中編3
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なんでもない日常

けたたましいアラームに叩き起こされた

「もうこんな時間か…」

男はそう言いながら枕元にある眼鏡をかけ、パソコンの前に腰掛ける

お気に入りの欄からいつものページを開く

「はぁ仕事かぁ」

そう言うと、椅子にかけてあったコートを着て部屋を出た

彼は言わば殺し屋である

依頼があれば音もなく現れて完璧に仕事をこなす

そう言うと聞こえはいいが、その日常は至ってシンプルだ

朝起きて依頼を確認して、時間になれば部屋を出て仕事をこなし、また部屋に戻る

男の見た目自体はどこにでもいる冴えない男なので怪しまれるどころか、誰ひとり目もくれない

コソコソする必要もないため、はたから見ればなんの変哲もない一人暮らしの独身男だ

仕事をこなし、部屋に戻った

ふとみると依頼が来ていた

「なんだ、連続かぁ…」

そんなことをぶつぶつ言いながら依頼を確認して男は目を丸くした

「どういうことだ…?」

そこに書かれていた名前は紛れもなく自分の名前だった

ご丁寧に日頃の生活パターンなども書かれていて、特徴や見た目、普段の服装までもが事細かに記されていた

ただ男はすぐに少し安堵した

1番ばれてはいけない、自分が殺し屋であるということだけはどこにも記されていなかった

ただその代わりに最後の文章に「確実に殺してください」と書かれていた

「いたずらかぁ…」

とは思うものの、なぜここまで自分の全てを把握されているのか、考え出すと妙な寒気がした

ピロリロリロ ピロリロリロ

パソコンにメールが来ていた

件名:先ほど依頼したものです

内容:先ほどの依頼、もう大丈夫です

「なんだこのメール…」

どういう意味で大丈夫なんだ、もしかしてこの依頼主はもうすでにおれのことを見つけていて自分で殺すから大丈夫ってことなのか?

それとも、ただの間違いメールだったということか?

男は半ば混乱していた

ドンドンドン ドンドンドン

男は少し悲鳴をあげた

ドンドンドン ドンドンドン

家賃の取り立てにしては無言すぎる

ただ扉を叩くだけ

「どっ、どちらさまですか?」

しかし、その質問にも応答はない

「だっ、誰だよ!黙ってないで答えろよ!」

男は恐怖と不安が入り混じった強い口調で叫んだ

しかし、その質問にも応答はない

ただただ

ドンドンドン ドンドンドン

と、扉を叩く音だけが響いていた

男は震える身体を抑えながら、そっと扉の穴から外を覗いた

「なっ、なんだ、何もいないじゃないか」

少し安心し、下に目を向けたらその時

ドンドンドン! ドンドンドン!

今までで1番強く扉が叩かれた

男は飛び上がり腰が抜けたような形で後ろに倒れこんだ

その時そいつはいた

ポストの穴からこっちを覗き込む血走った眼を

そしてその穴から黒く焦げたような腕を伸ばし扉の部屋側を叩く手を

あまりの恐怖に男の意識はそこで途切れた

ジリジリジリ ジリジリジリ

けたたましいアラームで叩き起こされた

「なんだもうこんな時間か」

男は枕元にある眼鏡をかけながらパソコンの前に腰かけ、お気に入りのページを開いた

それはとある掲示板だった

「今日で56回目、あいつのやりたいことがまだ掴めずにいる、ただ確実にあいつは近づいてきている、誰でもいい、これを見たやつは助けてくれ、俺はもう限界だ」

そんなことを書き込んでいるとメールが届いた

件名:無題

内容:やっとみつけたたたたたたたたttt

背後に気配を感じた、画面に映る血走った眼とともに

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