長編11
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巫女殺しと神の障り

今回のお話は初詣での出来事です。

当時、私は就職のために地元に戻ってから初めてのお正月を過ごしていました。

その日は一月四日で平日であれば出勤日だったのですが、日曜日だったため休みが一日延びていました。

夕方ごろ車で本屋に行ったあと、自宅への帰り道で正面の山の中腹に神社の明かりが見えました。

その神社は最近何度か呪いに関わる事件で訪れた神社でした。

そういえば今年はまだ初詣に行っていないことを思い出し、折角なので神社に参拝して帰ることにしました。

下の広場に車を止めて石段を登っていくと、遅い時間だからか神社にはほとんど参拝客はいませんでした。

本殿でお賽銭を入れて、お願い事をしていると後ろから声をかけられました。

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振り向くと面識のある巫女のお姉さんが立っていました。

先日知人にかけられた呪いに対処してくれたこの神社の娘さんで名前は真央さんでした。

以前の心霊事件でもうちの職場のいわゆる霊感のある黒川先輩が真央姉と呼んでいたので、少なくともその先輩よりは年上と思われましたが、その曇りのないどこか浮世離れした佇まいのせいかとても若々しい感じがしました。

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「今日は初詣ですか?」

落ち着いた雰囲気でにっこり微笑んでくれます。

「はい、少し遅めの初詣ですけど」

「ちょうどいまお店を閉めて中に戻ろうとしたところですよ」

「あ、そうですか、おみくじは引こうかと思っていたんですけど、ちょっとのんびりしすぎましたね」

私も彼女の笑顔に惹かれて笑いながら答えました。

するとその言葉を聞いた真央さんは少し考えているようでしたが

「これも何かの御縁だと思いますから、ちょっと寄って行かれますか?」

突然の予期せぬお誘いに私は少々戸惑いました。

「おみくじ代わりと言っては何ですけど、私が視てみましょうか」

真央さんがいわゆる霊視ができるということは前回ここを訪れた時に聞いていました。

「どうぞ一緒に付いてきてください。みかんとお茶菓子ぐらいはご馳走しますよ」

そう言うと、神社に併設されている建物に進んでいくので、こんな時間に綺麗なお姉さんと二人っきりなんて良いんだろうかと思いながら後についていきました。

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建物の中に入り、その中の巫女さん達の休憩部屋と思われるところに通されました。

その休憩部屋にはこたつが置かれていましたが、真ん中に置かれたこたつに既に他の巫女さんが二人入っていました。

それを見て、当然二人っきりなんてことはないよねと逆に安心しました。

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「真央姉おつかれ~」

こたつに入っていた巫女さんの一人がねぎらいの言葉をかけながら私達の姿を確認すると、驚いた表情に変わりました。

「ええっ、なんであんたがいるのよ」

「あれえ、こんばんは」

もう一人からもびっくりしたような挨拶、どちらも聞き覚えのある声でした。

こたつに入っている巫女さん達を見るといつもと髪型と服装が違うのですぐにはわかりませんでしたが、職場の先輩の瑞季さんと取引先の事務員の絵梨花さんでした。

なぜこの二人がと思っていると

「ああ、この二人にはこの前の貸しということで年末年始の神社を手伝ってもらっているんです」

真央さんのいうこの前の貸しとは呪いをかけられた絵梨花さんを視てあげたことと思われました。

それにしてもあの瑞季さんが巫女さんとはある意味似合っているような・・・

「言っとくけど副業じゃないわよ、知り合いのお手伝いだからね」

「いや、別に他の人に言ったりしませんよ、それにしても黒川さんが巫女さんのバイトなんてびっくりしました」

「そんなことありませんよ、瑞季は昔ここに住み込みで働いていたこともありますし」

真央さんが答えました。

「えっ、そうなんですか?」

「・・・大学時代にここでお世話になったことがあってね」

深刻な顔をして当時を思い出している様子の黒川さんでしたが、その表情を見て私はその時に黒川さんの心霊関係の師匠と呼んでいる真央さんと縁ができたのかなと思いました。

「それでなんでここにいるんですか?」

横の絵梨花さんが笑いながら訪ねてきました。

「いや、僕は初詣に、絵梨花さんも巫女さんのお手伝いですか」

「そうですよ、私もこの前のお礼に」

絵梨花さんは髪を両側でまとめたいわゆるツインテールという可愛らしい髪型にしていました。

その髪型のせいか、女子高生のバイト巫女さんと思えるぐらいさわやかな感じがします。

とはいえすでに既婚で子持ちですが。

「・・・絵梨花さんは事務を手伝ってくれたらと思っていたんですが、どうしても巫女服が着たいと言うので・・・」

「うふふ、巫女体験ができただけでなく、仕事が終わった後は一緒にお風呂も入ったりして・・・ここは私にとって幻想郷ですよ」

道理でなんかテンションが高いと思っていました。

「あら、みかんが・・・」

真央さんが気づいたとおり、こたつの上のみかんがすべて皮だけになっていました。

「瑞季、ちょっと裏からみかんを取ってきてくれる?」

「・・・寒いのに何で私が?」

「絵梨花さんはみかんのある場所を知らないでしょ」

その言葉を聞いて、自分以外は適任がいないようだと渋々立ち上がってみかんを取りに行きました。

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「それじゃあ視てみましょうか、何か心配事などはありますか?」

そう言いながら真央さんは私の霊視を始めようとこたつに入りました。

とてもゆったりとした雰囲気でその様子によくテレビで見る霊能者のような厳かさは感じられませんでした。

「えっ、真央さん霊視するんですか、それなら瑞季さんとの相性占いですよ」

唐突に絵梨花さんがとんでもないことを言い出しました。

「ちょ、ちょっと絵梨花さん何言い出すんですか」

「え~、好きなんでしょ、瑞季さんのこと?」

絵梨花さんがにやにやしながら問いただしてきました。

「へぇ~、そうなんですか、あの瑞季をねえ」

真央さんまで絵梨花さんと同じく品と優雅さに欠ける笑みを見せました。

「いや別に黒川さんは良い先輩で、そりゃ彼女と一緒に仕事ができて日々の生活に彩りができたのも確かですが」

「それじゃあ、瑞季との相性を見てみましょうね」

私の話は無視して決められました。

真央さんはじっと私のことを見つめ始めました。

「断っておきますが、私の霊視はその人を囲んでいる独特の性質や関係している因縁などを視て取って私の主観的な見解をお話しするものです」

自分の霊視について真央さんは説明しました。

「ですから、未来の予知とか予言のようなものとは違って、現状確認のようなものですから楽にして聞いてください」

そしてその視線を動かさないままぽつぽつと語り始めました。

「あなたはとても優しくて、素直な方ですね」

優しい、その言葉は瑞季さんからも聞いたことがありました。

「しかしその分相手のことを考えすぎて強く出れないことも多いでしょうか」

当たっていると思いました。

「それでも、その性格からあなたのことを気に入っている人が周りにたくさん感じられます」

周りから好かれている、その辺は自分ではなかなか客観的に判断できないことです。

「そして、本題のあなたと瑞季の相性は・・・

これ以上はないぐらいの相性ですね」

なんだか絶賛されたように聞こえます。

「え~、それって最高に相性がいいってことですか?」

私ではなく横の絵梨花さんの方が歓喜の声を上げます。

しかし、その絵梨花さんの問いかけに真央さんが困った表情を浮かべました。

「えー、最高というか、これ以上はないという感じでしょうか」

「それって最高に良いということではないんですか?」

「まあ、あの強気な性格の瑞季ですから、そもそもそんなに相性が良い男の人のタイプも少ないんですよね」

真央さんは笑顔を取り繕いながら厳しい指摘を口にします。

「だからまあ最高に良いというわけではなく、いろいろ探しても強気の彼女をあなたが受け入れるというぐらいの感じで、これ以上の相性はあまり考えられないですかねという意味です」

要するに一番良いところでも一般的に見ればまあまあということでしたが、悪いと言われているわけでもないのだから前向きに考えようと思いました。

「でも、瑞季さんの方はどう思ってるんですか?」

絵梨花さんが気になることを遠慮なく聞いてきます。

「・・・言いづらいですが、今のところは恋愛対象としては全く思っていないようです、でも悪い感情も抱いていませんから、可愛い後輩といった感じでしょうか」

予想通りですが、あらためてはっきり言われるとショックは大きかったです。

打ちひしがれていると瑞季さんがみかんを抱えて帰ってきました。

がっくりきている私を見て

「なに、真央姉こいつを視てあげてたの?」

「そうよ、せっかくだから」

「あんまりいろいろ視てあげてたらまた面倒ごとに巻き込まれるんだからほどほどにしといたほうがいいんじゃない」

「・・・面倒ごとって、何かあったんですか?」

「真央姉、昔氏子の人を視たときに殺されかけたことがあるのよ」

「えっ、殺されかけた?」

物騒な話でしたが、詳細を尋ねると元々真央さんも瑞季さんと同じくプロの霊能者として広く一般の案件を扱っているわけではなく、神社の氏子さんなど身内の相談事を扱う程度で、そこで起きた事件のようでした。

心配している私を見て真央さんは今から5年ほど前の事件のことを話してくれました。

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その日、真央さんに入ってきたのは氏子の人から息子が部屋に引きこもって学校にも行かないので何かに憑かれていないか視てほしいという依頼でした。

その相談を持ち込まれたとき、そもそも引きこもっているのであればその氏子さんの家まで出向かないといけないのかと思っていたのですが、母親が神社で良い人がいるから視てもらおうとお願いすると素直に承諾したようでした。

霊視の約束の日時が来たとき、真央さんは神社の中の空気がピンと張り詰めるのを感じました。

何か異変が神域に起こっていることを感じ取りましたが、そのときくだんの親子が訪ねてきました。

異変の要因はどうもこの親子、特に引きこもりの息子の方にあるようでした。

真央さんは頭の中で警戒しながらも、外にはその雰囲気を出さずに応接室に母親と息子さんを通しました。

母親はいかにもいいところのお嬢様といった若くて繊細そうな女性でした。

息子の方はというと、少々陰鬱な雰囲気はありましたが普通の高校生の男の子でした。

真央さんは少し話を聞いてからさっそく息子さんを霊視してみました。

しかし、いくら視ても何か悪いものに憑かれている雰囲気は視えてきませんでした。

仕様がないので、正直に母親にそのことを説明すると

「へえ、なんかもっともらしい話すると思ったんだけど、そんなんでいいのお姉さん?」

初対面にもかかわらず、少年は挑発的な言葉を口走ります。

「な、なんてこと言うの、失礼でしょ」

慌てて母親が制止しようとします。

「お姉さん、じゃあ代わりに俺が今から何しようと考えてるかわかる?」

少年は真央さんに向かって試すようなことを言ってきました。

真央さんは先ほどから知覚していた神域の張りつめた空気と少年のズボンのポケットに意識が集中させられるのを感じていました。

「・・・私に対する殺意、そのポケットに入っている刃物で私を刺そうというのですか?」

真央さんの言葉を聞いた少年は戦慄が走ったようでした。

殺してみたいという言葉に少年自身はわかっていなかったのかもしれませんが、真央さんは少年の殺意の半分は脅しと感じていました。

本当に殺そうとしていたのであれば、この神域も真央さんもこの少年をここに通してはいませんでした。

「ふ、ふうん、本当に何か視えるみたいだね、そうだよインチキな詐欺霊能者を殺してみたかったんだよ」

横の母親は真央さんと息子とのやり取りに青ざめていました。

「・・・そんな理由で私を殺そうとしたんですか?」

「そうだよ、お姉さん怖い目してるけど、なんで人を殺しちゃいけないの?」

少年はどこかの連続殺人犯の発言を模倣したようなセリフを吐きました。

「おい、ばばあ帰るぞ」

そう言うと、少年は一人で部屋を出ていきます。

母親はおろおろしながら、何度も真央さんに頭を下げて少年の後を追っていきました。

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真央さんはしばらく座ったままでしたが、心の整理がつくと深く息を吐いて二人に出したお茶を片付けようと立ち上がりました。

しかし、次の瞬間神社の中の空気が一変しました。

震える強い感情が伝わる震慄の空気でした。

慌てて真央さんは何が起こったのか確認しようと建物の外に出ていきました。

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「ひぃっ」

思わず叫び声を上げていました。

鋭利なナイフがご神体の納められている社殿に突き立てられていました。

すぐさま抜き取りましたが、おそらく母親の目を盗んであの少年が持っていた刃物を社殿に投げつけたことは明らかでした。

真央さんはこれからどうなるのだろうと恐れながらも何もすることができませんでした。

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異変が起こったのはその日の夜でした。

昼間訪ねてきた少年の父親から神社に電話がかかってきました。

話を聞くと少年の母親がその日の夕方に突然泡を吹いて倒れ、病院に救急搬送されたということでした。

詳しく状況を尋ねると、倒れてから酷い高熱にうなされながら意識は戻らず、いろいろな検査をしたが全く原因がわからないということでした。

電話を終えると、真央さんはすぐさまその病院に駆けつけました。

病院には連絡をしてくれた父親と訪ねてきた少年もいました。

少年は真央さんの姿を確認すると、すぐに近づいてきて彼女の胸ぐらをつかみました。

「おいっ、親は関係ないだろ、なんでこんなことするんだよ」

少年は絶叫しましたが、真央さんは微動だにせずに少年を見つめながら答えました。

「あなたがあの時私をナイフで刺していたなら、私の両親が同じことを聞いたと思いますが、何と答えていたのですか?」

その言葉を聞いて、少年は固まりました。

「どうして人を殺すといけないのか、わからないのでしょう」

真央さんの指摘に少年は彼女の服をつかんだまま崩れ落ちました。

母親が神の障りを受けて、ようやく自分の今までしてきたことがわかったようでした。

「・・・うう、ごめんなさい、ごめんなさい」

涙を流して謝る少年のもとに真央さんはひざまずきました。

「本当に反省しているのなら、神様に謝りましょう、きっと許してくれるはずです、私も一緒にお願いしますから」

少年は黙ってその言葉にうなずきました。

「自分の欲のためだけでなく、家族などの周りの人のためにも頑張る、そういう思いだけで自分が生きていることの見え方が変わってくるものですよ」

真央さんは少年の父親に事情を話し、彼と神社に戻って一緒にお祈りをしました。

明け方ごろ、病院の父親から母親の意識が戻ったという連絡が入りました。

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「・・・いいお話ですねえ」

話を聞いていた絵梨花さんが右手で涙をぬぐいました。

「その引きこもり君の気持ちは私もよくわかりますよ」

引きこもりの経験あるの、と突っ込みを入れようかと思いましたが、真央さんのお話に神妙な気分になっていたのでやめました。

しかし、瑞季さんがぽつりとつぶやきました。

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「まあ、甘やかされて育ったせいでこの世で生きてる実感が得られなかった奴が死のリアルを痛感できたということはよかったわよね」

怖いよ、いい話で終わろうとしていたのに、なんでそんな怖い風に言い換えるの。

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瑞季さんの言葉に場が凍り付いていましたが、次の瞬間なぜか彼女の言葉にゾクゾクしている自分に気が付きました。

そんな自分を客観的に見つめながら、ああもう後戻りなんてできないのかも、そう感じてしまいました。

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norty様、あはは、すいません、ゴルゴム様のお言葉に興奮してしまいましたが、どうにもそんなレベルでないことは自分自身がよくわかっています。

今は一話一話物語を紡いでいくことだけに専念しております。
正直、いつまでこのお話を創っていけるのか全然自分自身が信用できないような身分でして・・・
一話完成するごとに、ものすごくホッとしているぐらいの小さい存在です。
ノリの悪い投稿者で申し訳ありません。
でも、ゴルゴム様、norty様のお言葉は嬉しかったです、ありがとうございます。

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ありがとう 禿げんで下さいませ^ ^ っと 自分も コミック化 賛成です❗️

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norty様、いつもありがとうございます。
面白い、次のお話が楽しみと言って頂けることに感謝しています。
次のお話も精進します。

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とても面白く読ませていただきました 次の話が 凄く楽しみです^ ^