おじさん僕の防具返して…(リサイクルショップシリーズ39)

長編9
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おじさん僕の防具返して…(リサイクルショップシリーズ39)

『Rrrrr…Rrrrr』

『ガチャ』

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「もしもし。。。ああ、斎藤さん…」

「…はいはい、野球の……」

「ええ、防具ですね?」

「脛当て?」

「無いんですか…?」

「いや、たった一度の試合に新品ってわけにいかないでしょう…誰か持ってないんですか?」

「本当に?…分かりましたよ私の方で探してみます。はい…ええ、じゃあ宜しくお願いします〜」

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『ガチャリ』

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地区の集まりで隣町と野球を行うことになり区長をしている私は、いろんな事に追われ、てんてこ舞だ。

グローブの数が足りないだとか。

グラウンドの場所はどうするのかとか。

怪我の無いようにキャッチャーの防具も揃えて欲しいだとか…

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こんな事ならサッカーにすれば良かった…グラウンドも小学校に話せば良いし、ゴールポストもある。

あとはボールとカラーシャツだけ用意するだけで事が済む。

しかし、既に会合で決まってしまった事だし、借りる球場も、グローブやバット、防具もあらかた用意してしまった。

後は『脛当て(すねあて)』というキャッチャー防具だけが無いだけだ…

今更、競技を変更というわけにはいかないだろう。

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「母さん、この辺に中古品やなんかを売ってる店ってあったかな?」

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妻が足の爪を切りながら、応える。

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「それなら、リサイクル屋さんがレコード屋さんの隣にあったでしょう…あそこなら何でも売ってるからあるんじゃないかしら?」

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『リサイクルショップ千石』

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確かにそんな名前の店がある。

スポーツ用品なんて売ってるかな?

兎に角、行ってみるしかない。

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「行ってみるか…」

「彼処の店長さんね、無愛想で陰険な人で有名だから…変に機嫌でも損ねたら高くされるかもしれないわよ…」

「そんなこと無いだろっあはは…」

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……………………………………

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〈リサイクルショップ千石〉

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店に入ると所狭しと色んなものが置かれ、何となく懐かしい香りに包まれていた。

外観は小さいと思ったが以外と中は奥行きがあり広い。

かつてのコレクション癖が甦る…

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「懐かしい物もあるなぁ…」

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入ってすぐに目につく物は、自分が昔、よく愛用していた電気器具やオーディオの数々…

トランジスタのラジオ

昭和を感じさせる電話器

懐かしい照明器具…

奥に進むと、壷やら巻物、茶碗などの茶道具といった骨董品まで取り扱っている。

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「コレは…」

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『備前茶入 金重陶陽』

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本物に間違いない。

前から欲しくて探していた物だ…

幾らだろう。。

骨董屋ならまだしも、この店はリサイクルショップ…目利きでなければ安値をつけていてもおかしくない…

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『¥368,000』

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た…高い。

私のヘソクリでは到底買えたものではない…目利きなのか?ここの店主

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まあ良い。

今日は骨董を見に来たわけではない…スポーツ用品は…

……と、店を見て回ると一角にそれらしいコーナーが設けられていた。

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グローブの種類が豊富…

MIZUNOは勿論だが…

HATAKEYAMA、

Rawlings、

NIKE、

久保田slugger、

シュアプレイ、

ハイゴールド、

玉澤グローブ、

XANAX、

DESCENTE、

Wilson……etc

なんなんだこの店は…どんだけ…

まあ、兎に角、グラブは良いとして…脛当ては…

…………………見当たら無いな…

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すると、この店の店主だろう…

おもむろにガラスケースを、私がいる棚の反対側の棚に上げているのが見えた…

ガラスケースの中には人形が収められているようだ。

『市松人形』か…

可愛らしい桜模様の着物を着ている。

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「へえ…市松人形ですか?」

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すると、店主は此方を見る事もなく眉間に深いしわを寄せながら「ええ。」とだけ言ってガラスケースを布巾で拭いている。

機嫌が悪いのかと思い、市松人形の着ていた着物について褒めてみる。。。

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ようやく、此方を見たが…

酷く睨みつけてくる。

無愛想というのは本当らしい…

兎に角、そんな事はどうでも良い。

『脛当て』は無いのかと尋ねると

「今は、入っておりません…」

と冷たくあしらわれてしまった。

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「評判どうりの無愛想だな…」

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と、思わず溢れる。

どうやらそのセリフが店主の耳に届いていたらしく、ビックリしたような顔で私を見ていた。

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…………………

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仕方がないので、店を後にすることにしたが…どうにも弱った

脛当て無しで試合をするか…

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「恐らく文句を言うんだろうな…斎藤さん…」

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キャッチャーは誰がやるのか?という話で、その会合の場にいなかった床屋の『斎藤 要』さんをキャッチャーにしてしまった為に彼は怒り心頭で私の元に電話をかけて来た…

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「防具を揃えてください!人から借りるなんて嫌ですから買い揃えてください!!じゃなきゃ私はキャッチャーなんでやりませんからね!!!」

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とワガママを言い出したのだ。

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…………………

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どうしたものかな…

と、リサイクル店を出ようとすると…

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「ちょっ!!お客様…」

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店主が私を呼び止める。

さっきとは打って変わって、苦笑いのような微妙な笑みを浮かべながら、『脛当て』を差し出してきたのだ。

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「手入れが未だ…不十分で…それでも良ければ…その…」

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急な態度変更に驚きながら、脛当てを受け取り見てみたが…

不十分ってどの辺が?と思うほど綺麗だった…

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「幾らでしょうか?」

「そうですね…税込538円では高いでしょうか?」

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そんなことは無い…538円なら安すぎる。

当然、有難く買い取ることにした。

この人は、無愛想なんかじゃなくて人とのコミュニケーションが苦手なだけなのだろう…

「いい買い物をしました、また来ます」と言うと、ホッとしたような表情を浮かべていた。

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…………………

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良かった。

これで準備はできたも同然…

後は野球の当日を迎えるだけだ。

ウチに帰り、妻にリサイクルショップでのことなどを話すと、ケタケタと大笑いをしていた。

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「ところであなた?脛当てってどんなの?」

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妻は野球については全く疎く、「テレビなので見たことがあるだろう」と話してもピンときていなかったので見せてやることにした。

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「はーん…これね…」

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思い出したように頷きながら見渡す。

すると…

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「変なシミがあるわよ…」

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と、脛当ての裏側を私に見せてきた。

黒とも茶色とも取れる色のシミがあった…

この程度、なんてことは無いだろう…

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「変なシミね…手形みたいに見える…ねえ…血じゃないのこれ?」

「嫌なことを言うな…気色悪い」

「だってほら…」

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と、右掌を当てて見せてくる…

本当に掌の形にシミが…

確かに血が乾いたような色ではあるが…

だが、前の持ち主が怪我やなんかで手を負傷して、その手で持ったりという事もある。

シューズのスパイクで手を切ることもあるし、不思議な事でも無い。

「一回こっきりしか使わ無いのだからいいだろ…これぐらい」

と言って妻から『脛当て』を奪い袋に入れブラウン管テレビの上に放った。

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…こんなものを買わなきゃ良かったと後悔する事も知らずに…

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…………………

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深夜…

妙な胸騒ぎで目を覚ます…

隣を見る。

妻はグッスリと夢の中だ…

トイレに立とうと、妻を起こさ無いように布団から滑り出る。

近頃、歳のせいか頻繁に尿意をもよおすようになったが…今夜はそんなものと違う…不思議な感覚が自分自身を包んでいる。

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トイレを済ませ、水を飲みに台所に行く…

台所の扉を開けると、居間からボンヤリとした明かりが漏れている…

覗き込むと、居間のテレビがついていた…

砂嵐…

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「何だ…つけたまま寝たのか?孝志の奴…まったく!」

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テレビを消そうと居間へ…

リモコンを手に取ろうとしたその時だった…

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shake

突然、画面に映像が映る。

何が起こったのか分からず、その映像を消さずに観る。

ホームビデオの様な画質。

ハンディカムで少年野球を映したもののようだ…

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「何だこれ?中学生野球?」

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撮影はバックネット裏の客席から撮られている…

撮影者の声がちらほらと入っている。恐らく撮っているのはバッターボックスに立つ少年の母親の様だ。

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背の低いピッチャーがボールを放る。

力一杯振るったバットが快音を上げボールはセンター前へ…

母親が大きな声で喜びを表しながら「走れ!!回れ回れ!!」と声援を送る。

精一杯走り抜きスライディング…ギリギリで二塁打に…

微笑ましい笑い声が起こり、安堵の言葉が収録されている。

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と、急に場面が変わる。

キャッチャーの後ろ姿がアップで映る。

さっきのバッターボックスの少年だ…

次は1回の裏、撮影者息子さんの相手チームの攻撃の様だ。

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ズームアウトしてダイアモンド全体を映す。

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投球練習…

味方チームのピッチャーが放ったボールを受け、すかさず二塁へ…

なかなかの強肩だ…

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…バッターボックスに相手チームの選手が入る。

審判の「プレイ!」の合図で試合が再開…

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一球目、ボール

二球目、変化球と思われる球がストライクに決まる。

三球目、打たれる…がショートゴロ…

ショートの少年がうまくさばきワンナウツ

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バッター二人目…

一球目、ストライク

二球目、打たれる…一、二塁間を抜くライト前ヒット…ランナーに一塁を許す

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バッター三人目

セットポジション一球目、ボール

二球目、ボール

三球目、ボール

四球目、ファール…

五球目、ファール…

六球目、ボール…フォアボール

ランナー、一塁二塁のピンチ

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バッター四人目、体の大きな四番バッターだ…

一球目、見送り…ストライク

二球目、ボール

三球目、快音…三塁線ライナー!!

ボールは内側に入りフェア…!!

二塁のランナーは悠々ホームへ!

一塁のランナーも三塁を蹴ってホームへ!

ボールはサードへ投げられサードからでバックホーム!!

ボールを待ち受けるキャッチャー!

撮影者も白熱「タッチ〜〜!」間に合うか?!

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…………………

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結果はセーフ…

……その後、もう一点を奪われ1回裏に3失点…

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と、ここで映像が野球から自動車の車内を映した場面に変わる…

私には関係のないどうでもいい映像…だが何故か、見入ってしまう。

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少年が泣いている。

うな垂れた少年の肩を車を運転する父親らしき人物が撫でていた…

試合に負けてしまった様だ…

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『また今度があるんだから…』

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と慰める母親…

と、その時だ…

shake

shake

画面が激しくブレる…

sound:24

悲鳴…

凄まじい程の大悲鳴…

ガラスが割れる音。

車体が捻くれる凄まじい轟音。

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…………………

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画面が横向きになって止まる…カメラが外に投げ出されたのか道路を映している…何だこれは?

どうなったんだ…?

何やら液体が流れていく。

血?ガソリンか?

上部から細い腕が映り込む…

震える腕…紅く汚れたユニホームが映る。

少年の腕なのか?

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這いずっているのか?

その姿がゆっくりカメラに近づいてくる。。。

と、カメラが動く…

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何故か私は身構える…

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持ち上げたわけではなかった。

触れたことで映像がパーンされ、事故車両と血で真っ赤に染まる肉の塊が映り込む…

服装からして、運転をしていた父親のモノと推測された。

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私はとんでもないものを、今見ている…恐怖で身体が硬直して動か無い…

何故こんな映像が我が家のテレビに映るのか…?

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その時、映像に“見覚えのある”『脛当て』が映っていることに気づいた。

少年の鞄からはみ出した脛当てのメーカーロゴがウチにある脛当てと同じなのだ…

特徴的なロゴ…まさに一致する。

今日、購入した『脛当て』は映像に映る、この野球少年の持ち物だと言いたいのか?

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映像はまだ続いた…

カメラがまた動く…

持ち上げられカメラを顔面に向け少年が自分自身を映す。

これが顔なのか…

顔面の右半分が削ぎ落とされ脳がはみ出している…

血が吹き出し、目玉が卵の殻を割った時の卵黄の様に重力に逆らうことなく下に垂れ落ちていく…

生きているのが、動いているのが…不思議な状態…

余りにも怖ろしい映像…

目を背けたいのに身体も、瞼すらも硬直して動かせない…

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すると、少年の口が水分を含んだ様な音を立てて開く。。。。。

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『ゴボボ…おじさん…僕の防具返して』

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