短編2
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バスケットボール

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最悪だ。

体育館に明日提出する課題を忘れてきてしまった。

数学の先生はとても厳しく、課題をやっていないなんて言ったらどんな罰が待っていることか。

僕はすっかり日も落ちてしまった夜の通学路をひた走っていた。

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今日はバスケ部の練習があったのだが、どうやら練習着をエナメルバッグから取り出す際、プリントを収納しているファイルがこぼれ落ちてしまっていたようだ。

全然気づかなかったなー、今日中に終わるかなー、お腹へったなー、などと考えながら走っているうちに学校に到着した。

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校門はまだ空いていた。

職員室にも明かりが点っている。

僕は駆け足で体育館へ向かった。

体育館の明かりはもちろん点いていなかった。

バスケ部がいつも最後まで残るので、帰る際は戸締まりをすることになっている。

鍵を一つ生徒が順番に管理するのだが、運よく今日は僕が鍵を持って帰る番だった。

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体育館の入り口までやって来たところで、ふと異変に気づいた。

何やら体育館から物音がするのだ。

僕はそれがすぐにドリブルの音だと分かった。

戸締まりしたあとなのにいったい誰が……と不思議に思いながらも僕は鍵を開けて中に入った。

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夜だったが、月明かりに照らされて中は少し明るかった。

やはり誰かがいる。

人影がボールをドリブルしてゴール前まで持っていき、レイアップシュートを決めるのが目視できた。

「だれ?こんな時間に何してるの?」

僕はややきつい口調で問いかけた。

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するとその人影はボールをわきに抱えて、ゆっくりと歩み寄ってきた。

どうやら小学生ぐらいの少年らしい。

体操服に身なりを包んだその少年は小柄だった。

「ねえぼく、何でここにいるの?勝手に入っちゃいけないよ。」

様々な疑問が頭をよぎりながらも、僕は優しく問いただした。

「あのね、新しいボールが欲しいの。」

少年は言った。

その発言に少し拍子抜けしてしまったが、小学生相手だから……と大人の応対をしようとした。

「そのボールもまだ全然使えるんじゃないかな。」

そう僕が言った瞬間、少年は僕に向けてボールをパスしてきた。

あれ、なんだか妙にごつごつして……

「ひいぃぃっ!」

僕は思わず声を出してしまった。

バスケットボールだと思っていたそれは、

shake

人の頭だった。

長らくボールとして扱われ続けてきたのであろう、キズだらけで顔は原型を留めていなかった。

僕が腰を抜かして座り込んでいるところに、少年は近づいてきた。

そして嬉しそうに言った。

「お兄ちゃん、新しいボールありがとう。」

少年の手には月明かりに不気味に反射した刃物が握られていた……

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