中編3
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再会した娘

愛は…私達の娘は、あの男に殺された。

暴行されて、海に棄てられた。

身体はバラバラに切り裂かれて、まだ右腕が私達の所に帰って来ていない。

まだ高校生だったのに。

将来があったのに。

ぜんぶぜんぶあの男が悪い。

あの男が私達家族を狂わせた。

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愛か殺されてから数日後の出来事。

私は悲しみに枕を濡らし、永遠のような夜を眠れぬまま布団で過ごしていた。

一時…

二時…

短針が徐々に動いていく。

夏を目前に控えた夜は寝苦しく、何度も寝返りをうっていた。

すると、私が仰向けになった瞬間、突然身体が硬直した。

腕はもちろん指の先も動かせない。

足がつった時の感覚に似ている。

ささ…ささ…

何かが布団に入って来る。

私は唯一動かせた目を夫の布団に向け、助けを求めた。

夫の顔を見ると、彼の顔は驚きの感情が支配していた。

私と同じで身体を動かせないのかピクリとも動かず、ただ瞳孔を開いて私の布団を見ていた。

私は夫のあまりの驚きように恐怖し、自分の布団に視線を戻した。

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手があった。

私の胸元に、青白い女の手が。

心臓が止まるかと思った。

でもよく見ると、それは紛れもなく愛しい我が子の腕だった。

私達は死んだ娘と再会した。

手は指を開いたり閉じたり、何かを訴えているようだった。

娘の腕が必死に何かを伝えようとする姿に、思わず涙が出た。

私は直感した。

あの男が憎くて憎くてたまらないんだと。

(安心して。私が愛の仇をとってあげるから)

そう心の中で呟くと、腕は暗闇の中に溶けていった。

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次の日から私達夫婦は、より一層あの男の死刑を求めるようになった。

裁判で必死に心の内を叫び、今まで避けてきたマスコミにも積極的に取材を受けるようになった。

その間、愛の腕は毎晩私の布団に現れた。

その度に私達はあの男への復讐を誓い合った。

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その甲斐あってか、ついに私達は死刑を勝ち取った。

裁判中あの男は顔色一つ変えなかったが、流石に死刑判決を受けた時には深くうなだれ、肩を震わせていた。

愛の仇をとることができた。

死刑執行がいつになるかは分からないけれど、私には充分すぎるくらいだった。

その晩は久しぶりにゆっくり眠ることができた。

愛も満足してくれたようで、姿を現さなくなった。

私には少しもの寂しくもあり、嬉しくもあった。

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そして今日、あの男の刑が執行されたらしい。

今日ほど人の死を喜んだことはない。

汚らわしい男には当然の結末。

愛も天国で喜んでくれているはず。

私は仏壇に手を合わせ、床についた。

一時…

二時…

どうしてか眠れない。

私はあの頃のように寝返りを繰り返していた。

すると、仰向けになった瞬間、突然身体が硬直した。

あの時と同じ。目だけが動かせる。

夫の方を見ると、彼も私に視線を送っていた。

ささ…ささ…

今度は足の方、それも布団の外に気配を感じる。

(愛…なの?)

2人で視線をそちらに向けると、それはいた。

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水を吸って膨らみ、所々皮が敗れて肉が露出した娘の腕

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を抱えるあの男。

(どう…して…?)

右手で愛の指先から切断面を撫で回している。

(やめて…愛に触らないで…)

充分に楽しんだ後、男は切断面を舐め始めた。

グチュグチュに膿んだ腕から体液が溢れ出てくる。

愛の腕は必死に私達に助けを求める。

しかし、私達は動けない。

男に触れられる度に腕は崩れてゆく。

(お願い…もうやめて…)

男は突然、私達に視線を向けた。

そして、口を動かした。何か言っているようだったが声が出ていなかった。

しかし、私は唇の動きと男の満面の笑みから何を言っているのか理解した。

「ありがとう」

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男と愛はスッと消えてしまった。

それからあの男も、愛の腕も、私達の前に二度と現れることはなかった。

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りこ様、ありがとうございます。
学校のグループ研究で骨格標本を作っていてふと思いつきました。

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