〉

かさばる巻物を保管するために棚を設置したが、巻物を売りに来る客は少ない。

そりゃそうだウチは骨董屋では無い…

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その為、過去買い取ってきた古い物を木箱に詰めて積み上げてある。

木箱を幾つか積んであるそのうちの一つ。

『市松No.52』これだ…

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棚から下ろしフタに積もった埃を濡れた雑巾で万遍なく丁寧に拭き取る。

埃が舞い商品にかぶるのを防ぐためだ…

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開けて直ぐ感じるのは虫除けの為に入れた人形用防虫剤『わらべ』の香りだ。

次にカビ除けに巻きつけた特殊な紙を剥がしていく…

その姿が見えくる…相変わらず不気味な人形だ…首元を支えながら箱から人形を取り出す。

文面では表現しずらいが…なんとも言え無い表情をしている…口元は笑みを浮かべているが、目は一切笑っておらず、大きく見開き『ジッ…』と手にする者を睨みつけてくる。

この人形を手放した以前の所有者も気味が悪いのでと持ってきた…と、父から聞かされている。

しかし着物の状態は以前見た頃と変わらず良さそうだ…虫除けとカビ除けをしておいて良かった。

京都 創業明治5年の老舗呉服店が特別に誂(あつら)えた最高級の着物が着せられているのだ。粗末に扱う事は出来ないためこの人形は大切に保存してきた。

売れないのは、この表情のせいだろう…

父が経営している頃、一度店舗に置いたが、苦情を受けた事もあったそうだ…

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今日、買い取った人形とサイズも同じ…この着物をそっちに着せれば…

価格は跳ね上がる…

まあ…『¥65,100』位か…?高いかもしれないが…新しく人形屋で買うよりは安いだろうし、こんなものだろう。

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早速、着物を脱がせ新しく手に入れた人形に着せる…

カビや汚れの付いた着物は代わりに古い人形に着せる…内着だけでは流石にかわいそうだからだ。

そしてまた、木箱に不気味な人形を収め棚にあげておく。

暫くは開けることも無いだろう…

今度開ける時は供養の時になるだろう。可哀想だが致し方無い…

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さて、新しい人形の、店への配置だが…

人形というのは、あまり目立つ場所には置か無い。

気味悪がる客もある為だ…が。。

表から1番遠く、最も目立た無い場所よりは表に…意外と難しい。

分かるものにはその価値がわかる。

なので、その存在に気づか無いような場所に配置しては売れるものも売れ無いというものだ…

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スポーツ用品棚の裏手が収まりのつくスペースもあり丁度いいだろう。

ガラスケースを打つけないように慎重に棚に上げる。

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「市松人形ですか?」

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スポーツ用品を物色していた年の頃なら四十前後の男が野球グローブを手に棚の向こうから顔を覗かせる。

しかし、買うことも無いと判断…

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「ええ…」

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と素っ気なく返事をしておく。

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「素晴らしい柄のお着物を着たお人形ですね…造りも華があって綺麗だ…京都の老舗呉服店なんかでしかこれ程のお着物は造れやしないでしょうなぁ…」

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まさかの高評価&抜群の目利き…

コレは早速売れるか?

と思ったが、言葉を変える。

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「あ…ところで店員さん…実は今、脛当てを探してましてね…こちらにはありませんか?」

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脛当てというのは野球用品の一つ…

やはり、この客は人形を買うつもりは無いようだ…

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「今の所、入ってはおりませんね…」

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ガッカリした気持ちを押し殺し、何時もの定位置に戻り新聞を広げた。

そんな簡単に売れるものでも無い。気長に待とう…

その時、ほんの少しその客の呟く声が耳に届いた。

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「評判どうりの無愛想だな…」

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それから暫くして、その人形の存在も他の商品同様の存在感になり、ごくたまに手入れをする程度になった頃だった。

客の一人が大声を上げる。

shake

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「うわああああっ!!なな、なんだこの人形!?」

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BGMも無い静かな店のなかで突然大声をあげた為、驚きを隠せなかった。

慌てて客の元へ駆け寄る。

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「どうなさいました?お客さん」

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完全にすくみあがる客の右手人差し指は、真っ直ぐに市松人形を指さしている。

人形を見上げる…

近視のためよく見え無い…

立ち上がり顔を見る…

特に何もおかしな点は見られなかった。

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「何があったんです?」

「ひい!」

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その客は途端に逃げ出すように店を飛び出して行ってしまった。

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「何だってんだ…?」

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もう一度、市松人形を見たが何らおかしな点も無く可愛らしい笑みを浮かべるだけだった…

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閉店時間になり店を閉め、書類などの整理を始めた頃…

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…………………外からだろうか?

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子供の泣き声が聞こえる…だが、裏のアパートに住む住人には子供連れの家庭もある。特に珍しいことも無い…

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計算機を弾きながら、帳簿に目を通していると売り物の古時計が鳴り響く…おや?今何時だろう…時刻を確認した。

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2:00…

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な…?そんな馬鹿な…さっき閉店したばかりじゃないか…この時計が狂っているのか?幾ら何でも9時がいいところだろう…

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…………………泣き声

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そういえば、何時まであの子は泣いているんだ?

親は何をしているんだ…

すると、何やら泣き声に混じって笑い声も聞こえてくる…

実に楽しそうに…

嬉しそうに…

どこの子だろう…今夜は奇妙だな…

shake

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「ねえ…おじさん?」

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その声に背筋に氷水を浴びせられたような寒気を覚える。

明らかに子供らしい、可愛らしい声…この店には私一人のはず…

ましてや子供なんているはずがない…

後ろの…店舗の明かりは消してある。

が、その店舗の方角からその声がした…

振り返る勇気が持てない

なんと無くそれが何者なのか…見当がつく。

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「お友達が暗くて狭いところにいるの…お着物を頂いたお礼がしたいから出してあげて欲しいわ…ねえ、おじさん?」

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ゾクリと冷えた空気が背中を撫でる。やはり…

手元にあった鏡で後ろを覗く。。。

暗い店舗。特に何も見え無い…

そりゃそうだ、人形が喋るはずがない…

意を決して、店舗を確認しようと立ち上がろうとすると。。。

私の洋服の左袖、肘辺りが何かに引っかかる…

shake

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「おっと…」

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ふと、左腕を見て驚いた…

可愛らしい笑みを浮かべ私の肘辺りを掴みジッと見つめる人形…

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「おじさん?お友達が泣いてるわ…箱の中は暗くて狭くて寂しいって…出してあげて。。。。。ねえ…おじさん…」

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