中編5
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燃えろ

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底冷えしそうな、寒い冬。

そこには1人の男が歩いていた。

両手には何に使うのか分からない満杯の重そうなポリタンクを握っていた。

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1ヶ月前、彼は会社でひょんな事から以前から仲の悪かった上司と口論をした。

その上司は穏やかな性格だったのに、今まで何度もこのような口論が起こっていた。

だが今までの口論はみんな上司が黙ってくれたおかげで特に問題になっていなかった。

しかし今回は彼がいつも以上に何度も心無い言葉を浴びせかけた。

それを見かねた同僚達や我慢の限界に達した上司が後になって会社の上層部に相談したのである。

元々の勤務態度が悪かった事もあり彼は辞職に追い込まれた。

男は生活保護で得たお金で食事もせずお酒ばかり飲んでいた。

今日が何日かも分からない状態で起きて酒を飲んで寝る生活を繰り返していた。

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ある朝、男はなんとなくテレビをつけた。

「さあ今日はお待ちかねのクリスマス・イブの日です!見てください!凄い人だかりですね〜」

女性リポーターがそう言った後カメラが『お楽しみ袋』とやらを売っているお店と行列を映し出した。「最前列にいる人はどれほど待っているのでしょうか?ちょっと伺ってみましょ」

プツン。旧式のテレビ画面が音を立て消えた。

男は面白くない気分になって手元に散らかった安酒を飲んだ。...気分が晴れない。

独り言を呟く。

「あ〜やっぱ外で気晴らしし〜よ〜おっと。」

返事をしたのは家に吹いてくるすき間風だけだった。

男はヨレヨレになったジャージを着て数週間ぶりに外に出た。

男はなんの気無しに外に出て歩いていた。

気がつくと

なぜか人だかりの中にいた。

来た道も分からないのだがそれよりも目の前の光景に圧倒された。

周りにいるのは幸せそうに話しをするカップル、孫に「あのおもちゃ買って!」とせがまれている老夫婦。

周りの人間は歳や性別がそれぞれ違うがみんな幸せそうに今を過ごしていた。

男はとにかくこの賑やかなこのショピングセンターから離れたくなり人の少ない場所に歩いて行った。

あてもなく歩いている内に男は猛烈な怒りが込み上げて来た。

「なぜ奴らは俺を陥れておいてあんな風に過ごしているんだ...復讐してやる!」

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錆びたブランコの横にある粗末なベンチに座ってそんなことをブツブツ呟いているといつの間か少年が立っていた。

ギョッとしていると、顔も見知らぬはずの少年が口を開いた。

「悪い事する人間には罰が当たるんだよ。」

shake

少年とは思えない不気味な口調だった。

「おまえはどこまで俺の話を聞いたんだ!」

そう言って男は殴ってやろうと拳を振るった...当たらない?

「後悔するよ。」

shake

そう少年が言うと同時に男の意識が途絶えた。

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目がさめるといつもの部屋だった。

「夢か?」

ハッと思い時計を見ると短針が6を指している。

午前6時などには通勤していた時にも起きた事は無かったので午後の6時だろうと検討した。まだ10月24日だった。

それを確認した途端また怒りが込み上げて来た。

「なんだってあいつらは...!」

なけなしのお金をひっつかんでガソリンスタンドに男はのそのそ歩いて行った。

今、満杯のポリタンクの中には大量の灯油が入っている。

今は冬という事もあり大量の灯油の確保も余り不審に思われなかった。

(燃えろ、燃えろ)

今にも雪が降りだしそうだったがどうでも良かった。灯油を買ったお金は本当は酒を買うお金であったことさえ頭になかった。

いま考えている事は『復讐』。それだけだった。

もしかしたらこの男は警察に捕まるとか、事件は成功するかなんていう事すらどうでも良かったのかもしれない。

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「燃えろ。燃えろ。燃えろ、燃えろ、燃えろ、燃えろ!」

そんな事をを呟きながらひっそりしたアパートに灯油をかけ古新聞を置きタバコを吸う為買った100円ライターで火をつけた。

残った灯油を適当に住宅にかけて燃やそうと近くの住宅街へ歩いて行った。

数分歩き適当な家たどり着いて灯油をかけていた男は遠くから消防車とパトカーのサイレンを聴いていた。

「もう少しで灯油をかけ終われるぞ...」

恐怖か酒か寒さか分からないがとにかく震えている手に向かってそう呟く。

途中で拾ってきたいつの日かの新聞を手にしながら100円ライターの火をつける。

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「おじさんもう遅いんだ。無駄だよ。」

振り向くと

shake

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あの少年が居た。

「ああ〜タイムアウトだったね。残念。」

少年がフッと目の前を消えた。

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その目の前に警察がいた。

咄嗟に男は逃げようとする。が...

「コラ!逃げんな!自分のやったことだろう!」腕を掴まれた。

男は自分の人生にトドメを刺したことを悟った。

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数時間後

外より暖かいはずの場所なのに外より冷たく感じる取調室にいるヒト達。

何回目のやり取りだろうか?

「貴方はなぜ放火しようと考えたのですか?」

「自分の周りにいる人達がみんな幸せそうにしていてむしゃくしゃしていたから、です。」

同じ質問を何度も受け正直退屈していた時だった。

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取調室をしていたヒトの顔が急にあの時の少年の顔になり言った。

shake

「悪い事をした人間には報いがある。自殺したら許されると思うな。今までやってきたことの償いはどうなってもしてもらうからな。」

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日が明けた、とある上司の家。

「今日はいよいよクリスマス!みんなクリスマスイベントを楽しんでいま〜す!」

テレビから目を離し会社では中堅の立場を持つこの父親は子ども達に目を移す。

年末になるとやって来るおじいやおばあから買ってもらったおもちゃで遊ぶ我が子を見ていると、自然とほっこりした気分となった。

「さて、ここからはニュースをお伝えします。昨日不審火の事件の容疑者である無職の男が昨夜8:30頃逮捕されました。取調中、急にある名前を叫びだした男は他の事件についての関連について取り調べを受けているという事です...」

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ゼロ様
コメントありがとうございます。
玄関のドアに鉈を振りかざしたオッサンがいたら私は20秒でズタズタにされそうです。(汗)
人に恨まれる事をしてないのに自分の都合で人を攻撃する人は怖いです。

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